1.プロローグ
本日より、新しい話を投稿します。
体がふわりと浮き、咄嗟にどこかに捕まろうと手を出すものの何にも触れることはなく空を掻く。視界はどんどんと後ろに遠ざかり、息が止まるのがわかった。 私は、今まさに階段から落ちている最中で、目の前には、口角だけを上げてこちらを見下ろす私と似た顔の異母お兄姉の顔があった。
ああ……。 前にもこんな場面があった。 それはいつのことだったかしら。
** * * *
そう、私はその時、とても疲れていた。
母子家庭の7人姉弟の長女として死に物狂いで働いて家計を支え、一番下の妹がようやく嫁いだもののその頃には生粋の社畜と化してしまった私は、休息なんて言葉の意味が理解できなく、相も変わらず働き詰めていた。
四〇歳を近々迎えようとしていたのに独り身で、母も数年前に鬼籍に入ってしまったので、思いっきり自分の好きなことに時間もお金もつぎ込んだ。
ええ……、私は大好きなゲームを徹夜でしていましたよ。年甲斐もなくね!だって、あのRPG神ゲーの“Frontier World Online”がリニューアルされたんだよ!やるしかないじゃん!
というわけで、二日も徹夜でゲームを堪能して月曜になってしまったので、仕方なく出勤しようとしていた。そして、地下鉄に乗るべくホームに向かおうと階段を下ろうとしたその時――、ちょっとの段差に躓いてしまった。きっと疲れていたのよね。歳を考えずに二徹なんてしたのが悪かったんだよね。
ああ……、やっちゃった――。
それが前世の最後に思ったことだった。
** * * *
前世を思い出し、現状をとっさに判断することにした。
私は、マルグリット・フォン・ダルムシュタット、十歳。ダルメシス王国の第二王女なんだけど王位継承権を持たない唯一の王女。他の兄と姉と妹は正妃の子供なので王位継承権があるけれども、私は愛妾の子なのよね……。
階段の上には、第一王子のレオポルト兄上と第一王女のイゾルテが笑って私を見ている。この後の私がどのような無様な姿をさらすのか楽しみなのだろう。
けれども、今の私は十歳の若い体の持ち主。
昨日まで母と離れで暮らしていて、正妃のアーデルハイト様から恨まれていたから他の兄妹とも一緒に食事をしたことがなく、質素なものしか口にしていないから身軽である。
母は、もういない。
助けてくれる人も、いない。
だったら、私がここにいる必要は――、ない!
助けを求めようとした手をぎゅっと握りしめ、目を大きく見開いた。
「大丈夫。私ならできる」
自分に言い聞かせるようにつぶやき、お腹に力を入れた。
体は、“くるりん“と翻り、
”シュタッ“っと着地し――。
踵を返して
逃げ出した!!
次話もすぐに投稿します。




