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簒奪者に告ぐ、  作者: しータロ(豆坂田)


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2/2

第2話 簒奪者たれ

 その日の夜、カリウスは夢を見た。

 白い世界に自分独りだけ……いや、目の前に昔の戦友ともが立っている。

 くすんだ赤色の長い髪と太陽のような笑顔。くるくると回って飛び跳ねて『にしし』と笑ってちょっかいをかけて来るような戦友ともだった。彼女は後ろで手を組んで体を揺らして鼻歌を歌いがながら、こちらに背を向けている。


「……」


 カリウスは近づくこはせず、ただ一言声をかけた。


「……お前は……誰だ」


 彼女が夢に出て来たことは一度も無かった。

 目の前にいる『これ』は夢の存在だし、幻聴だ。

 記憶の中に残っている彼女ではない。

 幻聴として出てくるのならば、もう少しマシな擬態をしてくれ。


「もう一度訊く。お前は誰だ」


 風に吹かれるように揺らいでいた彼女が問いかけに答え、振り向いた。


「私はコリアだよ、ほら、君がよく知っている」


 憎たらしい。

 声まで完全に昔と同じだった。


「違う。かたるな。お前は誰だ」


 コリアではない『何か』は再度カリウスに言われると「ざーんねん」と呟いてから、後ろでわざとらしく組んでいた手を前に出す。


「これ……何か分かる?」


 『何か』の手には血まみれのナイフが握られていた。

 カリウスがあの殺害現場の記憶を刻銘に思い出し、固まる。それでも『何か』は続けた。


「あの豚を殺した凶器だよ。どうだった? 君はあの豚を殺して」

「……おい待て……それ以上コリアの姿を騙るな」

「……ふーん」


 『何か』はカリウスのことをあざけるように声を漏らすと、別の大人の女性に姿を変える。


「じゃあこれは? 可愛い造形でしょ」

「どうでもいい」

「つまんないの」


 『何か』は露骨に不満そうな表情を浮かべる。


「なんか興ざめ、せっかく君が一歩を踏み越えられたってのに。まあいいや」

「何がだ」

人間わたしたちを差別するあいつらをぶっ殺そうよ、そのためなら、私はいくらでも手を貸しちゃうな」

「お前、何言ってるんだ。馬鹿なのか」

「あはは……馬鹿なんて……ひどいなぁ。でも大丈夫。いずれ分かるよ。人間わたしたちが対峙している歴史の重みにね」

「……」

 

 『何か』はにっこりと笑って手を振る。


「それじゃあ、また会おうね」


 そこで強制的に夢は終わった。


 ◆


「――――っ」


 次の日の早朝、マキアはいつもよりも早く目を覚ました。

 床に布が引いてあるだけのベッドとは呼べぬ代物の上で、上体を起こして壁の隙間から見える外を見る。

 まだ早朝で外は薄暗い。


「はぁ……はぁ」


 ゆっくりと息を整えながら脳を覚醒させていく。

 服や床にひいていた布が汗まみれになっていた。

 気分は最悪。


「なんか気味悪い……夢を見た気が……」


 嫌な夢を見ていた感覚はあるものの、肝心の内容については一切覚えていない。


「ったく、なんだ」


 最悪の目覚めに悪態をつきながら立ち上がる。 

 そしておもむろにベッドの脇に置いてある、結われた布の塊を拾いあげた。

 僅かに手を震わせながら結われた布を解いていく。

 

(何も……ない)


 布を開いた時、中には何も入っていなかった。

 昨日家に帰って来て血まみれになった凶器を布に包んで置いていたはずだ。

 しかし中には何もない。


(夢だった……のか)


 昨日の殺人が夢だとすれば、この目覚めの悪さも理解できる。

 ただ夢だとしたら、なぜ結われた布がベッドの脇にあったのか。

 どこからが夢で、どこからが現実か分からない。


「……はぁ」


 当然、寝る気にはなれず早めに学校に行く仕度を始めた。


 ◆


 仕度を終えたカリウスが学校へと向かう途中、道を逸れてある場所に向かった。

 昨日、殺人を犯した裏路地だ。

 

「……」


 昨日起こしてしまった殺人が夢だったと確認を取るために向かった先で、カリウスはすぐに足を止めた。

 裏路地に入るための路地に規制線が張られている。

 

「……」


 言葉を失って遠目で見るだけみて立ち去る。

 昨日の光景が脳裏に過る。


(じゃあなんで凶器ナイフがないんだよ)


 動揺を隠しきれず路地から離れた場所で、壁に背を預けて天を仰ぐ。

 澄み渡った青い空とは真逆の気色の悪い感触が手のひらにじんわりと広がっていた。

 

「……くそ」


 また頭が痛くなってきた。


 ◆


 異種族は稀に『先祖返り』を発症する。

 穢肉族オルトロス花樹族アーボル骨獣族ギアロスなど様々な種族が暮らしているが、その種族一つ一つに祖先がある。

 当然、元を辿れば一つの生命なのだが、やはり分岐し、今の種族を形作るきっかけになった祖先というのはいた。

 産まれ落ちた原初の『成れ果て』と戦った強靭な肉体と能力を有す祖先——異種族は稀に、そうした祖先の力を隔世遺伝で発症することがある。

 物理的な部分で発症した場合、例えば穢肉族オルトロスであれば祖先である巨獣種ジャイアントの特性が現れる。この場合、『完全な先祖返り』であれば、体躯はより巨大に、より強靭な力を手にする。

 逆に、種族によっては体が小さくなることもある。物理的に現れずとも、祖先が扱っていた『超常的な力』が部分的に使用できるようになることもある。


 また、『先祖返り』には先天的なものと後天的なものがあり、後者の場合、先祖が幻覚として現れたり、体に異変や痛みを感じたり、力の使い方を突然理解したりする。


(……ったく)


 クラスの中で教官の言葉を聞きながらカリウスは頭痛にうなされていた。

 人間であるというのに授業態度まで悪ければ成績に響きかねない。

 辛うじて頭を上げて授業を聞いているフリをしているが、顔はきっと酷いものだろう。

 

(きついな……)


 取り合えず授業が終わるまであと少し。

 頭痛以外にも吐き気が止まらない。

 

(……んだよ、これ)

 

 授業が終わったらすぐトイレに駆け込もう。

 マキアはそう決意すると後は耐え忍ぶ。

 すると案外、早く終わりの時が訪れた。


「今日はこの辺で終わりにします」


 どうやら用事があるらしく教官は予定よりも早く授業を終わらせた。


「それからカリウスさん。学校長が呼んでいますので、荷物をまとめて来てください」


 やっと授業から解放される――というところで、予想外な事態に直面してカリウスは顔を引きつらせる。

 周りの生徒が「何かしたのか?」「人間だから……」とか何やら呟いているが、いつものことなので気にせずに、荷物をまとめて教室から出る。

 

 その足取りは当然重い。


(……違うよな)


 脳裏に過るのは昨日行ってしまったかもしれない殺人についてだ。

 昨日の今日では捜査が早すぎる気もするが、現場に証拠を残しているかもしれない。

 それに凶器ナイフを無くしてしまっている。

 そうじゃなくても誰かが殺害現場を見ていたかもしれない。

 捜査の魔の手がマキアに辿り着いていても全くおかしくはないのだ。


(……おれは)


 誰かを殺したというのに、その事実から逃げて隠し通そうとする自分に気が付きながらも見て見ぬフリをして、校長室へと向かう。

 もしかしたら、校長室に入ったら警察がいて――だなんてこともありえる。

 

「……はぁ」


 校長室の前でため息をついて緊張を和らげる。

 それから、頭の中で最悪の想像を幾つも思い浮かべながら数回扉をノックした。

 するとすぐに学校長の返事がある。


「入ってきなさい」

「はい!」

 

 兵士として勢いよく返事をして扉を開けて中に入る。

 

(いない……か)


 校長室の中に警備隊はおらず、校長と秘書の二人だけだった。


「本日はどのような御用でしょうか」


 カリウスが声を張って用件を尋ねると、校長は眼鏡を拭きながら手元の資料をゆっくりとめくる。


「いや、大したことじゃないんだよ」


 校長はそう前置きを置いて秘書に書類を渡す。

 そして秘書がマキアに数枚の紙を渡すのと同時に、校長が口を開いた。


「そこにも書いてある通り、《《君は退学だ》》」

「え……」

「そういうことだ。規定として授業料の返還は行われないので、その辺のことは理解しておいてくれ」

「は、なんで」


 突然の事態でカリウスは現実を受け止めることができない。

 校長もそのことが分かっているのか、一箔置いて説明する。


「資料を見てくれ。ダグラス君から報告を受けた。君、彼らに怪我を負わせたらしいじゃないか」

「え、してな。逆におれが」

「彼は肩に負った傷を見せてくれたよ」

「傷? おれはそんなの」

「いや、彼は確かに肩に傷があったよ」

「……」


 嵌められた。

 いや、『嵌める』という言葉が適切かどうかわからないほどに、お粗末な嘘の報告だ。

 普通は簡単にひっくり返される虚偽。

 しかし、加害者が人間種フラギリスで被害者が異種族の場合。ひっくり返せる可能性は著しく低くなる。

 状況から鑑みてまずダグラスは嘘をついている。

 だが、嘘をひっくり返せるだけの証拠と権力をカリウスは持っていなかった。


「……おれは、やってない」


 どのような弁論を並べ立てれば状況が好転するのか、一切分からない。

 苦し紛れに否定するけれど、学校長は取り合わない。


「『やっていない』と皆が返答するだろうね。ただ『退学だ』と言ってしまったが、あくまでも賠償金が払えるのならば、撤回の可能性がある。具体的な金額だが、君に渡した資料に乗っている」

「……」


 渡された数枚の紙に視線を落とす。

 賠償金については二枚目の最初に記述されていたためすぐに発見できた。


(無理だろ)


 とてもカリウスでは払えない金額だった。


「そういうことだ。もし払えるようならば五日以内に答えを出してくれ」

「……」


 絶句してカリウスが返答を返さないでいると、学校長はもう一度今度は怒気を帯びた声で注意する。


「仕事が溜まってるんだ。用件がないようなら出て行ってくれ」

「……はい」


 紙を握り締めそうになる。

 しかし理性で押さえつけおとなしく引き下がる。


(なんで、こんな)


 俯きながら校長室を出る。

 だが、それまで押さえていた理性は、校長室を出た廊下にいたダグラスを見て、軋みをあげた。


「お前!」


 声を上げ掴みかかると、ダグラスはわざとらしく肩を抑えて痛がる。


「おお、いてぇ。肩が……いてぇわ」

「お前、いくら俺が」


 片手で服を掴み、片手で拳を握り締めた瞬間、ダグラスは両手を上げて抵抗の意思がないことを笑いながら伝える。


「お? なんだ、本当に暴力を振るのか? 今度こそ警備隊に突き出されるぞ? 殺されちゃいますーって」


 周囲にいるダグラスの取り巻きが「ぎゃはははは」と声をあげながら嘲笑する。 

 傍から見てマキアは明らかに嵌められた側の人間だというのに、周りは助けようとしない。

 禁忌を侵し『成れ果て』を生み出した人間種フラギリスを誰一人として擁護する者はいない。


「そもそも、お前が俺を殴ったところでどうなる。人間種フラギリスが俺を傷つけられるのか?」


 ダグラスは部分的に『先祖返り』を発症した穢肉族オルトロスだ。体は他の穢肉族オルトロスよりも大きく、強靭だ。

 《《普通》》の人間種フラギリスであればまず生身では敵わない。


(傷つけられる……? 俺は今ここで……)


 何体の『成れ果て』を討伐してきたと思っている。

 生身だろうと、たとえ『先祖返り』していようと。

 俺は今ここでお前を……。


「殺し……」


 小さく呟いて、カリウスはすぐに口を閉じた。

 だが代わり脳内で誰かの声が響いた。


『殺しちゃいなよ。大丈夫。私が証拠を隠してあげるから。全部認めてあげるから』


 黙れ。 

 誰だお前は。


(やめろ、今ここで間違ったら)


 戦友との約束を違えることになる。

 たとえ退学の危機に陥ろうとも、目の前に自分を嵌めた奴らがいたとしても、舌を噛み切ってでも耐え忍べ。


「……五日間で金を用意すればいいんだろ」


 怒りを抑え込み、カリウスはその場から立ち去る。

 ダグラスに嘲笑れながら。

 

 ◆


「これからどうすればいい」

 

 学校を出て道端を歩きながらカリウスは自問自答する。

 ダグラスに言っても彼の意見がひっくり返ることはない。

 つまり、今は賠償金を真正面から向き合わなければならない。

 結局は賠償金を払うことが出来れば解決できる問題。

 店主に給料を先に渡してもらうことにして、その上で借り屋を担保にすればいくらかお金が手に入る。

 つまり、どうにかなる問題。 

 まだ取り返しはつく。

 またやり直せばいい。

 大丈夫。

 またやり直せば――。


「――お前クビ、出て行け」


 事情を話すとアルバイト先の店長はすぐそう言った。


「あーあ、せっかく士官候補生だからって雇ってやったのによ、ついてないわ」


 店長は今まで見せたことのないような態度でカリウスを見る。


「じゃあ……今までのは」

「お前バカだな、士官候補生だと後々得があると思ったから雇っただけだよ、ただの人間種フラギリスを雇うわけねぇーじゃん」


 給料こそ支払ってくれたものの、今までの関係なんて無かったかのように仕事はクビになった。


「なんでだよ」


 店長はそれから全く取り合ってくれず、すぐに店を追い出された。


「はは、おかしいだろ」


 今まで頑張って積み上げてきたものが一瞬で崩れ去った。

 もう何も残っていない。

 いや、給料は貰ったから全財産を叩けば賠償金ぐらいは払える——けれど、もうそんな気力は無くなってしまった。


「でも、あいつらのために」


 口では言ってみるけれど、体が動いてくれない。

 戦友と約束したのだから果たさなければならい——その一心で努力をしてきて、失敗してしまったけれど、また彼らに報いるために努力をすればいい。

 分かっている。

 分かっているのに、もう疲れ果ててしまって体が動かない。

 動いてくれない。


「ああ……」


 頭の痛みはもう抑えきれないほど強くなっていた。


 ◆


「……」

 

 それから五日ほど、カリウスは飯を食べることも動くこともできず、ただ家のベッドの上で死んだように寝転がっていた。

 

「はぁ……」


 ただ、何かしなければならない、現状を変えなければいけない、という焦燥感だけはずっと胸の内で燻り続けている。

 給料は支払ってもらったため全財産を使えば賠償金を払うことはできる。

 しかし払う気にもなれなかった。

 自分には非のない言いがかりをつけられて、着実に積み上げて来たもののすべてが失われた。

 もはや戻って士官学校でまた学ぶ意欲が湧かない。

 

(駄目だな)


 現状を変えるために外に出てみたけれど、すぐ近くの路地で疲れて座り込む。


「……はぁ」


 ため息交じりに空を見上げる。

 今日も空は鬱陶しいほどに青い。


「どうすっかな……」


 気分を変えるために軽く呟いてみるけれど、やはり気分は重いまま。

 雲が太陽を遮れば、さらに気持ちは俯いていく。


(うるせぇ……)


 裏路地の先にある大通りから聞こえる騒音がやけに大きく聞こえる。

 笑い声、叫び声、怒鳴り声……それから鉄を打ち付ける音、『成れ果て』の遠吠え、仲間の悲鳴……。


「……あれ」


 途中から変な音が混じっていた。

 

(もう分かんないや……)


 耳がおかしくなってしまった。 

 いや、この場合は頭がおかしくなってしまったのか。

 いずれにしても、聞こえてくる音に変なものが混じっている。


 ——ねぇ、やっぱり無駄だったでしょ。


 またあの声だ。

 少女の……戦友コリアの声。

 けれど、絶対に違うはずの幻聴。


 ——まだ拒絶するの?


 拒絶も何も、これは幻聴だ。


 ——幻聴じゃないよ、酷いなぁ。


 彼女はわざとらしく落ち込んで、言葉尻をしぼませる。

 彼女はいつもはにかんだ……そしてどこかやるせない笑顔を浮かべていた。


 ——人間わたしたちが奪われたものを、奪い返そうよ。


 駄目だ。

 強引な手段に走れば軋轢を生むだけ。

 

 ——そんなことないよ、時には知らしめないと。


 何をだ。

 どうしたって何も変わらない。 

 何を訴えればいい。


 ——訴える、だなんて野暮なことやめて、知らしめないと。


 だから何をだ。

 

 ——君が昨日したこと。


 ……それは。


 ——知らしめないと、あいつらに。


 ……違う。


 ——私達を貶めた、あの簒奪者どもに教えないと。


 ……駄目だ、それは。


 ——ほんとかな? 君はさ、どう思ってるの?


 ……俺は……おれは。


 ——君の理想は砕けたよ……いい加減諦めたら?


 ……。


 ——うだうだ悩んでんじゃねぇよ。


 ……うるさい。


 ——だから何度も


「ったくめんどくせぇー!」


 それまで聞こえていた騒音も少女の声も一つの声にかき消された。

 カリウスが声のした方向に視線を向けてみると、二人の異種族が大通りの方から歩いて来るのが見えた。


「もうこの辺でいいかぁ!?」

「いいんじゃねぇ? 貧民街だったら死体でもありがたがって有効活用してくれるだろ」


 異種族は袋に包まれた何かを抱えていた。

 

「ったく、あの商人も悪趣味だな」

「皮を剝いでから、内臓だろ? とても異種族おれらがやることじゃねえよ」


 彼らはカリウスの目の前を通り抜ける。

 その際、彼らが抱えている袋の一部がずれて中に入っているものが見えた。


(……子供)


 顔の半分の皮が剥がれた少年の頭部だった。

 

「ここらへんでいいか?」

「いいだろ。そんな丁重に扱うべきもんでもねぇし」


 彼らは袋を路地裏の角に投棄する。

 ぼと、という小さな音が響いた。

 おそらく、中に入っている少年は栄養失調の上、奴隷として買われた商人に遊ばれたのだ。

 死体を包んでいた袋はほぼ外れて、男達の脚の隙間から少年の体が見える。 

 眼球のくり抜かれた顔がカリウスを見ていた。


「よーし、帰ろうぜ」

「そうだな」


 彼らが一仕事を終えて振り向く。

 すると道に立ち塞がるようにカリウスが立っていた。

 

 ——ね? だから言ったでしょ。簒奪者どもには力で分からせないと。

 ——暴力で訴えないと。

 ——使い捨ての消耗品じゃないってこと、示さないと。

 ——ほら、凶器ナイフを握り締めて。 

 ——大丈夫、私がついてるから。

 ——見ててあげるから。

 ——やれよ。


「おい、何だこのガキ」

「てめぇもああなりたくねぇだろ。だったらとっとと退けよ」


 男達の前に立ち塞がるカリウスの手には、血塗られた凶器ナイフが握られていた。



 第2話 簒奪者たれ

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