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1階層

 一行は、1階層の中央辺りにある空白地帯までやってきた。

 ここまで倒したのは、キックラビ、キラーダンゴ、小鼠プチラットの三種。いずれもダンジョンモンスターで、なかでも小鼠は進化で成長する特徴があり深層部まで出現する魔物である。色は灰色、大きさは15㎝と小型だが、魔法を使い、毒の状態異常を与える厄介な敵だった。

 主な戦利品は、ウサギの毛皮と食用の肉、虫の殻甲、薬の材料で虫の触覚、複眼。後は、鼠の毒袋などである。エドガーとダリルの持つフリーバッグの容量は限られているので、大きなものはリュシアンのバッグへと移し替えた。

 ニーナとアリスは、興奮冷めやらぬ様子で満足そうに武器を手入れしつつおしゃべりをしていた。リュシアンは荷物の整理が終わると、ニーナたちを呼んだ。


「ニーナ、アリス、気持ちはわかるけど先行し過ぎだよ。後ろもちゃんと確認して。それから、まだ実力差がある相手なんだから、余裕があるうちは素材を傷つけないように注意して倒してね」


 さっそくリュシアンのお小言が飛んだ。

 後衛の三人は、直接の討伐にこそ参加しなかったが、援護に、回復に、ドロップ拾いにと大わらわだったのだ。後衛を守るのも前衛の役目、それをないがしろにしてモンスターを倒せばいいというものではないのだ。


「ごめんなさい。ちょっと調子に乗りすぎちゃった」

「私もごめん、ちゃんと後ろも見るよ」


 流石に浮かれていた自覚があったので、ニーナとアリスはちょっとだけしゅんとなってしまった。リュシアンも、張り切っている二人に無闇に水を差すつもりもないのですぐに表情を和らげた。


「うん、わかってるなら大丈夫。初めてのダンジョンだしね、高揚しちゃうのもわからないでもないからさ。ただ、ここから先、敵が強くなってくると、一瞬の油断が取り返しのつかないことになるからね」


 若者を窘めるようなおじさん臭い説教になってしまったが、何事も最初が肝心なのである。締めるところは締めていかないと、たとえ踏破済みダンジョンでも、それが実戦である以上、危険と隣り合わせなのは自覚しなければならない。

 ぷち反省会を終えると、ちょっと早いけれど昼食の準備を始めた。あらためて見回したところ、周りには誰もいなかった。どうやら、朝出発したグループの中ではリュシアンたちはドンケツだったらしく、他のパーティは二階層の空白地帯まで一気に進んでいったようだった。

 リュシアンたちは五日間かけてゆっくり攻略するつもりなので、無理をするつもりはなかった。お昼ご飯も簡易食ではなく、リュシアンが寮の食堂で作って来たサンドイッチを用意した。さらにエドガーに水を出してもらって、簡易コンロを使ってお湯を沸かし、スープを作り始めた。


「それなに?火じゃないのにお湯が沸くの?」


 テーブルや椅子を用意していたアリスが、リュシアンが取り出したコンロに興味を示した。

 

「魔石がいくつか手に入ったから、ちょっと作ってみたんだ。ここの魔法陣がそのまま熱を伝えて、置いたものを温める。火はついてないけど、触ると火傷するから気を付けてね」

「本当に器用ねえ…」


 興味深々のアリスの横で、ニーナも感心したように呟いた。

 そんな彼女たちに、小さな鍋やヤカンくらいしか置けないけどね、とリュシアンは謙遜して補足した。

 それぞれの仕事を分担している様子を見て、ダリルはリュシアンから預かっているカバンの中から数体のキックラビを取り出して、おもむろに解体を始めた。


「解体、出来るんだな」

「はあ?これくらい誰だって出来るだろうが。フリーバッグなら時間経過もトロいし、いつでも使えるように処理しておけば飯の準備だって楽じゃねぇか」


 驚いたように覗き込んできたエドガーに、ダリルはハエでも払うような仕草で嫌そうに追い払った。相変わらず態度は悪いが、案外気が利くというか、思った以上にマメな様子に全員が意外そうな顔をした。

 そして、プロ並みに解体がうまい。

 ボンボン育ちのリュシアンたちと違って、そういえばブロイのところでは家事一般もソツなくこなしていたと言っていた。意外にも、なんでも出来ちゃう系男子だったようである。

お読みくださりありがとうございました。

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