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167話--vs沙耶--

 事情の説明が行われて私と沙耶はリングに上がった。観客席からの視線を受けながら新しく張り直された石板の上で沙耶と向き合う。

 建前は日本の代表選手を決めるため。実質は沙耶の実力を見るためだ。


「私からは攻撃することはないから思う存分見せてみて」


「分かった。全力で行くから」


『何と何と! 誰が予想したでしょう! あまりにも我らが日本代表が強すぎて他の国が――おっと、上層部からお叱りの無線を貰ってしまいました!! 【銀の聖女】パーティー内での代表メンバー決定戦が先に行われるそうです! 初戦は姉妹喧嘩! 我々はどっちを応援すれば良いんだぁー!?』


「……何だか小恥ずかしいんだけど」


「ごめん……あの実況の人、聖女通信の初期からいる人でファンクラブ創設者の一人だから大目に見てあげて……」


 多分今の私は苦虫を嚙み潰したような顔をしているのだろう。視線を落とした先、スピーカーから響き渡る実況の声が鼓膜を震わせる。

 沙耶から聞いた話ではあるが、ファンクラブの人数は七桁を超えているとのことなので、それを管理しているのがアレか……。

 

「とりあえず、試合に集中しよっか」


「うん。じゃあ、行くね」


 沙耶がそう言って大きく息を吐いた。杖を握る手に力がこもり、彼女の足元から淡い光が漏れ出す。

 幾重もの魔法陣がリングを埋め尽くさんと展開された。

 

 剣を振って展開途中の魔法陣を一つずつ破壊する。手首の返しだけで刃先を走らせ、光の線が結ばれる直前の中心部を正確に切り裂いて魔力の接続を断つ。

 沙耶の展開速度より私の破壊速度の方が早いので、このままだと五分後ぐらいには完全に魔法陣を破壊しきってしまう。


 空中への攻撃手段を持っているのを知っているので浮遊で空中に逃げることは悪手だということは沙耶も分かっているはずだ。次は……どう出る?

 

「さすがだねっ!」


 沙耶が笑って言った。辺りには魔法陣を破壊したことにより沙耶の魔力が大量に漂っている。

 ――魔力探知が機能していない。空中に霧散した魔力の残滓がノイズとなり、周囲の気配を塗りつぶしている。

 そう気づいた時には遅かった。沙耶の頭上には大きな立体魔法陣……最初の大量展開はこれを察知させないためか。

 ほんの刹那だけ早く気づいていれば破壊できていただだろうが、見事に気を逸らされていた。沙耶なりに考えた作戦なのだろう。

 

「最大火力……行くよ!!」


 立体魔法陣が炎の球に姿を変えた。幾重にも重なった術式が中心に吸い込まれ、赤黒い熱源へと凝縮されていく。

 相当大きく、直径で言えば十メートルはあるだろう。

 沙耶が杖を振り下ろすと炎の球が私の方へと飛来してきた。

 

 速度は、音より少し遅いぐらい。避けるのは容易いが受け止めてこそ姉ってものだろ。剣を鞘に戻し、正面に右手を突き出して重心を落とす。

 魔力を解放して炎球を掌で受け止める。――熱い。魔力を層にして断熱していてもやけどしそうなほどの熱さだ。

 地面を見るとリングのタイルとして敷かれている石が溶けて沸騰し始めている。足元の石板が赤熱し、液体のようにドロドロと形を崩していった。

 

「ははっ、流石私の妹だ」


 思わず笑みが零れた。突き出した手のひらから伝わる重圧を押し返し、沙耶の魔力構成を指先で探る。

 回帰前を含めてこれほどの破壊力を持った魔法を使う者は見たことがない。

 魔力をさらに込めて炎の球を相殺するように破壊した。

 

「うぇ……無傷……?」


「防御したからね。あ、でも見て。掌が少し爛れてる」


「無理無理。もう魔力無いから降参~。立体魔法陣、攻撃系の魔法で組むと尋常じゃないほど魔力が持っていかれるから計算が狂っちゃったよ……」


「でも流石じゃん。実戦で立体魔法陣使えるとは思わなかったよ」


「うーん……まだ研究が必要かな。展開速度と消費魔力量、構築までの集中力のバランスが悪すぎ。お姉ちゃんが詰めてきてたら集中が乱れて展開できてないもん」


 次に生かすために反省もできている。良く成長したな……。と、老婆心で沙耶の頭を撫でる。沙耶は乱れた髪を整えるように手のひらで軽く押さえた。

 リングの結界から出ると歓声が私たちを叩いた。思わず耳を塞ぐ。

 

『一般の我々にも分かりやすい戦いをしてくれてありがとうございます!! やっぱり魔法は派手な分、戦いの感じが非常に伝わりやすくて助かります!! 強い近接の人たちは戦いが速すぎて見えな――』


 ゴンッ、とマイクを何かにぶつけた音と共に会場が笑いに包まれていた。実況席の端で、解説者が握り拳を作って実況者の頭を小突いているのが見える。

 どうやら実況の人ぶっちゃけすぎて解説の人に殴られたらしい。

 

「確かに魔法は余波が結構あるから戦場となってる場所が荒れやすいし戦闘の激しさが伝わりやすいよね」


「うっ……そういえばリング溶けてたけど怒られない? 大丈夫?」


「大丈夫でしょ。皆壊しまくってるし……耐えられないリングが悪い」


 リングを見やると復旧班が水を掛けて熱されたリングを冷ましていた。白い湯気が立ち込める中、魔導具を手にした数人が石板の修復を始めている。

 形を戻す復旧が完了するまではまだ時間が掛かりそうだな。

 


 リングの復旧が終わり、カレンとの試合の時間がやってきた。リングの中央に向かって歩き出すと、対面には既にカレンが立っている。

 無表情なのは変わりないがいつもより何だかソワソワとしている。

 

「ん。わたしの番」


「全力で来てね。封印も解いてもいいよ」


「ん。分かった」


 それにしても結界があると便利だなぁ……。

 今度家の方にもルトリエに結界を展開してもらおう。透明なドーム状の壁に手を触れ、その魔力密度を確かめる。

 皆が全力で戦える場所があれば戦闘能力の把握と実力の向上がすぐに分かる。

 

『二試合目も『銀の聖女』内の殴り合いだぁ! 今回は解説として『銀の聖女』パーティーの七海氏をお呼びしてるぜ!』


『よろしくっす!』


『七海氏。どっちが勝つと思います?』


『先輩っすね。カレンさんもヤバいっすけど先輩はそれ以上にヤバ人っす。この前なんか訓練とか言って装備も何も無いところからドラゴンと戦わされたっすから――ひぃっ!』


 余計なことを言い始めた七海に向けてリング横に用意されていた復旧待ち席に置いてある飲み物ストローを投げた。指先でプラスチックの棒を弾き、魔力を乗せて一直線に飛ばす。

 しっかりと狙いを定めたので七海の頬を掠って壁に半分以上刺さった。

 

『怒られたっす! この話はまた聖女通信の時にでもするっすね。それかメン限配信でもいいっすよ~、ってか見てくれっすよ、このストロー。プラ製っすよ? 何で石の壁に刺さってるんすか?』


『えー、このまま七海氏にマイクを渡していると我々の身も怪しく感じてきたのでマイクを戻します』


 危機察知能力の高い実況者だ。ちょうど二本目のストローを手に取ろうとしていたところだ。

 カレンと一緒にリングに上がり、開始位置に着く。互いの距離を三メートルほどに詰め、合図を待つ。

 

「ん。【封印解除】」


 キンッ、と何かが弾けた音と共にカレンから魔力が噴出した。彼女の足元から黒い魔力の霧が立ち上り、リングの結界を内側から叩く。

 前までのカレンだと封印を解除すると純粋な悪魔族に近い姿になっていたが……今回は姿変わらず、いつもの姿だ。

 

「制御できるようになったんだね」


「ん。あの姿、かわいくない」


 そう言ってカレンが短剣を構え、私とカレンの試合が始まろうとしていた。

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