第14話:歪む計画
研究所内にある広々とした会議室。その一角で、所長の九条はモニターに表示された膨大なデータを見つめていた。その顔には、普段の冷静さでは隠しきれない焦りが滲んでいる。周囲には幹部クラスの研究員たちが座り、全員が息を飲んで所長の指示を待っていた。
「これがアオイから送られてきた最新の解答結果です。」
九条の補佐を務める白川が、プロジェクターを操作して資料を映し出す。画面には、ミサイルの誘導システムや細菌兵器の安定化プロセスといった、軍事関連の課題に対するアオイの解答が詳細に記されていた。
「一見すると、完璧な解答だ。」
九条は無表情にそう言った。しかし、その声には微かに苛立ちが混じっている。
「だが、結果が伴わない。スポンサーへの報告は毎回、失敗に終わる。このままでは……」
九条の言葉を遮るように、一人の研究員が発言する。
「所長、それは我々のミスではありませんか?アオイさんの計算に誤りがあるとは考えにくいです。彼女の過去の解答は、いずれも精密でした。」
「それが問題なんだ。」九条は苛立ちを隠そうともせず、声を荒げた。「彼女の解答に誤りはない。しかし、実際に応用した際、成果が出ないのだ。このズレは何だ?」
会議室が静寂に包まれる。研究員たちは顔を見合わせながら、九条の言葉の真意を測ろうとしていた。
「スポンサーの要求は日に日に厳しくなっている。」九条は重い口調で続ける。「彼らは結果を待たない。私たちの価値を認めさせるためにも、アオイを完全にコントロールする必要がある。」
「コントロール、ですか?」白川が恐る恐る問いかける。
九条は静かに頷きながら、資料の別のページを映し出した。それはアオイの生活環境の監視記録だった。学校での様子、家庭での映像、彼女が送信するすべてのデータが綿密に記録されている。
「アオイは、我々の期待を裏切り始めている。」九条はスクリーンに映るアオイの画像を指差した。「彼女は従順に見えるが、何かを隠している可能性が高い。」
「ですが、所長。それは思い過ごしではありませんか?」別の研究員が躊躇いながら反論した。「あの年齢で、我々を欺けるとは到底思えません。」
「甘い。」九条は短く言い切る。「これまでの経過を見てきて分からないのか?彼女は天才だ。それも、ただの天才ではない。我々がまだ把握しきれていない力を持っている。」
九条は再び画面を操作し、スポンサーとの交渉記録を表示させた。軍事関連の大企業や反社会的勢力の名前がずらりと並ぶ。
「スポンサーからの資金提供は減少傾向にある。これは我々にとって致命的だ。」九条は冷徹な視線を全員に向けた。「この状況を打開するには、アオイの秘密を解き明かし、完全に管理下に置くしかない。」
「具体的には、どのように介入を強めるおつもりですか?」白川が尋ねる。
「まず、アオイの生活環境に直接介入する。」九条は即座に答えた。「家庭での監視を強化し、学校の教師とも接触を図る。彼女を取り巻く環境を完全に把握するのだ。」
「それでは、彼女に不信感を与えるのでは?」別の研究員が懸念を示す。
「構わない。」九条は冷たく言い放った。「彼女が何を考えていようと、我々が彼女を支配する。それができなければ、このプロジェクトそのものが終わる。」
会議室に再び静寂が戻った。誰も九条に反論しようとはしなかった。彼の決意は揺るぎないものだった。
その夜、九条は研究所の自室で1人モニターを見つめていた。アオイの解答を何度も繰り返し検証しながら、彼女の思考に潜む何かを探ろうとしていた。
「アオイ、お前は一体何を考えている?」
九条の声が低く部屋に響く。彼女の才能は人類にとっての希望か、それとも破滅への鍵なのか――九条には、まだその答えが見えていなかった。
「だが、一つだけ確かなことがある。」九条は画面のアオイの顔を見つめながら呟いた。
「お前を放ってはおけない。」
彼の手元にあるタブレットには、アオイの家庭環境に介入するための具体的なプランが詳細に記されていた。その画面を閉じると、九条は決意を新たにした。
「全ては、我々の未来のためだ。」
九条の冷徹な視線が暗闇に溶け込んでいった。




