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141話--カレンとアリエス--


「は? 何で十五層なのよ」


 小脇に抱えたアリエスが周囲を一瞥してから不機嫌そうに言った。

 転移のふわっとした浮遊感がまだ身体に残っている。


「私の連れが十五層に居るからね。今装備作ってもらってるんだ」


「十五層に上質な装備作れる奴なんて……あぁ、【名工】ね」


 アリエスが、当然のように親方の二つ名を言い当てた。

 そんなに有名なのか、と顔に出たらしい。眉をひそめて考えていたところで、アリエスがじろりとこちらを見上げてくる。


「顔に出てるわよ。十五層なんて浅い階層で二つ名を持ってるのは【名工】と【親切】と【弱者】ぐらいよ」


「最後のだけ知らないなぁ……」


「ちょっとはランキングを見なさいよ」


「アリエスもね。私がクリアしたこと知らなかったじゃん」


「そっ、それは研究が忙しくて……!」


 口ごもるアリエスの言い訳を適当に聞き流しながら、私は気配を探る。

 親方の工房に集まっている馴染みの魔力の塊がまとまって感じられた。まだ皆、鍛冶屋に居るようだ。


 とことこ歩いていると、脇のあたりをぺし、と叩かれる。


「いつまで荷物みたいに運ぶつもり?」


「あぁ、そうだったね」


 言われてようやく思い出してアリエスを地面に下ろす。

 逃げる素振りも見せず、多少むくれた顔をしながらも素直にこちらの後ろに付いてきた。


 石畳を抜けて見慣れた工房の扉の前に立つ。中からは鉄と炭の匂いと、かすかな金属音の残り香。


 扉を押し開けて中に入る。


「あ、お姉ちゃんおかえ――」


 カウンターの向こうにいた沙耶が、こちらを見た瞬間に動きを止めた。

 私の顔を見て、それから後ろのアリエスに視線を移し、もう一度ゆっくりと私の方に向き直る。


「……お姉ちゃんさぁ、ちょっっっと拾ってきすぎじゃない?」


「まだ何も言ってないんだけど……」


「そうやってポンポン何でも拾ってくるのは感心しないっす」


 沙耶と七海の視線がじわじわと刺さる。

 ルトリエたちを地球に連れ帰ってきた前科があるせいで、何も言い返せない。

 助けを求めて視線を動かすが、小森ちゃんはすっと目を逸らし、リリィは自分は関係ないと言わんばかりの顔で知らんぷりを決め込んでいた。

 エルアは何故か居ない。


 最後の希望を託してカレンを見ると――。


「ん……ん? ハイエルフ?」


「あら、貴女……うげっ、混ざり過ぎよ……。淫魔に吸血鬼に悪魔族……よくハイエルフの血と喧嘩せずに普通にしてられるわね?」


 アリエスが鼻をつまむような仕草をしてカレンをまじまじと見つめた。

 そういえば前にカレンの血筋にハイエルフが混ざっていると聞いたのを思い出す。


 褒められているわけでもないのにカレンはよく分からない顔でとりあえずピースだけしてみせた。


「ん。これだからハイエルフはダメ……他排的な思考で近い血筋ばっかで子供作ったせいで血が濃くなりすぎ」


「……? 外界はそんなことになってるの?」


「ん……今は積極的に強い血を取り入れてる。純血の方が珍しい。あーちゃん、この人相当古い」


 カレンがアリエスを指差してさらっと言う。

 年寄り呼ばわりされたせいかアリエスの額にぴしりと青筋が浮かんだ。


「へぇ……? 数十年しか生きてない小娘が里を出て数万年を生きてる私に喧嘩売ってるわけ?」


「ん。自堕落にただ漫然と生きてるだけの枯れたハイエルフの癖にプライドだけは一丁前。これだから太古のハイエルフは……」


 売り言葉に買い言葉。

 この二人は最初の一声からして相容れないのだろうな、というのがひしひしと伝わってくる。

 これ以上こじれる前に口を挟んだ。


「そこまで。仲間になるんだから仲良くしてよ」


「ん。無理」


「そうよ。貴女の血筋が高貴なものじゃない限りは……うん? まさかそんなわけ無いわよね?」


 そこでアリエスの言葉が急に止まる。

 何かに思い当たったのか、表情が強張り、ゆっくりとカレンを見た。


「貴女の、ハイエルフの血を持つ方の親の名前は……?」


「ん。アヴェリス・ラグナ・フォルスティア」


「ヒュッ……」


 アリエスの喉が小さく鳴った。

 油切れの機械みたいなぎこちない動きで、こちらを振り向く。


「どうかしたの?」


「この子、私の、子孫……何代先かは分からないけど……間違いないわ……」


「世界は狭いね……?」


「何が起きたら王族が混血になるのよ!!!!」


 アリエスの悲鳴じみた声が工房に響いた。

 カレンは眉一つ動かさず淡々と言葉を継ぐ。


「ん。おばあちゃんまでは純血。血が濃すぎて子を成せなかったから同じように血が濃かった淫魔女王を口説き落として結婚した」


「何!? 自らの意思で魔界に行ったの!? 侵略されたんじゃなくて??」


 信じられない、と言わんばかりの大声でアリエスが詰め寄り、矢継ぎ早に質問を浴びせる。

 カレンはあからさまに鬱陶しそうに眉をひそめた。


 このままだと本格的に面倒になりそうだ、とどう収拾をつけるか考えていたところで背中側の扉がきぃと開いた。


「む? 何事じゃ?」


「あ、エルア。散策してたんだね」


「じっっっ、【塵骸の――!?」


 アリエスの瞳がエルアに釘付けになった次の瞬間、その顔からすっと血の気が引いた。

 叫びを最後まで言い切る前に糸の切れた操り人形みたいにふらりと崩れ落ちる。


 地面に頭を打つ前に慌てて抱きとめ、脈と呼吸を確認する。


「……気絶してる?」


「うむ? 異様なまでに妾に恐怖心を抱いていたようじゃが……はて?」


 エルアが首を傾げる。

 情報が一気に押し寄せてきて頭の中が少し渋滞する。


 カレンのハイエルフの血の祖先で、さっきはエルアを見て【塵骸の】と叫びかけていた。

 つまり彼女はエルア――【塵骸の女王】を直接見たことがある、ということだ。


 アリエスが居たのは百三十五層。エルアは百層担当。

 百層で発生するクエストをこなし、先に進んだのなら辻褄は合う。


 【塵骸の女王】に見つかるな――という、エルアによるサーチアンドデストロイの二ヶ月間。

 今でこそエルアの力は当時よりだいぶ抑えられているが、それでも普通に百層まで辿り着いた挑戦者が相手にできる存在ではない。


 そんなものに二ヶ月も追い回されていたのだとしたら……トラウマになっていても何もおかしくないか。




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