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麗子様は好き勝手に生きてやる!  作者: 古芭白あきら
第4章 中等部のみぎり・前編

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第136話 麗子様は全て持っていてズルいらしい。

「本当に麗子様は凄いです」


 うーん、これは文字通りの賛辞ではなさそうね。


「そうかしら?」

「そうですよ……麗子様は何でも持っています」


 梓ちゃんの声音の中に、仄昏(ほのぐら)い情念の響きが感じられたのだ。それは羨望や嫉妬を越えた先にある感情……恨みとも憎しみとも思えるもの。


「すっごく綺麗だし、清華家のお嬢様だし、家は超お金持ちだし……」


 うん、まあ、そこは否定しない。特にすっごい綺麗というところは!


「内進生なのに勉強はできるし、運動神経もいいし……人望もあって、友達もたくさんいて……私とは大違い」


 ポツリ、ポツリと、梓ちゃんが自分の内に秘めた黒い情動を吐露していく。その瞳はひどく暗く、まるで闇に飲み込まれたみたい。


「私、言うほど友達はおりませんわよ?」


 ちょっと前までボッチやったからな。くすん。


 私の周りはほとんど取り巻きやし。真に友と呼べるのって菫ちゃんくらいやないかな。桔梗ちゃんはまだデレてくれないの。しくしく。


「でも、さっきも飼い主さん達と、とっても仲良さそうにしてたじゃないですか」

「あれは飼い主同士のコミュニティの挨拶みたいなものでしてよ」

「私にはそんな社交性もありません」


 そっか……梓ちゃんは私や藤浪さんを羨んでいるけど、決して憎しみの対象としているわけじゃないんだ。


「麗子様はズルいです……私なんかより、ずっとずっとたくさんの物を持てる」


 梓ちゃんが憎んでいるのは――


「私には何もないのに!」


 彼女自身なんだ。


「私には何もない……外部生の中じゃ成績底辺だし、中流家庭で家柄もそこそこ、性格は暗いし、容姿だって平凡……何の取り柄もないです」


 他者と比べて劣る自分を嫌っているのね。


「大鳳学園に合格した時は嬉しかったんです。やっと私も特別になれたんだって……そう喜んだんです」


 半年前、大鳳の校門を潜った時は、希望に満ち溢れていたんだろう。


「でも、そうじゃないって、すぐに思い知らされました。大鳳には本物の特別がいっぱいいたから……私はやっぱりみそっかすだった……」


 だけど、挫折して、心が折れて、そんな時に藤浪さんに目をつけられてしまったのね。


「大鳳なんか来なきゃよかった」


 その言葉に込められているのは、現実を突きつけられた梓ちゃんの慟哭。


 このまま梓ちゃんを放置できない。けれど、私は彼女の苦悩をどれだけ受け止めてあげられるだろうか?


 梓ちゃんは視線を落とし、膝の上で握る拳を見つめた。


「結局、私なんかじゃ大鳳でやっていけるわけなかったんです」

主計(かずえ)さんは――」


 梓ちゃんの拳にそっと手を重ねた。数瞬して、重ねた私の手にやっと気がついたように、彼女は顔を私に向けた。


「私なんかじゃ……では、ありませんわ」

「えっ?」


 梓ちゃんが驚いて、目を大きく見開いた。

 あら、けっこう可愛い顔してるじゃない。


「主計さんにも誇れるものがたくさんあるではありませんの」

「私には何もありません……誰かより優れたものなんて何も……」

「一番ではないかもしれませんが、優れているものはあるのではなくって?」


 そりゃあ誰だって一番になりたい。一番って響きが素晴らしいもんね。当然、一番の人は褒め称えられるべきよ。


 でも、一番以外に価値はないの?


 そんなこたーない。たとえ一番に届かなくとも、そこまで積み重ねた努力があるなら、それもまた誇るべきものだ。少なくとも自分自身だけは誇らなくちゃいけない。


「主計さんの成績は外部生の中では下位かもしれません。ですが、内進生の大半に勝っているではありませんか」


 そうなのだ。


 大鳳の受験はめちゃくちゃ難しい。それを突破してきた梓ちゃんの成績が内進生に負けているはずがないのだ。まあ、我は勝ってるがな。


「家柄だって、主計(かずえ)家は半家(はんけ)ではありませんか。外部生のほとんどは、その家格さえありませんのよ」


 私は梓ちゃんの眼鏡を外してにっこり微笑んだ。


「それに、主計さんはとっても可愛いではありませんの」

「そ、そんな……」


 サッと、梓ちゃんの頬が赤く染まった。


「れ、麗子様みたいに綺麗じゃないです」

「あら、ですが私よりもずっと目が大きくってチャーミングですわよ」


 私の目つきは鋭く悪い。なんせ悪役お嬢様だからな。


「羨ましいくらいですわ」


 眼鏡を手渡し、頬を撫でて褒めると、いよいよ梓ちゃんは顔を真っ赤にした。


 ――『清涼院様、一番診察室までお越しください』


 どうやら、マダラさんの検査結果が出たようだ。私は立ち上がると、梓ちゃんにウィンクして笑いかけた。


「ほら、主計(かずえ)さんにもいっぱい良いところがありましたでしょ?」


 果たして、私の言葉でどれだけ梓ちゃんを救えたかは分からない。でも、後は彼女自身で答えを出すしかない。


 さーて、私はマダラさんの検査結果を聞きに行きますか。


 若せんせー! マダラさんの容態はいかがでしたかー?


「やあ麗子ちゃん、マダラちゃんは骨も折れてなかったし、内臓も損傷してなかったよ」

「先生、それではマダラさんは大丈夫なんですのね?」

「うん、命に別状はないよ。念の為に一泊入院はしてもらう必要はあるけどね」


 ほっ、マダラさんは大事なかったようね。本当に良かった――


「だけど……」


 って、ちょっと先生、安心したところで、いきなり険しい顔しないでくださいよぉ。上げて落とすタイプですか?


「それよりも問題は別にあるよ」


 もう、いったい何だって言うんですか。

 まさか、検査したら癌が発見されたとか?


「麗子ちゃん、その手……大丈夫なの?」

「はい?」


 言われて自分の手を見たら、左右で大きさが違う!?


「だいぶん腫れてるよね」


 そうだった。マダラさんを庇って右手を強打されたんだった。


「それ痛くないの?」

「痛いですぅ~」


 意識したら急に痛みが……イタタタタッ!


「救急車、呼んでおくね」


 そのまま救急病院へ直行したら、骨にヒビが見事に入っておりましたとさ。


 いったーい!


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