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58話--決勝戦--

 七海の戦いは――正直、私の想像よりもずっと、あっけなく終わってしまった。


 妙に張り切っていた七海は、まるでウォーミングアップでもするかのように軽い足取りでリングに上がり、そのまま全員を“秒”で沈めた。

 観客席にいた誰もが、何が起きたか理解できず、ほんの数秒だけ――東京ドーム全体が水を打ったように静まり返る。


 けれど沈黙は長く続かなかった。

 遅れてやってきたどよめきが、波のように押し寄せ、やがてそれは歓声へと変わる。

 評価と驚愕が混ざった、妙な熱量を帯びた拍手が七海へと注がれていく。


 ……うん、大丈夫そうだ。やりすぎた感はあるけど。

 観客が楽しんでくれているなら、興行としては問題ない――はず。


 続く三回戦、四回戦も、私たちは沙耶と七海をエントリーした。

 結果だけ言えば、どちらも危なげなく、あっさりと勝利。

 途中から私は「これ、私の出番ある……?」という、何とも言えない置いてけぼり感に襲われていた。


 決勝は三組によるリーグ形式。

 総当たり戦で二勝したパーティーが、このブロックの優勝となり、別ブロックの優勝パーティーと最終決戦を行う――という段取りだ。


「決勝はお姉ちゃんエントリーする?」


 沙耶が、わくわくを隠しきれていない顔でこっちを見る。


「うん。三番目に入っとこうかなって」


「承知っす! 先輩には順番回さないようにウチらで終わらせるっすね!」


 いや、そろそろ私も戦いたいんだけど――と喉元まで出かかった言葉を、飲み込む。

 楽しそうに作戦を立てている二人を見ていたら、水を差すのが申し訳なくなってしまった。


 時間が近づいてきたので、私たちは控室を出て会場へ向かった。

 どうやら既に決勝リーグの入場アナウンスは始まっていたようで、通路を抜けた瞬間、耳を打つような歓声とスポットライトの海が視界に広がる。


 ――今度こそ、私の出番が来るのか?


 そんな淡い期待を胸に抱いたのも束の間――。


 来なかった。


 一パーティー目は七海が、一パーティー目のメンバーを、さっきと同じく“まとめて片付け”にしてしまい。

 二パーティー目は沙耶が、派手さを抑えつつも、きっちり瞬殺で勝利を収めてしまい――。


 結局、私の足元に回ってきた順番は、一度も巡ってこなかった。


 こうして、私たちのいるブロックは『銀の聖女』の優勝で幕を閉じた。

 あとは、別ブロックの決勝リーグが終わるのを待ち、その優勝パーティーと戦うだけだ。


 噂によれば、『開拓者』も順調に勝ち進み、決勝リーグまで駒を進めているらしい。

 口だけではなく、実力もそれなりにあるようだ。


「七海さん、最後はアレしちゃおうか?」


「うっす、承知っす!」


 例によって、沙耶と七海がこそこそと相談を始めている。ろくでもないことを企んでいる顔だ。

 私は会場のベンチに腰掛け、ストールの下で軽く肩を回しながら二人を眺めていた。


 そうこうしているうちに、私たちが入ってきた通路とは別の入り口から、六人組が堂々と歩いてくるのが見えた。


 『開拓者』だ。


 会場のボルテージが一気に跳ね上がる。

 名前を呼ぶ声と、黄色い声援と、野次のようなものが入り混じり、もはや何を言っているのか聞き取れないほどの騒がしさだった。


 そこに、アナウンスの声が重なる。


「それでは! 最強パーティー決定戦、個人部門最後の試合を開始しようと思います! ……が、その前に両者のリーダーに意気込みを聞いていきましょう! 圧倒的な強さでAブロックを蹴散らした『銀の聖女』からどうぞ!」


 司会者が、マイクを片手にこちらのベンチへ駆け寄ってきた。

 そのまま当然のように、私へマイクが差し出される。


 ……あまり、良い思い出がないんだよね、こういうの。


 前も、ちょっとコメントしただけで、変な解釈をされたり煽り合いになったり――散々だった記憶が蘇る。

 できることなら誰か他の人に任せたい。

 沙耶と七海に助けを求めるような視線を送ってみたが、二人とも綺麗に首を横に振った。


 助け舟は、ないらしい。


「えっと、ここまで来れたのはメンバーの沙耶と七海のおかげです。二人が強くって私は戦ってないけど、最後ぐらいは私の出番があるといいなぁ。と思います」


 一応、無難なコメント……のつもりで言ったのだけれど。


「盛大な煽りありがとうございます!! 『銀の聖女』リーダーと戦いたくば先に二人を倒せってことですね!! ではBブロックを難なく突破した『開拓者』のリーダーからコメントを貰いましょう!」


 何故か司会者に全力で煽りとして回収され、会場がざわついた。


 煽ったつもりは一ミリもないんだけどなぁ……と沙耶と七海の方を見れば、二人とも椅子に突っ伏して腹を抱えて笑っている。


「お姉ちゃん、自然に煽るよね。その気がないのが本当に面白い」


「えぇ……私としてはありきたりな事と事実しか言ってないんだけど」


「めっちゃ煽り効いてるっすよ! 相手さん顔真っ赤っす!」


 七海が肩を震わせながら『開拓者』のベンチを指さした。


 視線をそちらに向けると、リーダー格の金髪の男が、分かりやすいほど顔を真っ赤にしていた。

 耳まで真っ赤、とはこのことだ。

 ……謝ったほうがいいかな? いや、今更か。


「では! 『開拓者』のベンチまでやってまいりました! 『銀の聖女』はああ言ってましたけど――」


 司会者が、今度は『開拓者』のベンチへ向かい、マイクを向けたその瞬間――。


 リーダーの男が司会者の手からマイクを乱暴に引ったくり、そのまま私を指さして怒鳴った。


「皆さんは見ましたか!? 『銀の聖女』が戦っている姿を! 俺はッ! 本人が戦っているのを見たことがない!! ミノタウロスを倒した英雄!? それは自称しているだけでは?」


 声の通りがよく、抑揚も上手い。

 それなりに場慣れした喋り方で、会場の空気を一気に自分の方へ引き寄せていく。


 会場が、すっと静まり返った。


 ……まあ、客観的に見れば、あながち間違いではないのかもしれない。

 実際、世間に出回っている映像の中で、私が戦っている姿が残っているのはミノタウロス戦ぐらいだ。

 他のパーティーみたいに、ダンジョンの記録媒体を持ち込んで動画撮影したり、そういうのはしてこなかった。


 男は勢いそのままに続ける。


「俺は断じて認めない。『銀の聖女』のリーダーは強くなんてない。アレは政府の作った偶像だ」


 吐き捨てるように言って、男はマイクを司会者へ突き返した。

 ついでと言わんばかりに、私へ向けて中指を立ててくる。


 ――あまり、自分のことでは感情を表に出さないようにしてきた。

 回帰前のこともあって、極力冷静でいるように努めてきたつもりだ。


 けれど、これは。


 これは、流石に、頭に来た。


「沙耶、七海。悪いけどエントリー変更してくる」


 立ち上がりながらそう言うと、沙耶はすぐに理解したように頷いた。


「……お姉ちゃんが出るのが一番だよね。私も腹立ってるけど」


「ウチもっす。まあ、沙耶ちゃんと話して最初っからウチらは棄権する予定だったんで気にしなくていいっす」


「ありがとう。行ってくる」


 二人の言葉に背中を押されるようにして、私は実況席へ向かった。

 規定上、直前のオーダー変更は上から文句を言われる案件ではあるのだけれど――。


 事情を説明し、「私一人で出る」と告げると、スタッフは一瞬だけ目を丸くし、それから苦笑して頷いた。


「……数字、取れそうなんで、上も文句言いませんよ」


 とのことだ。

 興行的な事情も、たまには役に立つらしい。


 場内アナウンスが、最終試合の開始を告げる。

 『開拓者』は六人フルメンバーでエントリーしたようだ。


 私は支給された木剣を手に取り、中央のフィールドへ歩き出す。

 観客席から、ざわめきとどよめきの混ざった声が降ってきた。


「えー、『銀の聖女』からオーダー変更の申し出がありました!! 『銀の聖女』は一人……一人です! なんと一人のみの登録です!!」


 司会者が声を張り上げると、会場の熱が一段階跳ね上がるのが分かった。


 私は気にせず中央まで歩き、六人並んだ『開拓者』の前に立った。

 六対一。

 数字だけ見れば、圧倒的に不利なはずなのに――不思議と恐怖はない。


「おやおやおや。これはこれは『銀の聖女』様じゃありませんか。俺の演説が頭に来たのかな???」


 あからさまに嘲るような笑みを浮かべ、リーダーの男が言う。


「そうだよ。あまり力をひけらかすのは好きじゃないんだけど……今回は話が別。力を見せないと調子に乗る奴が出てくるんだなって」


「はっ! 言ってろ、偶像ちゃんがよォ!」


 歯を剥いて笑う男に、私は肩をすくめた。


「若いと威勢が良いね。私も見習いたいよ……そうだ。特別に手加減してあげる。私は技能を使わないよ」


「何だァ!? 負けた時の言い訳づくりかァ!?」


 売り言葉に買い言葉。

 これ以上言葉を交わす意味はない。私の中では、もう結論が出ている。


 視線で司会者へ合図すると、彼はすぐに空気を読み、試合開始の流れへと持っていってくれた。


「戦う前から早くも舌戦が繰り広げられています! ただし!! ここは最強決定戦! 力と力がぶつかり合う場所です!! 結果は戦いで決まります!! さあっ、1戦目の準備をお願いします!!」


 中央のフィールドで、私は一人、静かに息を整える。


 先鋒として出てきたのは、分厚い金属鎧を身にまとったタンクの男だった。

 高級そうな装飾が目立つ鎧だが、その分だけ重いはずだ。

 木製とはいえ、盾も大きく、守りを重視した構成なのが見て取れる。


 私は木剣を軽く構え、足の裏でマットの感触を確かめながら、ただその場に立つ。


「それでは――1戦目開始ッッ!!」


 審判の声が、試合開始の合図となって、会場中に響き渡った。

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― 新着の感想 ―
喧嘩売る相手間違えすぎてるwww
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