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そう遠くない未来。  作者: 薄桜
朋花×航
19/26

姉と親友

ここから「朋花×航」のお話です。


前回、朋花が頑張ったので、今回は航に頑張ってもらいます。

ではどうぞ。

「私、今日から聡太と付き合う事になりました。」

外が暗くなってきた頃に帰ってきたねーちゃんは、そう唐突に宣言した。

あれは、5月半ばの土曜日だった。

少しソワソワしてて、でも堂々として、そして、かなり嬉しそうで、あれは相当舞い上がってたよな。

「・・・そう、良かったわね。」

夕飯のおかずの筍の天ぷらを、皿に盛り付けていた手を止めて、呆気にとられながらもそう言った母ちゃん。

あまりのショックに口をパクパクさせるものの、言葉の出て来ない父ちゃんと・・・リアクションはそれぞれだ。

そして俺は『やっとかよ』そう思うと同時に、『とうとうこの日が来た』と・・・そう思った。

多少複雑なものはあるものの、姉と親友・・・このごく身近な二人の事を、

きっと誰よりも、そして影ながら応援してきた身だ。

もちろん歓迎するしかないだろう?


だが、この時の俺は何も言えなかった。

ねーちゃんが、母ちゃんと詳しい話を始めたり、父ちゃんが色々あって、タイミングを逃したって事もあるけど・・・そうじゃなければ、ちゃんと言えたか? って聞かれると実は自信が無かったりする。


でもこれだけは、はっきり言える。

これで不機嫌なねーちゃんの八つ当たりから解放される。

それは嬉しい!



週明けの月曜日。

いつもの朝のように家を出ると、

「おはよう。」

って聡太が声をかけてきた。

今日はいつもと違って『遅い』じゃなかった。

一瞬驚いて、返事を返すのを忘れて聡太をまじまじとてしまったが、

目を伏せて咳払いをし、少し改まる姿を見て、やっとピンと来た。

報告ってやつか? そう確信して、俺は聡太の言葉を待った。

「あのさ、航・・・僕と葵姉・・・付き合う事になったから。」

ビンゴだ。

「土曜からだろ?」

間髪入れずにそう言ってやると、聡太は唖然としていた。

そりゃそうだろうな。

聡太の事だから、どう話そうか、どう切り出そうかって、きっと色々考えたはずだ。

「知ってるのか?」

さっきまでのテンパってた部分はどこかにいって、素・・・を通り越して、かなり間抜けな顔してた。

朝からいいもん見れたなって、内心でほくそ笑む。

が、内心だけでは無かったらしく・・・少し聡太の目が怖い。

「あー、夕方帰ってきたねーちゃんが、家族の前でいきなり宣言したんだ。」

「はっ?」

「宣言。今日から聡太と付き合う事になりました。って、父ちゃん声が出ないくらい動揺してて、哀れだったぞ。」

「・・・そう。」

聡太はかなり居心地悪そうにして、少し引いてるよな?

俺もあの姿には引いた。娘を溺愛って印象は無かったんだがなー、正直以外だった。

「あぁ、おまけに後で泣きつかれた。いや、泣いてねーけど、今のお前はどんなヤツだって、しつこく聞かれた。」

「で? 何て答えたんだ?」

「何も。」

「何もって・・・答えてないのか?」

「あぁ、あんまりしつこいんで、途中から母ちゃんに怒られてた。んで、聡太は好青年だから心配無いってさ。お前、うちの母ちゃんの信頼厚いもんなー。」

聡太は、うちの母ちゃんに、相当気に入られている。

小さい頃から可愛いって言われてるし、きちんとした性格で、成績も良くて、何より毎朝俺を迎えに来るその根性が買われている。

いつも俺が遅く出て、いくら遅れそうになろうとも、変わらず翌日には同じ時間にチャイムを鳴らす。

聡太のその行動は、俺からしたら、ねーちゃん目当てだって分かってるけど、母ちゃんから見たら『友達思いの良い子』だったらしい。

「そっか。」

少し安堵した様子で苦笑いする聡太に、俺は一言だけ言ってやった。

「遅せえよ。」

毎朝のように言われてきた、この言葉。

これ一度、聡太に言ってみたかったんだ。


聡太は一瞬妙な顔をしたが、意味が分かると、気まずそうに目を逸らせやがった。



教室に入って、女子の友達と一緒にいた朋花の所に真っ直ぐ向かった。

「朋花、朋花、ちょい話あんだけど。」

「あ、航おはよう。何、話って?」

「ちょい、こっちこっち、」

さすがに関係ない他の女子の前だと、聡太が怒るだろう。

俺としてはその方がいいと思うんだが、テレ屋だからな・・・。

だから、少し強引にながらも、朋花を聡太の席のとこまで引っ張って連れてきた。

「聡太がとうとう、うちのねーちゃんとくっついた。」

後ろから聡太の両肩に手を置いて、そう告げた。

朋花だってずっと気にしてたんだ、当然報告の義務はあるだろう?

「・・・何、この紹介?」

聡太は首を捻って半眼で俺を見上げてくる。

・・・気にすんな、めでたい事じゃないか。

「あ、本当? それはおめでとう。」

ほら朋花も祝福してる。多少近くのやつらの視線も感じるが、それは些細な事だ。

きっとお前にゃプラスになる。

ここから噂が広がれば、諦めるやつも出て、その分身軽になれるだろう?

「・・・そっか、じゃ本当に未来の義兄上に近付いたね。」

そう言った朋花にニヤリとに笑いかけられ、俺は再び複雑な気分に囚われてしまったらしい。

俺は、どんな顔してたんだろう?

ちなみに聡太は、赤い顔して俯いていた。

「シスコンはみっともないよ。それとも私よりお姉さんがいい?」

そう朋花が言ってきて、驚いた。

「航も、うちのバカ兄貴みたいになる? 堂々とシスコンやる?」

「・・・それは勘弁してくれ。」

俺、今あの人を思い出させるような顔してたのか?

・・・あれはきつい。

もしああなったら、人としての何かが終わるような気がする。

「それは嫌だ・・・俺、朋花が良い。いや、俺は別にそんなんじゃねーよ。」

・・・たぶん、まだもう少し覚悟が足りないだけだ。

実はこの話が、時系列的に一番最初です。

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