俺の目標
「朋花×航」の5話目です。
ではどうぞ。
教室の窓際の机に、行儀悪く座って窓からグランドを眺める。
ちなみにここは、俺の席じゃない。
野球部とサッカー部がネットで隔てられ、そのさらに向こう側の長細いスペースで、陸上部が練習をしている。
あまりに遠過ぎて、どれが朋花かなんて分かりゃしない距離だ。
朋花に「今日は一緒に帰ろう。」と誘ったものの、部活なんかに入ってない俺はする事も無く、時間を潰す場所なんかも別に無くて、それを見越した朋花が愛用の音楽プレイヤーを貸してくれた。
見た事のないロゴの海外製で、かなり操作に癖があるからと、部活に行く前に使い方をかなりしっかりレクチャーしてくれた。
けど、まぁ、イヤホン耳に突っ込んだまま、ランダムに流れる曲を聞き流して、ぼんやりしてるだけだから、そんなに使い方の説明いらなかったけどな。
しっかし、見事にロックばっかりだな。
そういう雑誌を読んでるのは知ってるけど、聞くのもこんなんばっかなんだな。
激しいドラムのリズムと、響き渡るギターのメロディー、音を締めるベースの低音、そして見事に男の声ばっかのボーカル。
延々聞いてると、俺に嫉妬させる気でこれ置いてったんじゃないだろうなって、妙な事を考えてる自分がいて・・・思わず、んな訳ねーだろって、自分で突っ込んだ。
「頑張るよなー、朋花。」
「そう?」
「朝練に、帰りもこんなだし。勉強もちゃんとしてんだろ?」
「当たり前じゃん。航が何もしてないだけだって。」
「・・・だよなー。」
教室でぼんやりしてる時に、それを考えていた。
帰宅部は帰宅部なりに楽しいんだが・・・聡太ん家に、俺ん家じゃ見れない物持ち込んでの鑑賞会とか時々やってたし。
あいつ最初は嫌がるくせに、結局は見てんだよな。
本当こういう時は、親の帰りが遅い家って便利だよな。
うちは母ちゃんずっといるから、んなもん見る隙なんかありゃしねえ。
あいつのとこみたいに、自分の部屋にテレビなんか無ぇしさ。
しっかし、それもやり辛くなったな・・・
二人がようやくまとまって・・・まさか、こんな所に影響してくるとは思いもしなかった。
「航、自覚があったんだ。」
「・・・あるよ。」
まぁ自覚したのは、ついさっきだけどな。
「何かやる事ねーかな?」
それまでは頭に花が咲きそうなくらい、何も考えて無かったけどな。
窓の向こうの芥子粒みたいな一生懸命な朋花を見てると、俺本当に何やってんだろう?・・・って、本当はどれが朋花か分かんなかったけど、みんな必死に走ったり飛んだりしてたんだと思う。
「やる事って・・・部活か、バイトくらいじゃない? そうだ後は勉強して成績上げるとか?」
「・・・何かやだ。そういうんじゃなくてさ、何か熱中できるもんねーかな?」
「熱中ねえ・・・あ、それじゃぁバンドやんない?」
「バンド?」
「今日貸したやつに、いっぱい入ってたでしょ?」
そう話す朋花は、目をキラキラ輝かせ身を乗り出して来て、俺は思わずたじろいだ。
「あ、あぁ・・・それしか無かったな。」
「うん、だからバンドやろう。」
「・・・何が『だから』? 何で断定?」
「えー、だって、バンドマンの彼女ってポジション良くない?」
「・・・そんな理由かよ?」
「で、メジャーになってくれたら、私は嬉しいよ? 鼻が高いよ? ほらほら彼女喜ばせてみない?」
朋花は、本当に楽しそうな顔してて、実現したら本当に喜んでくれるんだろうなって、そんな夢みたいな話に、ついこう返事をしてしまった。
「そうだな・・・じゃぁ考えてみるか。」
「へ?」
こう言わせた本人は、逆に驚いて動きを止め、大きく目を見開いた。
「けど、俺バンドよく知らねぇからさ、教えてくれよ?」
「・・・あ、うんいいけど、本気?」
「朋花が喜んでくれるなら、本気でやるよ?」
モテたいって動機でバンド始めるヤツはいっぱいいるんだ。彼女を喜ばせたいからって動機だって、おかしかないだろう?
戸惑いながら見上げてくる朋花に笑いかけ、また不意打ちでキスをした。
そしてその直後、キキーッという甲高い耳障りな音と、その後に、
「コラーっ、安田!! 何やってんだお前っ!!」
っていう覚えのある怒声が、後ろから聞こえた。
以前にうっかり航と朋花の未来を、ノリでやってしまったので
そこへ向けての布石です。
えぇ、全然違う話で。
パラレル設定でもいいかなーとか、一瞬思いはしたものの、
やっぱりそれもなーって。