8 呪物に全てお任せ!……には出来ません
ダンジョンの中で感覚がにぶるが、朝である。一秒も狂わないという、国から貸し出されたアーティファクトの腕時計を見ると朝の8時だ。私は女子用テントから這い出して、水に濡らしたタオルで顔を拭いてから身支度を整える。それを終えると、もそもそと朝食の支度を始める。
やれと言われたわけでは無いけど、マジックバッグ自体を私しか持っていないからね。
とりあえず人数分のパンを出し、軽く火を起こして乾燥野菜のスープを作る。そこに干し肉を入れたら簡単朝食の出来上がりだ。うーん、カリカリベーコンと目玉焼き欲しい。スープくらいの匂いはともかく、流石に迷宮でそこまで香ばしい匂いは垂れ流せないので残念だ。
「わ、いい匂いだね。ダンジョンで柔らかいパンが食べられなんて、夢みたいだ」
匂いにつられてイクリスさんが起きてくる。
「ごめんね、1人でやらせて。手伝わせて」
そう言いつつ、手際よくスープをお椀によそってゆく。
「いえ、大したことしていないので。料理って言うほどの料理じゃないですし」
そんなやりとりをしていると、いつの間に起きてきたのか、後ろからサーリャさんが後ろから抱き着いてきた。
「誰より早く起きて朝食の準備とか健気……お嫁に欲しいわね」
何故かそのまま、なでなでしてくる。私の周りにはスキンシップの激しい女子が多いな。私は心の中でアリスさんを思い出す。
「サーリャさんは料理が壊滅的ですもんね。毎食レーションの方がなんぼもマシですよ」
セイカさんが手櫛で前髪を整えながら男性用テントから出てくると、サーリャさんが直した先からぐしゃぐしゃにしていく。「やめてください!」とか叫んでいるが、余計な事を言う方が悪いので仕方ない。
他の人も温かい料理に感動しきりだったが、マジックバッグがすごいだけなので、偉ぶる事も訳にもいかず、へにゃっと笑ってごまかすしかない。このメニューで感動って、フィールドワークって過酷なんだな。私はコレが終わったら一生街から出なくていい。フラグじゃないぞ。
小さい火を囲んでご飯を食べる……ここがダンジョンじゃなければキャンプみたいで最高なのに。
簡素なご飯はすぐに食べ終わり、セリアンさんの水魔法でざっと皿を濯いだ後に、火の始末をする。
今日からまた行方不明者の後を追うために進んでいく事になる。
”解析”
目が熱を帯び、10M程先から足跡とぼんやりとした姿が見える。
「それでは進みましょうか」
イクリスさんの後ろから目を凝らして道の先を見やる。
「そこを左に曲がって下さい。………あ」
散々建物を歩かされたかと思うと、また下へ続く階段が現れた。この遺跡は下に伸びている構造で、地面に埋まった塔のような構造の建物らしい。
「ここからは本格的に降りるらしいな。より一層、気を引き締めて行こうぜ」
ガイアスさんが後ろから声をかけてくる。ここまでは小さい戦闘しかなかったが、下層に行くにしたがって魔物も強くなっていくだろう。
遺跡内は相当広い。行き止まりや自然に崩れて進めない場所もあり、先行隊の影の姿も行ったり来たりしている。スキルを休み休み使いながら、更に降りいく。降りる事8階層。思ったより進んでいるし、途中途中で休憩した跡も有ることから、まだちゃんと生きているらしい事が伺える。
最悪死体回収になってしまうが、そうならない事を祈るばかりだ。
・・・・・・・・・・・・・・・
下層に行くにしたがって戦闘は増えるが、先行隊との距離が確実に縮まってきており、比較的新しい休憩跡が見つかる。しかし、そこでは鞄や手帳などの荷物が乱雑に散らかって落ちていた。
「これは……慌てて逃げた後か?」
イクリスさんが休憩の跡を確認しながら、振り返って言う。
”解析”
敵の情報が無いので私に敵の姿が分かる事は無いが、ばたばたと走っていく人間の影が見える。
「ここで敵に見つかったようですね」
逃げていく後姿を確認してスキルの発動をやめると、建物の影から
Riririririn!!
と音がしたと思うと、5m程の大きな目玉に翼の生えたような魔物が吠えた。口も無いのに金切り声を出し、翼はどす黒くて控えめに言ってもグロテスクだ。
「こいつが原因か……氷雪は戦闘態勢、非戦闘員は後ろへ!」
イクリスさんの鋭い一声で、イクリスさんとガイアスさんが前に躍り出る。サーリャさんはそこから10m程距離を取り、いつでも魔法を打てるように構えた。
セイカさんはこちらの前に来て庇うように立ち、全体に聖魔法の結界を張った。
敵は翼が有るので狭い建物の影では動きづらいかと思いきや、何と意外にも暴れながら翼で瓦礫の穴を広げている。私は魔物など鑑定に持ち込まれた素材や死体しか見た事が無かったので、生きている魔物を見るのは初めてで、恐ろしくて毛穴から冷汗が拭きだし、口が渇いて声が奪われた。
魔物は翼に風を纏わせて二人に打ち付けている。
私が圧倒的恐怖を感じて足がすくんでいる間にも、前方で剣戟が繰り広げられてる。剣で攻撃を防ぎつつ息を合わせて攻撃を打ち込んでいる。二対一なので一見押してるように見えたが、一撃一撃を確実に当てているのに、目を凝らすと攻撃が効いているような様子はない。敵は翼を風で覆い、風の刃でも打ち付けてくる。
更に、戦闘の音につられたのか、もう4匹魔物が現れてしまった。更にガラガラと瓦礫が落ちてきて、突然の出現と視界の悪さに一瞬ガイアスさんの両手剣が鈍ると、今度はその隙をついて一匹が両の翼を手のように使って魔法で出来た雷の球を作り始めた。
バチバチバチバチ!!
雷の瞬きが幾重にも重なって渦を巻いていく。
防御結界は有っても、敵との距離が近すぎてサーリャさんも攻撃魔法が打てない。
「!!」
これは死んだかと思って本能的に腕で顔をかばうと、腰からベルジュが降り立って、広範囲を瓦礫ごと見えない壁の魔法で吹き飛ばした。5匹の敵は圧縮され、力無く床に落ちてピクピクと痙攣している。
『ふっ、他愛も無いな』
ベルジュは得意そうに鼻をヒクヒク動かしながら仁王立ちになっているが、まだ息がある。私はきょろきょろと見回して、魔物から抜け落ちた羽を見付けた。
”解析”
私の目に熱が集中してきて魔物の情報を読み取る。魔物の右の翼の付け根が赤く光るのが見えた。更に細かく見ようとしたら、スキルの乱用でショートしたように右目が眩んだ。
「右の翼の付け根です!そこに核が有ります!」
核と言うのは言わば心臓部のような物で、弱点だ。
眩んだ目を押さえて訴えると、イクリスさんの肩がぴくりと動いてガイアスさんと顔を見合わせて頷き、素早く翼の付け根を切り裂く。
Krrrrrr!!
魔物は断末魔を上げると、ビクンと大きく痙攣したかと思うと動かなくなった。
5匹のグロテスクな魔物を倒すと、ようやく全員が息を吐いた。
「すごいな、これがアーティファクトの力か……」
イクリスさんが感心しきりにベルジュを見ていると、兎はますます増長して両の腕を組む。
『これでワシの凄さが分か』
「ちょぉぉぉぉぃ!一匹目で何で助けてくれなかったの?」
あまりの衝撃に、思わず話の途中で秒でツッコんでしまった。
『”守る”までもなかったからな。お前に攻撃がきておらんかったし、契約違反では無かろう?』
なんだそれ!なんだそれ!!憎らしい!
しかし助かったのは事実なので、それ以上何かを言うのはやめた。何か言っても無意味だろうし。考古学チームがベルジュを化け物を見る目つきで見ているが、呪物なので似たような物だ。訂正はしない。
「はあ……血の跡もありませんから、先行隊もこの辺りにいるかもしれませんね。探しましょう」
ポーションを飲んでスキルを回復させつつ探す事二時間。相当逃げ回ったのか、痕跡が混ざりあっており、骨が折れた。遺跡の中を相当ぐるぐると彷徨った末、袋小路に4人を見つけた。私は、ようやくミッションが終わった事に安堵して言う。
「まさか、護衛無しで来たんじゃありませんよね?護衛の人はどうしました?」
私の問いかけにリーダー格と思われる男性が震えながら口を開く。
「多分、し、死んだ……。俺らを逃がす為に」
死体は見つからなかったし血痕も無かったが、魔物が巣に持ち帰るか何かしたのだろう。その間にも、セイカさんが怪我人がいないか確認している。
「どうしますか?」
私は振り返ってイクリスさんに聞いてみる。メンバーは見つかったので私の仕事は完了なのだが、考古学チームは遺跡の探索に来たので、そちらはまだ目的を果たしていない。だが今回の臨時パーティーのリーダーは、イクリスさんだ。決定を下すのは彼である。
彼は「うーん」と唸ると、「食料の事も考えて次の階層まで探したら戻りましょう」と提案してきた。まあ、妥当な案だろう。
その後、魔物に見つからないように下へ続く階段を隠れながら探し、無事に下に降りる道を見つけた。
また夜にアップしに来ますね。




