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魔族少女の人生譚 旧  作者: 幻鏡月破
第二章 第二回人間軍大規模侵攻
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第三十七話 招集


「ン、いつの間にか日付が変わっているな……。それに随分と時間も経っている。

 ふ――ぁ、今日も眠ることはできなかったな」


 アルシュは腕を伸ばしながら一つ、大きな欠伸をし、もうすでに明るい、朝焼けに染まる窓の外を見た。

 ふと見れば、窓が少しだけ曇っていることがわかる。もう最近は、結構涼しくなってきたなと、そう思う。


 机上の書類をまとめ、夜を過ごした眠気覚ましに珈琲を少量一杯、口に注ぐ。

 深い香りと舌に響く苦味、そして頭にキンと来る感覚が、眠気覚ましにはもってこいだ。


 カップを机に置いたその時、置いた音と扉を叩く音が重なった。


 どうやら、少し急ぎ目のノックだ。


「魔王様、朝早くに失礼致します。緊急です」


「ン、そんな早くではないがな。どうした、入れ」


「はっ」


 そうして姿を見せたのは、魔王軍の情報伝達員だった。

 走ってきたのか、その肩は少しばかり上下に動いている。

 彼は片膝をつき、


「魔王様、感知結界に反応が。恐らく、人間軍かと」


 アルシュはキッと目を細める。


「ン、来たか。場所は何処だ」


「はっ。反応があったのはトルマ海沖にて、大型輸送艦十数隻。恐らく、一万人は優に超えるでしょう。

 また、進行方向から考えますと、目標地点はトルマ海岸平野であると予想されま

す」


「そうか。だがまだ幾分か距離はあるだろう? よく感知できたな。

 ……前回は、私が上陸させまいと海戦で迎え撃とうとしたのが間違いだったからな。戦術的敗北、戦略的勝利……か。

 ――今回は陸上にて迎え撃つとしようか」


 伝達員が顔を上げ、魔王を見た。


「魔王様、上陸させても宜しいのですか」


 フ、と鼻を鳴らす。


「構わん。どうせ我々は陸上の方が戦いやすい。それに、我々が負ける訳がないだろう?

 ――ン、伝達ご苦労であった」


 伝達員が頭を下げる。


「いえ、これが私の役目です。お褒めいただけるようなことは」


「ン、役目を果たすことは充分立派なことだ。これからも励みたまえ」


「ありがたき御言葉、感謝いたします」


「お、そうだ。最後に二つ、頼みがある」


「何なりと」


「ああ、一つは四天王に召集を。

 そして後は、〈喰暴将軍(さんばくしょうぐん)〉に連絡を頼む」



  ◇



「…………」


 ウィディナはカーテンを閉めた部屋の中、布団に包まっていた。

 その緑色の目は開いて天井を見つめている。しかしそれは眠りから目覚めたからではなかった。

 むしろその逆で、


 ……なんだか胸騒ぎがして眠れなかった……。


 睡眠につくことはできていたのだが、夜中急に目が覚めて以来、何か不安感が頭の中に渦巻き、眠ることができなくなってしまった。

 何か起こるのかなぁと思いつつ、もう朝だがたまには良いだろうと、もう一度眠るためにホットミルクでも作ろうかと身を起こしたその時、


「――あ、連絡?」


 目の前に魔法陣が開いた。

 魔王軍内で使う連絡魔法のようだ。それも音声のみの秘匿通信ときた。こんな事今までになかったため、何か嫌な予感がする。


『――ウィディナ様、ウィディナ様。起きていらっしゃいますか』


「起きてますよー」


『朝突然に申し訳ございません。

 緊急です。魔王様から四天王に召集がかかりました』


「えっ!? 内容は何ですか?」


『人間軍が魔境に向かっていることが確認されました。侵攻です』


「っ!?」


 息を呑んだ。

 四天王になってからこんな早くに、と思うが既に菊月(十月)で秋だ。勇者がやってくるのも近い。だから今頃来るのはおかしいことではないのだ。


 だが心構えができていなかった。考えていたよりも不意に来た。

 だけどこれが戦争かと、甘く考えていたのは自分だと、覚悟を決めるしかない。


 何故なら私は四天王だから。


 ベッドの上から飛び降り、


「っわかりました、すぐに向かいます!」


 連絡を切り、魔法陣を展開して全身を潜らせる。

 すると寝巻きは四天王の服へと着替えられ、髪の毛などの身支度も整った。


 以前エリヌから、すごく便利だからと教えてもらった魔法だ。緊急の呼び出しにすぐさま対応することができるよう一瞬で着替えができるこれは、エリヌが編み出した魔法だそうだ。


 着替え終えたため、急いで部屋の中にある転移門を潜れば、


「――〈飄瓣(ひょうへん)〉ウィディナ・フィー・ケルトクア、来ましたぁ!」


 そこは魔王城最上階、玉座の間であった。


「ン、よく来た」


 階段の上から声が聞こえた。

 ピンク色の髪を下ろし、頭に漆黒の角を生やすその声の主は、玉座に腰をかける、魔王アルシュだ。


 見れば階段の下には既に三人が集まっていた。


「遅れてすみません!」


「いえ、私達も今集まったところですよ、フィーさん」


「ウィディナちゃんやっほー!」


「……元気そうですね、ウィディナさん」


 ウィディナも急いで三人の元へと集まる。

 すると、


「コホン」


 アルシュが一つ咳払いをした。

 そしてその音一つだけで、一瞬にして四人は揃う。

 横一列に並び、その目線が向くのは魔王。彼らは微動だにしない。


「――〈四元素(エレメンツ)〉、揃いました」


「ン、夜にすまんな。寝ていたのもいただろう。

 ――さて、わかっているだろうが、お前達をここに呼んだのは他でもない」


 アルシュは四人を見る。


「人間軍の進軍が確認された。

 トルマ海沖にて大型輸送艦十数隻。軽く一万を超えるような戦力だそうだ。

 開戦予想場所はトルマ海岸平野。主に出すのは亜人種の予定だ」


 そこで、と玉座から立ち上がり、階段を下がる。


「四天王の一人を向こうに送ろうと思うのだが――」


 四天王の目の前に立ったアルシュは、一人ずつ順に見ていき、顎でクイっと一人を指した。

 そう、その指された四天王は、


「――え、私……ですか!?」


「ああ、ウィディナ、お前だ。お前、まだ戦を経験していないだろう? 四天王としてお前には戦というものに慣れてもらわないといけないんでな」


 そうキッパリ断言されると、ウィディナは見るからに焦り、


「え、あ、うぇ? ホントに私でいいんですか……?」


 と助けを求めるかのような目で三人を見た。

 だが、


「大丈夫ですよ、フィーさん。あれ以来も一緒に訓練をしたじゃないですか。成果を出す時ですよ」


「アリアは魔王様にさんせーい! ウィディナちゃん戦いは絶対に経験しないとマズくなっちゃうよ? この後」


「……はい。私も、ウィディナさんには戦争というものを知って頂いた方が良いかと思います。勇者侵攻も近いので」


 三人は魔王の意見に賛成であった。


 ウィディナには逃げ場もなく、というより魔王の言葉は基本的に厳守のため、他の四天王に逃げても無駄だった。


「……っわかりました。私、〈飄瓣(ひょうへん)〉ウィディナ・フィー・ケルトクアは、第二回魔境防衛戦に参戦します」


「ン、頼んだぞ。……では四天王、用はこれだけだ。ここで解散とする」


「「「はっ」」」


 と言って、エリヌ、アリア、ファルマは、魔力の残滓を散らし瞬時にして消えた。

 一人玉座の前に残ったウィディナは、


「あの、魔王様、私はどうすれば……?」


「ン、今からすぐに向かってもらうぞ。下の転移階でトルマに行ける」


「私一人で大丈夫ですかね……」


「心配ない。向こうの将軍には連絡を入れておいた。厳つい見た目だが、きっと優しいはずだぞ」


「えっ、〈八大将軍〉がいらっしゃるんですか。じゃあ大丈夫かな……。

 ――わかりました、では行って参ります」


「ン、気をつけろよ」


 そうして会話を終え、ウィディナは玉座の間を離れ、下の転移階へと急ぎ足を運んだ。

 戦争に対しての多くの不安を感じる中、少しばかりの興味と期待も抱き、ウィディナは向かう。



 現在午前七時。セチリア公国騎士団が港を出立してから、九時間後のことである。


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