とある平凡なプロローグ
文章を人前にお出しするのは初めてなので、お手柔らかにお願いいたしますね。
「それじゃあ、セルフィちゃん、窓口嬢よろしくねん」
私の肩を叩いてマッチョオネェのギルド長が去って行く。私は鑑定科、ひいては解析スキル”アナライズ”で裏方作業従事していたのに。窓口の接客業なんて聞いてないよ。
どうしてこうなった。
私の事を語るなら、まずは私の背景を話しておこうと思う。
ここは温暖な気候と白堊の城が美しい街カレデュラ。街全体の建物も白く塗装されており、白き都との呼び声も高い。漁港も有って観光地としても有名だ。
そして、冒険者ギルドが有ると云うのがこの街が栄えている一端でもある。冒険者と言うのは地位、名誉、財宝、はたまたスリルを求めて冒険に出る、一種の自由業である。ともすれば、ならずものともなりかねない彼らに仕事を斡旋し、管理するのが冒険者ギルドだ。
私の名前はセルフィ・ミストレス。
すみれ色の瞳とミルクティー色の肩までの少しくるくるした髪がちょっとだけ自慢だ。冒険者ギルドに勤めて2年の18歳。窓口から奥に入った素材鑑定室が、私の居場所である。
受付から持ち込まれた素材を「解析」して、買取の値段を決める裏方仕事だ。
「解析」は「鑑定」とは違って、物の状態を見るのではなく、物の記憶を「視る」のだが、鑑定と似た事が出来るので査定部門に籍が有る。
例えば、ここにオークの骨付き肉が有るとする。
「鑑定」では、
・上位種オークの肩肉 鮮度★5 毒性無し
と(個人の能力による)出るのだが、私の「解析」は
・上位オークの若い個体。鮮度★5 上腕部についていた肉。
毒性は無く、直前にハーブを食べていた為に微回復効果有り。
3時間前に死亡。
と出る。
ぶっちゃけ、素材の鑑定に、ここまでの能力は必要ない。
しかし、私の仕事はもう一つ有る。
勤務の終了時間の15分前。業務の後片付けをしてると、同期である窓口嬢のアリスさんがドアから顔を覗かせる。
「セルフィ、なんかギルド長が呼んでるよー。帰る前にギルド長室に来てくれって」
「はーい」
手元に有る書類をトントンとまとめると、ギルド長の部屋が有る二階へ足を進める。
「今日も、何かあったのかな……」
独り言を呟いていると、ほどなくしてギルド長室の前に来る。
ノック三回。
「入っていいわよ」
中から野太いオネェ声が聞こえる。
「失礼します」
一礼しながら部屋に入ると、たくましい体のギルド長がソファに座っていて、向いのソファを指し示して「座って」と、おだやかに言う。
ティーコジーの下からポットを取り出して、手ずから香り高い紅茶を淹れてこちらに勧めてくる。ノンシュガーのストレートティー。分かっていらっしゃる。
カップ半分程飲んで落ち着いたのを見て、ギルド長は人相画の載った紙を一枚ペラリと出す。何だか、如何にも素行が悪そうな風体である。肩の隆起した筋肉、有るか無しかの眉毛、画だけでは身長は分からないが、小柄では無さそうである。
「この男は、最近あちらこちらで騒ぎを起こしている冒険者なのよねん。根城にしている場所を探したいんだけど、尾行をいつも巻かれてしまうのぉ。”視”れないかしら?」
私は渡された紙を一瞥する。
「ギルド長、流石に紙の上の端的な情報だけじゃ分からないですよ」
そう、他者が書いた紙に記憶は宿らない。これでは私の解析眼は役に立たないのだ。
「そこで、これよ。あいつが今日落としていったタオル。これなら分からないかしら?」
「うっ、何だかバッチイですね……。犬が臭いを追うみたいな状況で少々不快ではありますが、やってみます」
薄汚れたタオルに軽く手を置いて、浅く息を吸う。
「解析」
目に力を宿すと、奥が熱を持つ。その途端、情報が視界を覆い尽くすほど映し出される。しかし、誰しも覗いてほしくない部分は有るわけで。私も人道にもとる部分は覗かない事を念頭に置いてある。
男が歩いて行く路地が、影となって思い浮かび、一軒の建物の前に着く。
とりあえず、必要な情報は拾えた。私はパチパチと瞬きを繰り返してピントを元に戻した後、目を閉じる。
「金物職人通りから二本奥に入って、左へ行った突き当りの建物らしいです。宿屋風では有りますが、看板は付いてないので謎です」
ギルド長も心得ているもので、温かいタオルを持ってきてくれる。蒸気が、疲れた目に気持ちいい。
「これでようやく追い詰められるわぁ。明日は騎士団とガサ入れね!」
うきうきしながら喜んでいる声を聞きながら、疑問を呈す。
「この男、何やったんです?」
「この男は、特別ライセンスが要る狩場に無断で入り込んで、ピクシードラゴンの幼体を捕獲して、闇ルートに流してる疑惑が有るの。流石に証拠が無いと捕まえられないでショ?うふふ、これで一網打尽よ……」
ギルド長は口調に反して筋骨隆々なので、見た目を裏切らない武闘派である。明日は騎士団とタッグを組んだガサ入れで、血の雨が降るかもしれない。
悪事をした方が悪いに決まっているが、私に出来るのは、せめて一思いにやっ(殺?)てくれるように祈るのみだ。
しばらく黒い笑みを浮かべていたギルド長だが、ふと我に返ると私に言った。
「今日は残業になっちゃったから、明日は午前休でいいわよ。お手当も付けておくから!」
私は礼を言ってその場を辞した。微妙に疲れた。今日は遅い時間までやっている酒場まで行って甘い物でも食べよう。
まあ、お酒は飲まないんだけど。
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『解析』
この能力が発現したのは、五歳になったばかりの頃。家で飼っていた子犬が行方不明になってしまったのが事の発端だ。名前を呼んで探すが姿は見つからず。駆け回ってようやく足跡を見つけたけれど、跡を辿り始めたばかりなのに雨にあたってしまった。
ようやく手がかりを掴んだのに、諦められるわけもなく。その時に、何か少しでも手がかりが無いかと地面に這いつくばり、犬の首についていた筈のリボンが落ちているのを見つけて、それに触れて”視た”のが初めてだ。
たちまち足跡の上に子犬は淡い影となって浮かび上がり、自分の目線が地面に近い景色で変わっていった。丁度、子犬の後頭部を見る形で道が通り過ぎて行く。手を伸ばしても子犬に触れる事は出来なくて、唖然としながらもその影に着いていった。
かくして私は岩の隙間で震えながら雨宿りをしていた子犬を見つけたのだが、私が雨の中濡れて帰ってきたことで心配して大騒ぎになっていた両親にその事を伝えると、顔を見合わせて難しい顔になった。
結局、雨の中を帰った事で風邪を引いて3日寝込み、ようやく治ったと思ったら街の小さい神殿に連れていかれる事になったのだ。
神殿長様は、個々の特有のスキルを見ることが出来る古代の遺物に私を触れさせた。”鑑定”の上位スキル”解析”という結果に腰を抜かしそうな程驚かせてしまった。かなりご高齢だったので、神に召されてしまうのではないかと思うくらいであったが、生きていたのでセーフと言えるだろう。こちらは神殿長様の命を守れたことに安堵してしまったのを覚えている。
『解析』とは『鑑定』とは違い、視覚で情報を読み取るのではなく、物の記憶を読み取るのだ。よって、触れないと情報は入ってこないので、見たままで鑑定できる能力とは比べてみても、一長一短だ。
しかし、スキルを乱用しないようにとは神殿長様に言い含められた。
もちろん個人によって、能力値には大いに違いが出る。私は幸いにも能力が強い事も有って、16歳を待って神殿長様に推薦状をもらい、王都に上京して冒険者ギルドの査定部門に入ったのだ。
特技を生かした職場という訳である。
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その為に、少々毛色の違う仕事がたまに入って来て受け持つ事も有り、手当と休みをゲットしているのである。
しかも、冒険者ギルドは、国が運営しているので国家公務員である。年に二回のボーナスも有り、休日も有る。強いて言うなら、大体の仕事と同じで繁忙期が有る程度か。
国の行事などが有ったり、大規模な狩りが有ると、天手古舞になるが、それが落ち着けば少々暇にはなったりする。 しかし、冒険者に対する依頼はひっきりなしに舞い込むので、冒険者も食いっぱぐれず、ギルドも潰れたりしないのだ。
これが商業ギルドや鍛冶ギルドなどだと、個人経営の集まりという扱いになり、他の地域との競合が起きることによって規模が拡大したり縮小したりと忙しいらしい。寄り合いみたいなものなので、国家事業の冒険者ギルドとは違ったりする。
ビバ・公務員。潰れないお仕事オイシイです。
緊張しつつ書いてます。有難うございました。




