二、小春のお仕事
シャワーを浴び身だしなみを整えた加藤小春は、仕事用の上下セットの下着を付け、ブラ透けよけのベージュのキャミソールを頭から被ると、白のTシャツを着て、ボトムはデニムのショートパンツを穿いた。
そこでもう一度、スマホで時計を確認する。
「やばっ」
と焦って、急いで戸締まりを確認すると家を飛び出した。
駅まで走り、私鉄に乗り込む。
途中、乗り換えをして、目的地の新横浜までやって来た。
かってはラブホ街で知られていたこの街も、今やオフィスビルが立ち並ぶビジネス街へと変貌していた。
その一角にあるオフィスビルに小春は入った。
エレベーターで目的の階へと上がる。
そして、エレベーターを降りると、目の前にある扉を開けた。
「おはようございます」
「おはよう、コハちゃん」
小春が挨拶をすると、PCを叩いていた草津恵美子が挨拶を返してきた。
赤い眼鏡がトレードマークのキャリアウーマン風の女性だ。
「もう銀兄ぃ、来てる?」
小春の問いに恵美子は肩をすくめた。
「奥でお待ちかねよ」
「やばっ……」
それを聞いた小春は慌てて奥の部屋へと向かった。
「おはようございます……」
小春は小声で部屋に入った。
そこは六畳ぐらいの大きさでソファーとテーブルが置いてあった。部屋の奥にはなぜか畳が敷いてある。
「おはよう、コハちゃん」
すると、畳にあぐらを掻いた、年の頃なら二十代中盤の女性が挨拶を返してきた。
仕事仲間の久東梓だ。
「おはよう」
そして、もう一人、ソファーに座ってタブレットを操作していた剣銀治郎が応える。
黒い短髪に鋭い目つきをしたイケメンだ。
歳は三十歳だが、年齢にそぐわない落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「遅くなってごめん、銀兄ぃ」
小春は本当に申し訳なさそうな顔をして、片手で拝んだ。
「まだ時間前だ。問題ない」
タブレットからは目を離さず、銀治郎はいつものそっけない口調で言った。
「すぐ着替えるから」
それでも焦りながら小春は、更衣室の扉を開けた。
そこは脱衣所兼になっており、隣にはシャワー室が完備されていた。
小春は自分のロッカーを開けると、ハンガーを取り出し、ロッカーのドアに引っかける。
そして、Tシャツとショートパンツ、それにキャミソールを脱ぐと、ハンガーに掛けた。
それを仕舞い、代わりに小道具のセーラー服を取り出す。
光沢のある白いセーラー服に袖を通した小春は、紺のプリッツスカートを穿く。
ブラ透けよけのキャミソールは着ない。
その方が客が喜ぶからだ。
最後にこれまた小道具の学生カバンを持って、小春は更衣室を出た。
「おまたせ、銀兄ぃ」
「準備は整ったか?」
タブレットをしまった銀治郎は、小春に聞いた。
「学生証は?」
言われて、小春は学生カバンの中を再確認した。
「OK!」
「仕事用のスマホは?」
「そっちもOK!」
「なら、行くか」
銀治郎の言葉に小春は頷いた。
二人は事務所を出ると、エレベーターで地下まで降りた。
そこは駐車場になっていて、銀治郎は停まっている黒いクーペ――――メルセデスAMGクーペのドライバーズシートに乗り込んだ。
サイドシートには小春が乗り込む。
そして、クーペは駐車場を出ると首都高速の入口に向かった。
「今日の客は新規だ」
首都高速に乗って東京に向かいながら、銀治郎は今日の仕事について説明した。
「事前の調査では、問題ないことが確認されている」
顧客の情報を集めて精査するのも銀治郎の仕事に一つだった。
「ただ、絶対という事は無い。もし何かあれば……」
「すぐに連絡するよ」
小春は銀治郎の言葉を受けて頷いた。
「そうしてくれ」
そんなやり取りをしているうちにクーペは、都内に入った。
首都高を降りて目的のホテルに着く。
そこは都内でも有名な豪華ホテルだった。
地下駐車場にクーペを停める。
クーペを降りた小春と銀治郎は、エレベーターで1階まで上がった。
「ちょっと行ってくる」
小春を待たせた銀治郎は、フロントへと向かった。
そこでチェックインを済ませる。
それから小春のところに戻ってくると、二枚あるカードキーのうち一枚を渡した。
もう一枚は銀治郎が預かっている。
もし、なにかあった場合、すぐに駆けつけられるようにだ。
「部屋は二七九号室だ」
銀治郎の言葉に小春はコクッと頷いた。
「じゃあ、行ってくるね、銀兄ぃ」
ニッコリ笑う小春に、銀治郎は無言で了解した。
エレベーターに乗った小春は二十九階まで上がる。
そして、指定された部屋の前まで来た。
カードキーをタッチしてロックを解除する。
中に入ると照明を付けて、部屋をグルッと見回した。
部屋はシングルルームで、テーブルにイス、それに奥にはセミダブルのベッドが置いてあった。
程なくして、ドアがノックされた。
「はい!」
返事をして小春はドアの前まで来る。
「合い言葉を言ってください」
それからドア越しに話し掛けた。
「砂漠に蝶は飛ぶか」
扉の向こうの相手は、少しまごつきながらも、返事を返した。
「えーっと……砂漠の飛ぶのはサボテンの棘」
「正解です」
嬉しそうな声で小春は扉を開けた。
そこには、年の頃なら四十歳ぐらいの小太りの男性が立っていた。
今日の客、高木伸介だ。
「高木様ですね。お待ちしてました」
そう言って小春は伸介を部屋に招き入れた。
「本当に中学生なんだ……」
小春を見た伸介は感慨深げに呟いた。
「はい」
それに頷きながら、小春は伸介に背広を脱ぐように促し、部屋備え付けのハンガーに掛けた。
「学生証は見せられる」
「いいですよ」
伸介の要求に小春は笑顔で応え、学生カバンから学生証を取り出した。
「私立山手女学館中等部小迎小夜子ちゃんか……事前に聞いていたとおりだ」
それを見た伸介は感動した。
(本当は、学生証は偽造だし、学校も名前も違うんだけどね)
そんな伸介を見て、小春は心の中で冷や汗笑いした。
「今日は二時間コースでよろしかったですか?」
「うん」
確認した小春に、伸介は頷いた。
「では……キスしていいですか?」
僅かに潤んだ瞳で、小春は聞いた。
「うん……しよう」
伸介は唇を近づけた。
(あっ……息、臭くない)
微かにミントの香りがする。
恐らく小春のためにマウスケアをしてくれたのだろう。
小春の中で伸介への好感度が少し上がった。
そのまま二人はキスをした。
始めから伸介は舌を小春の口に入れてきた。
それに応えるように小春も伸介の舌に自分の舌を絡ませる。
「はぁっ……♡」
甘い吐息が漏れる。
それに興奮した伸介は唇を離すと、
「ベッドへ行こうか」
小春の耳元で優しく囁いた。
「はい……♡」
その言葉に小春ははにかんだ。
♢♦♢♦♢♦
結局、ベッドで二回戦、浴室で一回戦して、今日の小春の仕事は終わった。
まだ十分ほど時間が合ったが、既に小春も伸介も衣服を整えていた。
「また指名するね」
「はい、よろしくお願いします」
伸介の言葉に、小春は丁寧にお辞儀して応えた。
そして、伸介は一足早く部屋を後にする。
残された小春は、おもむろに学生カバンからスマホを取り出した。
メッセの音声通話機能で銀治郎に連絡を取る。
「終わった~」
「定時間内だな」
疲れた声の小春に銀治郎は簡潔に応えた。
「ロビーで落ち合おう」
「はぁ~い」
通話を切って、忘れ物が無いか確認してから、小春は部屋を出た。
エレベーターで一階に降りる。
既にロビーにいた銀治郎にカードキーを渡すと、フロントにチェックアウトの手続きに向かった。
それもすぐ終わり、エレベーターで地下駐車場まで降りると、メルセデスAMGクーペに乗り込んだ。
「疲れた~」
サイドシートに座り、シートベルトを付けた小春は、シートに背中を預けながら呻いた。
計三回戦だったが、二回戦と三回戦で小春は何度もイカされた。
なので今や体力は、赤く点滅していた。
「事務所に着くまで寝てていいぞ」
それを察した銀治郎は、いつものそっけない声にちょっとだけ感情を込めて言った。
「うん、そうする~」
兄と慕う相手の優しい言葉に、小春は目を閉じた。




