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魔界樹林のヴィヴァント・アポローグ(動植物寓意譚)~生き抜くために、改革します~  作者: 蒼宙 つむぎ


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18.待ちに待った?成人の儀(神様は見ている、かも)

 成人の儀、当日。

 ルドの心とは裏腹に、空はこれでもかと言わんばかりの快晴である。

 ――とはいえ、魔界に来てから一度も雨が降っているのを見たことがないのだが。



「ルド、元気だしな。待ちに待った成人の儀なんだ。ほら、顔を上げなさい」

「そうだよ、ルド兄。ずっとこの日が来るのを待っていたじゃない。毎日頑張ってきたんだから、ね。ほら!父さんも何か言ってあげてよ!」

「……頑張れ」

「父さん!もっと何か言葉があるでしょう!」


 俯くルドに、懸命に声を掛けるダーラさんとアンちゃん。それに対し、言葉少ないベンさん。

 きっとこれがこの家族の形なのだろう。


 だがしかし!

 それではルドがかわいそうすぎるではないか!


 私は俯く彼の手を取り、声を掛けた。

「ルド、これまで狩りが出来ていないと落ち込むのもわかる。けれど、まだ始まってもいないのに諦めるのか?」

「エーレ……」

「諦めたらそこで試合は終了なんだ。あ、間違った。狩りは終わるんだ」


 いかんいかん。思わず試合なんて言っちゃったよ。

 ついつい、かの有名なボールで争うスポーツの監督の名言を言ってしまったわ。

 目の前にいるオークの家族たちは「試合って?」とポカンと口を開けて不思議がってしまっている。


「ん゛ん゛!ともかく、まだ狩りが始まってもいないんだし、やるだけやってみよう」

 なんとかなるかもしれないじゃない。


 ルドを励ましながら、ふと前世の妹の事を思い出していた。



******


「はあ……。どうしよう、姉ちゃん」

「ん?何が?」

「明日の試験、駄目かもしれない」


 明日の国家試験を前に落ち込む妹。これまでのことを考えると、それも仕方ないと思う。


「ん……でもさ、まだ試験を受けてもいないから、どうなるかわからんよ」

 下手な慰めは彼女に失礼だと思った。


「でも!……でも、これまで模試や学校のテストでも、合格ラインを超えたことないんだよ。そんなの、無理に決まってるじゃん!」

 妹は心に溜めていた感情をぶちまけている。


「そうだね、確かにこれまで合格ラインを超えていない。でもさ、いつも結果が出るのって遅かったじゃん。今回もその可能性はある。だから、無理だと決めつけるのは良くないよ」

 落ち着いた声音で、涙をそっと拭ってやる。


「でも!でも……」

「昨日も夜遅くまで勉強していたでしょう。目の下の隈、酷いぞ。明日のためにも、早く寝ちゃいな」

「姉ちゃん……。怖くて眠れないかも。少しでもテキストを読んでないと、覚えたことがこぼれ落ちるかもしれないって」

妹の手が震えている。


「こぼれ落ちていない。それに、知識の定着は寝ているときになされるんだったよね。忘却曲線は気にしても仕方ない。それより、睡眠不足で試験中に寝てしまう方が怖いわよ」

「そう?」

「うん。姉ちゃん、試験中に寝て青ざめたことあるからね」

「そっか……。そしたら、早く寝ようかな……」


 落ち着きを取り戻し、夜の九時という小学低学年かよという早い時間に就寝した妹。

 当日は頭がすっきりとし、いつもより設問をしっかりと読めたのだとか。帰宅後、自己採点は合格ラインぎりぎりだったようで顔が真っ青だった。

 試験後の速報解答は、通常なら甘い採点がされるということで採点のマイナス四点ほどが実際の自分の解答点だとされている。そう考えると、不合格だと思ったのだろう。


「まだ、発表されていないよ。ひとまずは、頑張った自分を褒めてやりな。今日は大好物の唐揚げを山盛り作ってあげるから」

「姉ちゃん……。うん、試験の結果はもう待つしかないよね。唐揚げ、私だけ一個多めに頂戴」

「いいよ。姉ちゃんのをあげる。さあ、みんなお腹空かせて待ってるぞ」


 泣き止んだ妹を連れ食卓に着くと、みんなが心配そうにしていた。そして、みんながこっそりとおかずのお裾分けをしているのが見えた。

 本当に仲がいい、温かい家族である。


 そして、妹の試験は――。


 なんと!

 合格点を六点も上回る点数で合格したのである!


「姉ちゃん!合格したよ~」

 またしても号泣する妹であるが、その涙はきっと塩っぱくはないだろう。

 コツコツと気持ちが折れずに頑張れたからこそ掴んだ合格は学校でも伝説になったらしいが、私にしたら当たり前でしかなかった。

 だって、妹の頑張りをずっと見てきたのだ。

 彼女が報われないだなんて、神様はそんな馬鹿ではないだろう。

 まあ、こんなことを思う私はただの姉馬鹿だ。


******


 過去を思い出し、ルドを再度見る。

 うん、どうなるかは神様次第かな。



 オークの広場は成人の儀を見守るため多くの家族連れが集う。

 広場の中央には柵が設けられ、その中に儀式を受ける子供たちが入って行った。

 どうやら、ここで狩りが行われるらしい。


「アンちゃん、この中に狩りをする動物がいるの?」

「ううん、後からこの中に放つんだよ。あ、柵の下の方に今から筵(むしろ)を巻いていくよ」

「え?なんで筵を巻くの?」

「あ、エーレちゃんは成人の儀は初めて見るんだよね。狩りをする動物は小さいからだよ」

「小さい?の?」

「うん。あ、今からその動物を放つよ」


 そう言って指さす方へ視線を向けると、今まさしく木箱から動物が放たれようとしているのが見えた。

 そして、出てきた動物は――。

 小さな兎だった。


「兎だね。可愛いじゃない。これなら問題なく狩りが出来るんじゃない?」

「ん?ウサギって?あれは一角兎(ホーンラビット)っていう魔獣だよ」


 兎は兎でも、魔獣だった!


「でも、小さいし可愛いから問題ないんじゃ……」

「あ……。ぱっと見はね可愛いけどね。あの角が厄介でね。毎年、みんな怪我するんだよ」

「え?みんな?怪我するの?」

「うん。大怪我する子もいるからさ。命がけではあるのよね」


 おいおい!

 命がけって!

 まあ、成人として認められるにはそれくらいしないとかもしれないけれどもさ。


「成人の儀を何度も受ける子もいるんだよ。あの子も去年駄目だったし、向こうの子は二年目かな」


 ああ……。

 ルド、無理しないでね。

 命は大切だから。

 今年が無理でも来年があるさ。


 そんなことを思っていると、一つの銅鑼(どら)が大きく鳴った。

 とうとう、狩りが始まる。




「今年は、ある意味すごかったね」

「本当に。まさかこんな結果になるなんてね」

「……こういう年もあるさ」

 アンちゃんとダーラさん、ベンさんがそれぞれ思ったことを口にする。


「こういうもの、なの?」

 疑問を投げかける。


「うん。こういう年もあるって聞いたことあるよ」

 明るく答えるアンちゃんに悪気はない。

 が、後ろを歩くルドには少し堪えるのではないだろうか。


「まあ、仕方ないよ。来年もあるじゃないか」

「そうだよ、ルド兄。来年頑張ればいいよ」

「……」


 確かに来年頑張ればいい。

 そして、狩りをする対象をいっその事変更すればいい。


「「「まさか、魔獣が全部、柵を飛び越えて逃げるなんて(ね)。びっくりだ(わ)」」」



 そうなのだ。

 魔獣が結構な柵の高さを飛び越え、全て逃げてしまったのだ。

 集まって見学しているオーク達も驚き、騒ぎまくり、成人の儀どころではなかった。

 これは大人のオークにも落ち度があると思う。


「ルド、練習ができるんだからよかったじゃん」

 慰めになるかわからないが、声を掛けてみる。


「……クソ。なんでこんなことに」

 悪態をつくルドは目に涙を浮かべている。余程悔しかったのだろう。


「来年、もっと強くなればいいじゃん」

 そっと、背中を撫でて優しく慰める。


「エーレ!来年まで待ってくれ!俺、きっと狩りを成功するから!そしたら番えるから!」


 私に向きなおり、叫ぶルド。

 それをあきれ顔で見つめる私たち。

 温度差が激しかった。



 いや……、それは遠慮するよ。

 ルドと番う気は、ないからね。


ようやく成人の儀が終わりました。


途中の過去を思い出す場面は、作者の娘の実話を入れてみました。

お祝いは山盛りの唐揚げではありませんが、好きなおかずを並べましたよ。


少し補足を。

作中の「山盛りの唐揚げ」ですが美穂子の家族は大人数で、裕福ではないので凄いごちそうなのです。

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