四十一、僕の幼なじみは今夜も
翌朝。
隣がゴソゴソしている感覚に、塚田純希は目を覚ました。
「……小春?」
まだハッキリしない意識で純希は呼びかけた。
「あっ、起こしちゃった?」
ベッドから降りた加藤小春は済まなそうに言った。
「……今、何時?」
それを気にする様子も無く、純希は眠気眼で聞いた。
「六時前」
小春はさっき確認した時間を告げた。
「夕べはシャワー浴びなかったから、今、浴びちゃおうと思って」
小春は全裸で、純希もまた全裸だった。
夕べは服を全部脱ぎ捨て、裸で抱き合って寝たのだ。
「僕も朝の準備があるから、もう起きるよ」
ようやく意識がハッキリしてきた純希もベッドを降りる。
「じゃあ、また後でね」
言いながら小春は唇をねだった。
それに応えて、純希は軽く唇を合わせる。
「えへへ」
満足そうな笑みを浮かべた小春は、部屋を出て浴室へと向かった。
それを見送ってから純希は部屋に散乱した服を集めて身につけた。
そして、加藤家の家を出る。
合い鍵で施錠することも、純希は忘れていなかった。
そのまま隣の塚田家の部屋に戻る。
鍵は加藤家の部屋の合い鍵と一緒のキーホルダーにつけてあった。
玄関を上がると、既にダイニングに人の気配があった。
「お帰りなさい、純ちゃん」
すると、母、塚田希美が顔を出す。
「ただいま、母さん」
「コハちゃん、どうだった?」
すぐに自分の部屋に入ろうとした純希に、希美は声を掛けた。
「今は落ち着いている」
純希は至って冷静に答えた。
「昌美さんは?」
希美は、一番気になっていることを聞いた。
「うん、大丈夫みたい」
「なら、よかった」
純希の答えに、希美はホッとした。
「じゃあ、僕、着替えるから」
そう言い残して、純希は部屋に入った。
「うん」
それに希美は頷いた。
シャワーを浴びて身支度を調えた小春は、いつもの時間に塚田家の部屋の前に立っていた。
服装はちゃんと制服を着ている。
昨晩、帰り際に事務所に寄って回収したのだ。
インターフォンを押す。
『はーい』
すぐに希美の声が聞こえた。
「小春です」
それに小春は、いつも以上に元気に応えた。
『今、開けるわね』
そう言ってから、トタトタと足音が玄関に近づいてくる。
「いらっしゃい、コハちゃん」
玄関のドアを開け、希美は小春を出迎えた。
「おはようございます」
「はい、おはよう」
頭を下げた小春に、希美も微笑みながら挨拶を返す。
「さぁ、上がってらっしゃい」
それから、小春を招き入れた。
「お邪魔します」
頷いた小春は、玄関に上がった。
すると、玄関に置かれたローファーを見つけた。
「委員長、もう来てるんだ」
小春は独り言を呟いた。
「おはようございます」
挨拶しながら、小春はダイニングへと入った。
「おはよう」
いつものようにタブレットで新聞を読んでいた塚田純生が応える。
「おはよう、加藤」
配膳を手伝っていた下野薫も応える。
「おはよう」
やはり配膳を手伝っていた純希も答えるが、頬の筋肉が緩んでいた。
「おはよう、純希」
小春もまた、ニマニマが止まらなかった。
「?」
その様子に気付いて、薫は頭に疑問符を浮かべた。
小春も手伝いに入り、配膳は程なく終わった。
「いただきます」
全員が席に着いたところで、朝食が始まった。
「小春、醤油取って」
「うん」
純希のお願いに、小春は醤油を渡した。
そんなやり取りはいつものことなのだが、なにやら甘い空気が漂っていることに薫は眉を顰めた。
「そう言えば……」
同じく甘い雰囲気を感じながらも、希美は敢えて触れずに別の話題を振った。
「昌美さん、目が覚めたんですって?」
「あっ、はい……」
途端、小春の表情が暗くなった。
「悪いの?」
その様子を見て、希美は顔を曇らせた。
「いえ」
それを見た小春は、慌てて首を横に振った。
「病状は落ち着いているんですけど……」
「喧嘩、しちゃったんだよね?」
言葉を濁した小春に、純希が後を引き継いだ。
「うん……」
それを受けて、小春は肩を落とした。
「まぁ」
小春と昌美の仲の良さは知っていたので、希美は思わず手に口を当てる。
「原因は?」
それから、うっかり聞いてしまう。
人様の家のこととは言え、気になってしまったからだ。
「……お母さんに、仕事のことを反対されたんです」
希美のことを信頼している小春は、本当のことを告げた。
「ああっ……」
純希と小春以外のその場にいた全員が納得の表情をする。
「でも、平気です」
意識して笑顔を作った小春は、ガッツポーズをした。
「ちゃんとわかってもらうように、説得しますから」
そして、言い切る。
「そこは……」
心配げに希美は言いかけた。
「母さん」
だが、それを純生の一言が止めた。
恨めしそうに自分を見る希美に、純生は首を横に振った。
食卓に気まずい空気が流れる。
「あのさ」
その沈黙を破ったのは薫だった。
「なんか、今日、塚田と加藤の雰囲気、おかしくない?」
さっきから疑問に思っていたことを、薫は聞いた。
「そおっ?」
それに小春は素っ恍けた。
「そうかな?」
小春の反応を見て、純希も素っ恍ける。
「気のせいじゃない?」
「……なんか怪しい」
そんな小春に、薫はジト目で二人を見た。
それを見た純希は、小春に目配りをさせた。
小春も視線で頷いた。
「実は……小春と付き合い始めたんだ」
純希は照れながら報告した。
「えっ……!?」
それを聞いた薫は驚きの声を上げた。
「えっ!?」
だが、それを掻き消すように希美も大声を上げる。
「二人って、まだ付き合ってなかったの!?」
希美は驚愕した。
「うん……」
その理由がわかるから、純希は歯切れ悪く頷いた。
「そうだったんだ……」
独りごちる希美を見て、純希は心の中で冷や汗笑いした。
一方、薫はショックでなにも言えなくなった。
「まぁ、今更、つき合ってもなにが変わるってわけじゃないけどね」
小春はお気楽に言った。
「母さんみたいに、もうつき合ってると思ってた人も多そうだし」
それに純希も付け加える。
「それでも、おめでとう、純ちゃん、コハちゃん」
「ありがとう、母さん」
「ありがとうございます、希美ママ」
希美の祝福に、純希と小春は頭を下げた。
「……」
そんな様子を、薫は呆然と見ていた。
「おめでとう、じゅんお兄ちゃん、こはお姉ちゃ……ん」
朝食を終えていつのようにマンションのロビーで野上沙弓と待ち合わせた。
そこで純希と小春は、沙弓に付き合い始めたことを報告したのだ。
「ありがとう、さゆ」
「ありがとう」
沙弓の祝福の言葉に、純希と小春はお礼を言った。
「……」
それを横で見ながら、薫は悄げていた。
(委員長……)
そんな薫を純希は気にした。
「純希」
と、小春が純希の耳元で話し掛ける。
「情けは無用だよ」
そして、やはり薫を気にしながらも、釘を刺す。
「わかてるよ」
純希は小声で答えた。
(わかってるけど……)
落ち込む薫を、純希は不憫に思った。
その日、一日、薫は落ち込んだままだった。
それを見て、純希は罪悪感に襲われた。
「委員長……」
そして、昼休み。
とうとう耐えられたくなった純希は、薫に声を掛けた。
「塚田……」
今にも泣きそうな顔で、薫は純希を見上げた。
「ごめん……委員長……」
「謝らないで!」
純希の謝罪の言葉を薫は拒絶した。
「今、謝られたら、もっと惨めになる……」
薫は目に涙を浮かべた。
「委員長……」
そんな薫の態度に、純希はますます済まなそうな顔をした。
「明日には元気で笑うから、今はソッとしておいて……」
「うん……」
涙目で見詰める薫に、純希は頷くことしかできなかった。
放課後になり、純希と小春は新横浜の総合病院に来ていた。
昨晩の話に決着をつけに行く小春に、心配になった純希もついて行ったのだ。
小春が先に病室に入り、純希が後に続く。
「あら~、いらっしゃいコハちゃん~」
小春の顔を見て、母、加藤昌美は、おっとりとベッドから起き上がった。
「今日は純ちゃんも一緒なのね~」
それから純希の顔を見て、おっとり微笑む。
「お久しぶりです、昌美おばさん」
純希はこれから起こることを予想して、背筋を伸ばして挨拶した。
「なんか~、しばらく見ない間に頼もしくなったわね~」
「そうでしょうか……」
それでもおっとりと昌美に褒められて、純希の気が緩みそうになる。
「お母さん」
空気が和み始めたのを、小春は真面目な声で止めた。
「あたしね、純希と正式につい合い始めたの」
「そうなんだ~、おめでとう~」
娘の報告を昌美はおっとりと祝福した。
「それでね」
小春にとってはここからが本番だった。
「あたし、やっぱり仕事を続けたいの」
小春は真剣な目で昌美を見詰めた。
「そうなの~?」
しかし、昌美は眉を顰めた。
「お母さんは~、やっぱり反対だわ~」
それから首を横に振る。
「どうして!?」
小春は早くもヒート気味だった。
「借金も、二人で返した方が早く返せるじゃん!」
「それは~、そうなんだけどね~」
その言葉には、昌美も頷いた。
「じゃあ!」
「でも~、やっぱり反対かな~」
それでも、昌美はおっとりと否定した。
「昌美おばさんは、なぜ、反対なのですか?」
そこで、それまでことの成り行きを見守っていた純希が口を挟んだ。
「う~んとね~」
純希の問いに、昌美は人差し指を唇に当てて考えた。
「わたしが~、コハちゃんのお母さんだからかな~」
そして、おっとりと答える。
「それじゃあ、答えになってないよ!」
小春は、イラッとして、ますますヒートアップした。
「コハちゃんも~、純ちゃんの子供を産めばわかるよ~」
それでも昌美は曖昧なことしか言わなかった。
「えーっと……つまり……」
それを純希は頭をフル回転させて翻訳しようとした。
「この仕事が日陰業だからですか?」
「う~ん……そうだね~」
ちょっと考えてから、昌美はおっとり頷いた。
「やっぱり娘には~、日の当たる場所を歩いて欲しいから~」
昌美はおっとりと答えたが、小春はカチンとなった。
「あたしは、この仕事を日陰業だなんて思ったことない!」
そして、大声で怒鳴りながら反論する。
「そりゃあ、他人にはおおっぴらには言えないけど、それでも、立派な仕事だって思ってる!」
小春は怒りまくった。
「お母さんのことだって、ずっと尊敬してたし、自分で仕事を始めてから、余計にそう思った!」
仕事を始めた当初、お客様に喜んでもらえることとの難しさを痛感したことを思い出しながら、小春は怒鳴り散らした。
「そっか~」
それを聞いた昌美は目を丸くした。
「コハちゃんは~、お母さんのこと~、そんな風に思ってたんだ~」
それから感慨深げに呟いた。
「わかったわ~」
昌美は、おっとり頷いた。
「でも~、純ちゃんはそれでいいの?」
「小春が決めたことなので」
その結論ならもう出ているので、純希は真剣な目で頷いた。
「そう~」
それを察した昌美は、再びおっとりと頷く。
「なら~、お母さんから~、言うことはなにもありません~」
それから昌美は、おっとりと微笑んだ。
「一緒に借金返済~、がんばりましょう~」
「お母さん!」
昌美の言葉に、小春は喜びの声を上げて抱きついた。
「うん~」
そんな娘の頭を昌美は優しく撫でた。
(なんとかなった……かな?)
それを見た純希は、心の底からホッとした。
半年後。
リハビルも順調に進み、昌美は仕事に復帰した。
看板婦女子の復帰を、客は大いに歓迎した。
そして、今夜は特別なオプションが組まれていた。
小春と昌美を同時に指名できるオプション。
いわゆる親子丼だ。
今までも複数の婦女子を指名できるシステムはあったが、親子は、二人が初めてだった。
当然、その分、オプション料も嵩む。
それでも日曜深夜の抽選会にはサーバーが落ちかけるほどに客が殺到した。
見事、権利を勝ち取ったのは、二人に縁の深い人物だった。
いつもと違い、母とともにホテルに着いた小春は、緊張気味だった。
銀治郎がチェックインを済ませ、キーカードを昌美に渡す。
「部屋は911号室です」
「ありがとう~、銀治郎君~」
部屋番号を告げる剣銀治郎に、昌美はおっとりお礼を言った。
「じゃあ~、行こうか~」
昌美はおっとりと小春に声を掛ける。
「うん……」
それに小春は、ぎこちなく頷いた。
そのまま二人はエレベーターに乗った。
「ドキドキしてる~?」
娘の様子を察した昌美は、おっとりと聞いた。
「うん……」
小春はやはりぎこちなく頷いた。
ここまで緊張するのは、初めて仕事をして以来だ。
「大丈夫だから~」
そんな小春の手を昌美は握った。
「うん」
その手の温かさに小春がホッとした。
九階に着いて二人はエレベーターを降りた。
手を繋いだまま廊下を歩いて、部屋に辿り着く。
そのままキーカードをタッチして、小春と昌美は部屋に入った。
「もう~、手を離しても大丈夫~?」
昌美はおっとりと、優しく聞く。
「うん、もう平気」
小春の緊張は既に解けていた。
それを聞いた昌美は手を離すと、客を迎え入れる準備に取りかかった。
小春も倣って、手伝う。
そうしているうちに、ドアがノックされた。
小春は出ようとしたが、それを昌美が止めて、自らドアの前に立つ。
「木馬~、発見の暗号は~?」
それからドア越しにおっとりと聞いた。
「えーっと……風はすぐ吹く」
「正解です~」
客の答えに、昌美はおっとりとドアを開けた。
そこには、常連客の一人、富山敬吾が立っていた。
「こんばんは、日和さん」
帽子を脱いだ敬吾は頭を下げた。
「お久しぶりです~、富山様~」
昌美もまたおっとりと頭を下げる。
「お久しぶりです」
小春もまた、母に続いて頭を下げた。
「本日は~、ご指名いただきありがとうございます~」
おっとりと昌美は礼を言った。
その間に小春は、敬吾の着ていたブレザーを脱がすとハンガーに掛ける。
「こちらこそ、こんな滅多にない機会に恵まれて感謝しているよ」
敬吾はニコニコと笑った。
「先にお風呂にしますか~?」
「いや……始めさてもらおうか」
おっとり聞いた昌美に、敬吾は首を横に振った。
「小夜ちゃんのときはいつもそうさせてもらったからね」
そして、付け加える。
「あら~」
昌美はおっとりと困った顔をして、小春を見た。
「ごめんなさい……」
どうやら自分が悪いことをしていたと察した小春は、素直に謝った。
「気にしなくていいんだよ」
それに敬吾は優しく微笑んだ。
「私からお願いしたんだからね」
「そうですか~」
それでも昌美は済まなそうな顔をする。
「では~、ベッドへ~」
だが、すぐに気を取り直すと仕事を始めた。
ベッドの前まで来た小春と昌美は服を脱ぎ始めた。
昌美は、ワンピース状のフォーマルドレスを着ていて、まず、背中のファスナーを下ろすと腰から上を脱いで、残りを足下から抜く。
紫のブラとセットのショーツ、それに黒いガーターベルトとストッキングが露わになる。
それから背中に手を回してブラのホックを外す。
そのままブラの肩紐を腕から抜くと、昌美のGカップの胸がポロリと揺れて露わになる。
ブラを脱いだフォーマルドレスの上に置いてから、昌美はショーツの横のゴムに指を掛ける。
桃の皮を剥くように、昌美の熟れた臀部からショーツを剥がす。
脱いだショーツは右左と足から抜いて、ブラの上に置く。
これで昌美が身につけているものガーターベルトとストッキングだけになった。
(エロっ……)
自分も服を脱ぎながら、母の姿を見た小春は思わず唸った。
母の裸など今まで数え切れないぐらい見ているはずだが、それでも戦闘状態の昌美は小春の知らない色香を纏っていた。
その間に敬吾も服を全部脱いで裸になった。
「では、始めようか」
敬吾は和やかに言った。
♢♦♢♦♢♦
結局、この夜はベッドで二回戦して、あとは風呂でまったりと過ごした。
同じ頃、純希は自分の部屋で勉強していた。
フッと手を止めた純希は、スマホで時間をチェックした。
「小春は、今頃、仕事中かな……?」
そして、考える。
純希は小春が仕事で乱れるところを想像した。
だが、すぐに嫌になって、頭を左右に振ると妄想を掻き消した。
「僕は正常だ……」
自分の感覚が麻痺していないことに、純希は安堵した。
それでも、
僕の幼なじみは今夜も知らない誰かに抱かれる。




