表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姪の妄想話の世界がガチの異世界だったが、戻るために頑張るし、姪はやらん  作者: siro


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

4

「キティ、何をしているんだ?」

「見ての通り、日向ぼっこです」


 公爵が怪訝な顔で屋根裏部屋の小窓から身を乗り出して、こちらを見上げている。その姿も絵になるなーなんて思いながら、屋根の上に座り込んでいた。

 まぁ、ちょっとした好奇心というか実験というか、本当に位置情報がバレているのかな?っていうね。そしたら公爵がちゃんと見つけてきましたよ。


「はぁ、危ないから降りてきなさい」

「えーすごい眺めがいいのにー」

「滑り落ちたら死ぬぞ」

「んー死ぬんですかね?」

「当たり前だろう」

「でも、この体ってこの世界で作られた、なんだろう、器というか」

「器といっても、今は君の体だ。落ちれば痛いし死ぬぞ。足が折れたら、魔具で直せるが、馬車一個分の金が必要だ。君に払えるのか?」

「わぁお」

「人間の体一個分はかなりの金額になる。だからこそ、神殿のやつらは逃げ出した素体を探してるんだ、分解して再利用するために」


 にっこりと黒い笑みを浮かべる公爵をみてしまい、思わず身震いしてしまった。怖い怖い、悪役顔だよ。


「おりまーす」

「よろしい」


 ゆっくりと屋根を伝って小窓にたどり着くと、公爵の腕が伸びて腰を捕まえられてしまった。

 軽く持ち上げられて回収されたかと思ったら、おろしてもらえずにそのまま屋敷の中へ。


「あの、おろしてください」

「猫のようにうろちょろしすぎだ。少しは大人しくしていろ」

「いやー暇でして」

「歌の練習をしていればいいだろう」

「人気な曲は覚えました。使用人たちにも好評です」

「ダンスの練習をしろ」

「ダンスなんて習ってどうするんですか? パーティーに出るわけでもないですし」

「これから呼ばれることも増えるだろう」

「歌を披露することはあってもダンスはないですよ。てか踊りたくないです」

「はぁ、来週は神殿の奴らが王都に向かうために移動で立ち寄る」

「へー」

「この屋敷に泊まるんだ」

「それって……」

「君が逃げ出した招致生成した人間だとバレたら捕まるだろうな」

「ひぃ!」

「先触れ部隊の人間が今週のどこかで来るはずだ」

「つまり?」

「今週から2週間大人しく部屋で過ごせ」

「了解です」


 部屋の前に着くとやっと降ろされた。

 公爵はそのまま仕事に戻るようだ。さて、うろちょろするのは危険そうだ、誰か話し相手になってもらうか、もしくは本を持ってきてもらった方が良さそうだ。

 どうしようかと、ベッドの上でゴロゴロしていると、アイシェンが部屋に入ってきた。手にはそこそこの大きさの箱。


「キティ様! 魔具キットもってきましたよ〜!」

「え!! マジ?!やったー! ありがとう!」

「いえいえ〜! ちょうど、ジェンソンさんの所で捨てようとしてたんでもらってきました! 少し組み立てて飽きたそうです」

「マジか」


 箱を開けてみると、石と青い石、板が2枚とインク、そして万年筆のようなペン、そしてプラモデルのように細かいパーツがいくつかあった。説明書を読むと、重要なのはインクと青い石だ。これは言うなればコードと電池に近い。

 組み立てる部分はそれを補助する部品。

 ちょうどおとなしくしていろと言われたので1週間ほど工作に没頭してみた。

 しかも説明書以外にも、魔具入門編なる本も入っており、色んなジャンルのお話と偉業が載っていた。人体はかなり解明されたらしく、脳波の電気信号を取り出す魔具もすでにあるとか、コレで犯罪者の記憶を抜き出すことが出来るらしいけど、拒絶反応が大きすぎると廃人になるとか。


「こわっ」


 さてこの魔具キットは、簡易転移らしい、子供向けの学習用のものらしく、起点と終点の台座を作って発動するのだ。

 特殊なインクで魔法陣みたいな回路記号を描いてエネルギーの出力を上げるらしい、転移するのに必要なのは、容積と構成物質に近いものを把握していないといけないらしい。この構成物質みたいな名称がわからないが、説明書に書かれている通りに書いて、起点の場所に石を置いて起動すると本当に石が魔具の上を瞬間移動して終点の上に現れた。


「すごっ」


 これって応用すれば、没収された私の荷物も回収できるのではないだろうか? 

 これは子供用のキットだ。事故が起こらないように出力が弱めに設定されているか、制限が加えられているはず。

 説明書を見ながら、回路記号を弄くり回し、起点と終点の台座も弄った。

 これを分解すると2枚を一枚に重ねてあった、重なっているところにすでに回路記号が書き込まれていた。専門書と照らし合わせると、台座はお互いにどこにあるかを測るモノで、起点と終点を認識し合うように書かれているために、自分で追加で書く回路記号の量が減っている。


「荷物取り返したいなー」


 応用としては、終点の台座だけで、目的のものを終点に引き寄せて移転させる事だ。そのためには私の荷物を探す記述を書かないといけないんだけど……たぶん空間軸を測定して、終点の台座に移動させる。部屋の中にあるものでまず試してみる。

 まずは石をお部屋の中に置いて、ちゃんと台座にくるか。コレは何度もやって微調整後に成功した。次にお花や花瓶。

 コレは失敗すると物質が真っ二つになってしまったり花瓶の水だけその場に残って水浸しにしてしまったりした。証拠隠滅を測るのに苦労したわ。

 簡単な物体一つであれば可能だけど、流石に荷物全部は厳しそうだった。


「んーー難しい。石を袋に包んでやるといきなりできなくなるのなんで? 意味わからん。んー荷物は諦めるしかないのかー? んーーーあ、コレって逆のことも出来るのかな? むしろその方が良いのでは? 元の世界に物を送るのが可能か?」


 起点の台座を弄り、部屋の中であちこちに石を転移させてみる。コレは簡単にできた。次に紙を送るのも成功。


「コレで姪に手紙を送れれば、私が生きてることを教えられる」


 とりあえず手紙をしたためてみた。ここには漢字とカタカナでかいてあるので公爵に見つかっても解読は出来まい。


”私、姫ノ世界二居ル。姫死亡カラ4年後ノ世界ナリ。私ノ肉体ハ ソチラ二 マダ アリマスカ? チーチャンヨリ ^>ω<^ ”


 サインのように描いていた猫の顔を書いて、図書館で借りてきた専門書を見ながら、地獄表記を探して座標ぽいのを見つけたので、勘で書いて、ちょっとずつ変えながら毎回送ってみた。


 時々、公爵に呼ばれて歌を披露して、魔具をいじっての繰り返しの日々を送っているとある日、終点の台座の上に一枚の手紙が現れていた。

 慌てて見れば、日本語で書かれていた。


”ちーちゃんの肉体は今病院にあるから戻ってくればすぐに魂を戻せる。こちら、ちーちゃんが植物人間になってから2年経ちました。火にあぶれば、回路記号が浮かび上がるから、それを描いて!”


「嘘でしょ?! こっちにきてからまだ3ヶ月だよ。回路記号!? 蝋燭蝋燭」


 夜にこっそり蝋燭の火で手紙を炙ると、本当に回路記号が出てきた。魔具キットのペンを使って姪っ子が教えてくれた通りに書き込んでいく。

 かなり細かく書かれていて間違いないように丁寧に起点の台座に追加で書き込んでいった。エネルギーは足りない可能性があると思い、こっそり廊下のランプの中に入っている青い石を盗み出した。


「よし、やるか」


 何度も回路記号は確認した。姪っ子の手紙を信じるしかない。

 起動の言葉をつぶやけば、台座から強い光が飛び出した。今までこんなことはなく、光は窓から外に漏れている。もしも外に人がいたら、誰か来てしまうと思いつつも、まるで床が抜けたかのようにぐらりと体が傾いた。

 そのあとはまるで台風の中の船のように激しく揺られて、気持ち悪く、何かに捕まりたくて足掻いていると、背中から落ちる感覚と共にバンっと打ちつけたような音と共に目が覚めた。


「こっ……」

 声を出そうとしたらカサついて出ないし、口に何かつけられていた。視界は悪くて、瞬きを何度かするとやっと焦点があい、白い天井とカーテンが見えた。

 そして部屋の中に響く、テンポの良い電子音。

 首を少し動くだけで億劫で、でも確認したくて顔を動かすと部屋に入ってきた看護婦と目が合った。


「早乙女さん! 目が覚めたのね!」


 看護師さんが駆け寄り、私と目線をあわせると嬉しそうに頷いて「先生を呼んでくるわ」といって出ていった。

(戻って来れたのかな? もしくは今までのは全部夢?)

 そう思いながらふと視界に入ったのは、鶴の折り紙だった。その鶴には不思議な模様が書かれているのが折り目の間から見えている。

(ぁ……)


 ガラスを優しく叩く音が聞こえ、目線だけで周りを見回してみると、視界の端っこに大きな窓ガラスがみえ、その向こう側には大きくなった姪っ子が中学生の制服をきて立っていた。

 手を挙げて、手を振りたいのにまるでベッドに縫い付けられてるかのように腕が重くて驚いていると、医者と看護師が戻ってきた。


「早乙女さん! 私の声は聞こえてるかな?」

(聞こえてるからそんな大声で言わないでほしいだけど!)

 声が出せず、医者を見上げると笑みを浮かべられた。

「どうやら聞こえてるようだし、視力も問題なさそうだね」


 そのあとは、検査や家族が面会に来たりと騒がしかった。2年間動いてなかった体は凝り固まっていて、リハビリがすごく辛かった。

 そもそも、人に会うだけで疲れるとか、こんなに軟弱になるのかと驚くほどだ。やっと普通の病室に移動すると姪っ子が遊びに来てくれた。


「ちーちゃん!! 無事でよかったよー! 魔具が上手く動いてよかった」

「わーーやっぱり夢じゃなかったんだーあの世界!! みーちゃん、ありがとう〜!! みーちゃんのおかげで帰って来れたよ〜!」


 ぎゅーっと抱きしめ合うと、やっと元の世界に戻れたという実感がやっと味わえた。


「えーん卒業式と入学式に参加できなかったー! 悔しぃ!!」

「もう! それよりも向こうのこと教えて」


 今は姪っ子と二人っきりだ、今のうちに話してしまおうと、とりあえずかいつまんで説明すると、姪っ子は頭を抱えた。


「しまった、荷物のことすっかり忘れてた。現場から消えてたんだった!」

「やっぱり向こうにあるのは、やばいの?」

「やばい、媒体にされる可能性ある」

「あのさ、みーちゃんは元の世界には戻りたくはないの?」

「んー小さい頃は戻りたかったけど、流石にこの歳ではもういいかなー。こっちの方が楽しいし、娯楽は断然この世界の方が多い」

「あらら」

「それに、死んだのに呼び戻そうとするってどうの? 倫理的におかしいじゃん。無理無理。しかも公爵も私の信者だったなんて、がっかりだわ」

「やっぱり信者なの?」

「信者しか、私の絵姿部屋つくらないわよ。しかも宝石絵画でしょ? やばっ」

「そうだったのか、一応みーちゃんの情報はフェイクも混ぜて話してたんだー。年齢はもっと幼いっていうことにしといた。あと髪の色以外は絵姿のままですって言っといたわ」

「ありがとう! 今回初めて知ったけど、こっちの世界と向こうの世界では時間の流れが違ってたから、招致の回路記述が合わなくなるはず」

「そうなんだ。あれ難しいよね、質量なんてわかんないよ。あ! 戻ってくる時に書き込んだ魔具が公爵の家に残ってるからこっちにくる可能性は?」

「それは平気、通り道は封鎖してるから送れないよ」

「へー……向こうで私も魔具いじってみたけど、いまいち理解できなかったわ。そもそもこっちでも発動できるんだね?」

「んー正確には無理だったよ。今回できたのは、ちーちゃんが手紙を送ってくれたから、あの紙の素材はこの世界にはない物質で、あれ自体が魔具に利用できる物質だったんだよね」

「へー」


 さっぱりわからん。姪っ子がそのあとも説明してくれたが、右から左へと聞き流してしまった。


「まーようは、キック処理しかしてないの。ちーちゃんに渡した回路記号が実際の稼働部分。プログラミングのバッチ処理みたいな感じ」

「みーちゃんの口からプログラミング!!」

「今学校で習ってるんだー」


 そのあとは今の学校生活の話に変わった。

 お姫様発言は今はしていないらしい、流石に中学でそんなことを言ったら厨二病と揶揄われてしまうのは嫌だとか。


***


「はぁ、ちーちゃんが無事に戻ってきてよかったー。あとは荷物を回収するだけだなー」


 私を庇って、植物人間状態になったちーちゃん。でも、私は魂だけ移動したのがわかった、微かに見えた淡い光、誰かが招致生成したんだ。


「せっかくこの世界で平和に暮らせてるのに、邪魔しないでほしいなー」


 ての中にはちーちゃんが送ってくれた手紙が1枚ある。元々は、数枚届いていた、2枚は元の世界と繋げるために使ってしまった。残り3枚は荷物回収に使いたいが。


「どうして荷物は移動できたんだろう。簡単な物質以外は難しいはずなのに……」


「ご主人様、キティ様が動きません」


 床に倒れ込んでいるキティを執事がゆするも反応がなかった。


「魂が抜けているな……どうやら、先程の光は魔具が発動した物だったんだろう。逃げられたようだ」


 魔改造した魔具キットを手に取りながら公爵は笑みを浮かべた。

 書き足されたものは、かなり出来の良いものだった。


「この回路記号の美しさ、姫のものだろうな……いつのまにやりとりしていたんだ? まぁ、地獄の世界では魔具のメイン処理は使えないようだが」

「どうされますか?」

「魂の行き来は可能だということは、キティで実証された。ならば向こうにも器をうまく作れれば、私もいけるということだ」

「危のうございます!!」

「ははは、冗談だよ」


 それに、自分が実験しなくても、誰かが率先してやってくれるからね、と独言ると、キティの体を丁寧に抱き上げてベッドに寝かせた。


「神殿に返されますか?」

「いや、またキティが来た時のために取っておくよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ