十六、誕生日
十月最後の日。
つまり、十月三十一日。
授業が終わった塚田純希と加藤小春は、いつのように一緒に下校した。
しかし、今日はいつもと違って純希は小春の部屋に行かなかった。
玄関前で小春と別れた純希は、自分の部屋に鍵を使って入った。
「ただいま」
玄関でスニーカーを脱ぎながら声を掛けると、すぐに返事が返ってきた。
「お帰りなさい」
ダイニングから顔を出した母、塚田希美は、笑顔で息子を迎え入れた。
「準備、できてるわよ」
「ありがとう、母さん」
希美の言葉にお礼を言ってから、純希は自分の部屋に入った。
リュックを部屋の適当な場所に投げてから、制服を脱いで部屋着に着替える。
今日の部屋着は長袖のTシャツにスエットパンツだ。
部屋を出た純希は、洗濯物をランドリーケースに入れて、手洗いうがいをしてからダイニングに向かった。
母が用意してくれたエプロンを纏って腕まくりをした純希は、作業に入った。
工程は頭に入っていたが、念のため、スマホにレシピを表示させる。
まず、粉ふるいに薄力粉を入れて、よく振るう。
次に、この日のために買った無塩バターを湯煎する。
「オーブンシート、敷いておくね」
希美が型にオーブンシートを敷いた。
「次は……」
レシピを確認しながら、ボウルに卵を割って、グラニュー糖、蜂蜜を加える。
ボウルを湯煎しながら、純希は泡立て器で泡立てた。
ボウルが人肌まで温まったところで、湯煎を外す。
そこから純希はさらに泡立てる。
「これぐらい?」
芯が残るぐらいまで泡立ててから、純希は希美に聞いた。
「うん」
ボウルを覗き込んだ希美は、笑顔で頷いた。
それを聞いて、純希はボウルに最初に振るった薄力粉を入れると、ゴムへらで混ぜ始めた。
「これぐらい?」
粉気が少し残るぐらいになったところで、純希は再び希美に聞いた。
「うん」
希美は、またも笑顔で頷いた。
なので、純希はさっき溶かした無塩バターをボウルに足して、ゴムへらでさらにかき混ぜる。
充分混ざったところで、中身を丸い型に入れた。
「あっ、予熱」
そこで純希はオーブンを予熱していなかったことに気付いた。
「暖めてあるわよ」
「ありがとう、母さん」
希美のフォローに感謝しながら、純希は型をオーブンに入れて温度が百八十度に設定されていることを確認してから、タイマーを三十五分にセットした。
焼いている間に、純希は生クリームに粉砂糖を加えて泡立てた。
それが終わると、イチゴをデコレーション分残して半分切った。
包丁を持つのは初めてではなかったが、それでもおっかなびっくりだったので、そこは母にフォローしてもらった。
そうしているうちにオーブンが焼き上がった。
ミトンを使ってオーブンから型を出して、クーラーの上に逆さに置き粗熱を取る。
粗熱が取れるのを待って、焼き上がったスポンジを半分に切った。
ここでも、器用にはいかなかったので、希美がフォローする。
一枚目のスポンジにホイップクリームをへらで塗って、半分に切ったイチゴを乗せる。
さらに二枚目のスポンジを乗せて、純希はスポンジ全体にホイップクリームを塗りたくった。
「ふーっ」
なんとか形になって純希は安堵の溜め息を吐いた。
「あとは飾り付けだけね」
(もう少しだ)
希美の言葉に純希は気合いを入れ直した。
絞り袋に口金を着けて、中に残ったホイップクリームを全部入れる。
そして、絞り袋を絞り、飾り付けをしていく。
それが終わると、絞られたホイップクリーム上にイチゴを乗せていく。
最後に、あらかじめ買っておいたチョコプレートに文字を入れて、真ん中に飾り付けた。
「できたぁ」
純希は額を拭った。
「おめでとう」
希美も小さく拍手して、完成を祝う。
「時間は……まだ、早いかな?」
多少の遅延は覚悟していたが、ほぼレシピの時間通りに完成できた。
小春が指定した時間までにはまだ間がある。
「ところで、どうやって持っていくの?」
「あっ……」
希美の言葉に純希は固まった。
作ることばかりに気が向いていて、運ぶことまで考えていなかった。
「だと思ったわ」
肩をすくめた希美はリビングに行くと箱を持って戻ってきた。
「これに入れなさい」
そして、箱を純希に渡す。
「ありがとう、母さん!」
純希は希美の気遣いに感謝した。
小春が指定した時間の十分前に純希は箱を持って塚田家の部屋を出た。
格好は部屋着のままだ。
本当は正装しようとかも思ったが、小春が、いつものままで、と言うので着替えるのをやめた。
加藤家の部屋の前で純希はインターフォンを押した。
すると、すぐに玄関のドアが開いた。
そこには、長袖のTシャツに綿混のショートパンツ、その上にエプロンを着た小春が純希を出迎えていた。
「もう直ぐ終わるから、中で待ってて」
「お邪魔します」
小春の言葉に、純希は玄関に入って履いていたサンダルを脱いだ。
そのままダイニングに入ると、テーブルには既に豪華な料理が並んでいた。
しかし、真ん中だけは空いている。
すぐに察した純希は持ってきた箱をそこに置く。
「わぁー! 本当に作ってくれたんだ!」
それに気付いた小春は、感激した。
「開けていい?」
小春の問いに、純希はコクッと頷いた。
「凄い!」
箱を開けた小春は、歓声を上げた。
そこにはイチゴのケーキが入っていた。
チョコプレートには『Happy Birthday Koharu』と書かれていた。
そう、今日、十月三十一日は、小春の十四回目の誕生日なのだ。
「お店で買ったやつみたいじゃん!」
それを見た小春はハイテンションで喜んだ。
「本当に純希が作ったの!?」
そして、聞く。
「母さんにも手伝ってもらったけどね」
純希は、照れくさそうに頬を掻いた。
「でも、本当によかったの?」
それから聞き返す。
「誕生日プレゼントが僕の手作りケーキなんかで……?」
純希がわざわざ普段はやらないお菓子作りに挑戦したのも、小春のリクエストがあったからだ。
小春はネズミーなどのキャラ物も大好きだが、無骨なガジェット系にも目がない。
なので、誕生日プレゼント選びはなかなか大変で、それを悟った純希は早々に自分で選ぶことを諦め、小春にリクエスト聞くことにした。
それで聞いた今年のリクエストが、純希の手作りケーキだったのだ。
「純希の手作りだから、いいんだよ!」
小春は目を輝かせて力説した。
「これは、世界でたった一つなんだから!」
「うん……まぁ……小春がいいなら、いいんだけどね」
その迫力に純希は冷や汗笑いをした。
「最高のプレゼントをありがとう」
小春は唇を求めた。
それに応えて、純希と小春はケーキの上で軽いキスをした。
小春の誕生会は純希と小春、二人だけで行われた。
例年なら、これに小春の母、加藤昌美が加わるのだが、今年は入院中で不在だ。
小春にとっては初めてのひとりぼっちの誕生日だが、純希がいてくれたので寂しくはなかった。
ちなみに、昌美がいたときはケーキは既製品だった。
料理も半分以上は小春が作っていた。
お嬢様育ちの母は、元々家事が一切できず、小春が生まれて初めて料理をするようになったのだ。
なので、料理はあまり得意ではなく、自分が不在の間に預かってくれた希美から料理を教わった小春の方がよほど料理ができるのだった。
「今日は仕事はいいんだよね?」
二人だけの誕生会を終えて、後片付けも済んで、リビングのソファでまったりとしているときに、純希は小春に聞いた。
「うん、お休みもらってる」
小春はコクッと頷いた。
「てか、強制的に休みになった」
当初、小春は誕生日も普通に働くつもりだった。
だが、事務所の代表がそれを許さなかった。
これは全ての所属女性に与えているものなので、例外は認められない、と。
本来、誕生日はかき入れ時だが、そもそも、専用アプリのプロフィール欄は全然違う日を誕生日にしているので、客から誕生日プレゼントをもらい損なうこともなかった。
「まぁ、いらないんだけどね」
小春はケタケタと笑った。
「確かに小春のツボを突く誕生日プレゼントは、難しいからね」
純希も冷や汗笑いをするしかなかった。
余談だが、去年、小春が純希にリクエストしたプレゼントは、ノギスだった。
デジタル表示で、十分の一ミリまで計れる物だ。
なんでも、ネットで見かけて一目惚れしたそうだ。
(小夜子の誕生日はまだ先だけど……)
プロフィール欄には三月と書いてある。
(選ぶ人は苦労しそうだなぁ……)
純希はまたもや心の中で冷や汗笑いを浮かべた。
「ところで」
そこで小春は話題を変えた。
「お風呂入った?」
「いや、まだだけど」
「なら、一緒に入る?」
小春は期待の眼差しで純希を見た。
「いいけど」
それに応えるように純希は頷いた。
「じゃあ、すぐに準備するね」
キラキラとした目で小春は喜んだ。
鼻歌交じりで、風呂を準備する。
(これは風呂だけじゃ終わらないな)
だが、この展開は純希も予想していた。
それを踏まえた上で、サプライズも用意していた。
待つことしばし。
「準備終わった」
浴槽に湯を張り終わったことを電子音声が伝えた。
「入ろ?」
脱衣所から小春に声を掛けられ、純希もリビングから脱衣所に向かった。
「じゃあ、脱ぎ脱ぎしましょうかぁ」
小春はいつもの調子で純希の服を脱がせようとした。
「いや、ちょっと待った」
しかし、純希はそれを止めた。
「ん?」
「今日は小春の誕生日だから、僕が奉仕するよ」
首を傾げた小春に、純希は宣言した。
「えっ?」
それを聞いた小春は固まってしまった。
「嫌?」
その反応に純希は下から聞いた。
「嫌じゃないけど……恥ずかしい」
小春は照れた。
「今更?」
それが意外で純希は吹き出しそうになる。
寸前で堪えたが。
「乙女心は複雑なの!」
それでも小春はちょっとムッとした。
「ごめん、ごめん」
その反応に純希は素直に謝った。
「嫌ならやめるけど?」
「ううん」
純希の言葉に、小春は首を横に振った。
「ご奉仕して……」
そして、潤んだ瞳でおねだりする。
その仕草にグッときた純希は、さっそく小春を脱がしにかかった。
まず、小春を万歳させて長袖のTシャツを脱がす。
薄桃色のブラが露わになる。
次に綿混のショートパンツを脱がす。
青色の縞柄ショーツが露わになった。
「……」
小春は恥ずかしいそうに頬を染めた。
それから純希は、背中に回って、ブラのホックを簡単に外す。
そして、肩紐を片方ずつ小春の細い腕から抜いた。
小春のまだ成長途中のBカップの胸が露わになる。
最後にショーツの両サイドのゴムに指を入れて下へおろす。
薄くまだ生えそろっていない陰毛が露わになり、そのまま股間も露わになる。
小春に片足づつ上げてもらって、ショーツを足から抜いた。
小春を脱がし終えた純希は、自分も素早く着ている物を脱いだ。
それから、小春をエスコートしながら、浴室へ入る。
「目をつぶって」
小春をバスチェアーに座らせた純希は、後ろに立つと頭からシャワーをかけた。
黒髪がしっとり濡れる。
続いて、シャンプーを手に取って髪になじませていく。
「かゆいところはありませんか?」
純希は冗談交じりに聞いた。
「うん……大丈夫」
しかし、小春は真面目で答える。
「小春?」
その様子に心配になった純希は、自分もトーンを真面目に切り替える。
「……なんか、本当に照れるね」
頬を染めながら、小春は小さく笑った。
「頭、流すね」
それを可愛く思いながら、純希はシャワーで頭の泡を流した。
続いてリンスをする。
それが終わるとスポンジにボディソープを垂らして、泡立てた。
そして、背中を洗う。
「ひやぁ!」
その瞬間、小春は変な声を上げた。
「くすぐったかった?」
笑いを堪えながら、純希は聞いた。
小春は無言でコクッと頷く。
それを受けて純希はソッと背中を洗った。
小春の肌はまるで陶器のようにすべすべで、スポンジに吸い付くようだった。
そのまま両腕も洗う。
それが終わると、今度は小春の前に回り、足を洗った。
小春は耐えるようにギュッと目を閉じていた。
最後に身体を洗う。
まず、胸を洗った。
すると、胸の先が固く尖っているのがわかった。
「純希ぃ……」
小春は切なそうな声を出した。
(あっ……スイッチ入っちゃったかな?)
思った純希は、小春に優しく聞いた。
「する?」
それに小春はコクッと頷いた。
♢♦♢♦♢♦
行為が終わり、後始末をした後で純希と小春は自分で身体を洗った。
そして、純希が湯船に入り、その上に小春が乗る。
「今日はすぐイッたね?」
身体に染み渡るお湯の感覚に浸りながら、純希は何気に聞いた。
「だって……」
すると小春は頬を朱色に染めた。
「純希がご奉仕してくれるってだけで、期待しちゃったんだもん……」
そして、照れくさそうな顔をする。
「そっか……」
それを聞いた純希は、自分まで照れくさくなった。
「あーあ、幸せな誕生日だったなぁ」
言いながら、小春はグッと伸びをした。
「なら、よかった」
満足そうな小春を見て、純希は笑顔を浮かべた。




