第115話 麗子様はイジメの現場を目撃する。
「私を藤浪摩耶と知らないの」
「摩耶さん、こいつ外部生ですよ」
「まったく、外部生は常識がなくて困るわ」
常識がないのは君達の方じゃないのかね?
そんな大勢で少女一人を恫喝するなんて。
「麗子様、また藤浪グループがイジメをしてます」
「まったく、藤浪さんは野蛮でいけませんわぁ」
うん、君達も大概だかんな。あれを反面教師にして悔い改めてくれたまえ。
「あなた、名前は?」
「か、かず……です」
すっかり怯えきって眼鏡の女の子がか細い声で答えたけど、ぜんぜん聞き取れない。
「ああん?」
「はっきり言えグズ」
ヤンキーかおのれらは。
「主計……梓……です」
あーあ、眼鏡の女の子、目に涙を溜めて今にも泣きだしそうじゃない。
まったく、藤浪さん、なにやってんの。
「ふんっ、梓ね」
「摩耶さんがグループに入れてやるとおっしゃっているわ」
「えっ、わ、私、別に……」
強引な勧誘しとるなぁ。
「最近、ああやって自分のグループを強化しているみたいですよ」
「本当に不良みたいですわねぇ」
もう見ていられないわ。
「行きますわよ」
「はっ、お供します」
「いよいよ藤浪さんを成敗なさるのですわねぇ」
「腕がなります」
だから君達、ちょっと血の気が多いよ。あくまで話し合いだからね。くれぐれも乱闘騒ぎは起こさないでよ?
それにしても、藤浪グループも巨大化したのぉ。ひい、ふう、みい、たくさん。おいおい、いったい何人おんねん。十人は下らんぞ。
女の子の集団舐めとったわ。こりゃ、久条家で大人に囲まれた時より恐くない?
えー、今からあの集団の中に突撃するのか。
あー、なんか帰りとぉなってきたんやけど。
えっ、ダメ?
仕方ないなぁ。楓ちゃんも椿ちゃんも私から離れないでよ。
さーて、いっちょかましたらぁ。
「藤浪様」
おい、声をかけた瞬間ぐりんって一斉に振り向くなや。恐いやんけ。
「あらぁ、落ち目の麗子様ではありませんか」
ニタニタ笑う藤浪さんのバックコーラスは取り巻きどものクスクスと人を馬鹿にするような笑い声。
こいつらなぁ。私が滝川とケンカしてようがしてまいが、藤浪さんが偉くなるわけじゃなかろうーに。
「このような大衆の面前で何をなさっておられますの?」
「麗子様には関係ありませんわ」
「そうそう、内輪の話に首を突っ込まないで欲しいわ」
「まったく、でしゃばりなんだから」
数が多いと気が大きくなるものらしい。我に盾突けばどうなるか分かっとらんな。お前ら潰すぞ。我のお兄様が。
いやん、麗子、恐かったですわぁって泣きつけば、ヤンデレシスコンお兄様がソッコーテメェらを家ごと潰してくれんだかんな。まあ、やらんけど。
いやぁ、最近のお兄様、マジでシャレにならんのよ。こんな子供のケンカで家を没落させてはさすがに寝覚めが悪いわ。
「内輪と申しましても、そちらの方は藤浪様とは縁もゆかりもありませんでしょ?」
さっき名前聞いとったもんな。今の今まで赤の他人やったんやろ。
「そんな子を泣かせていたのですから放ってもおけなかったのですわ」
「梓はもう私のグループの一員よ」
おいおい、今日知り合ったばっかで梓って、図々しいやっちゃな。
「なに言ってんのよ。さっきまで名前も知らなかったくせに」
「さっき自己紹介して仲良くなったのよ」
「恫喝していたの、お間違いではありませんの?」
「ふん、人望のない落ち目な麗子様の腰巾着のくせに」
いや、我が清涼院派閥は少数精鋭派なんで人集めなんてしてないだけや。これは負け惜しみやないんやで。決して我に人望がないわけじゃない……ないわよね?
「なんですってー!」
「悔しかったら摩耶さんみたいに大勢を従えてみなさいよ」
「それこそ脅されて集められた張りぼてではありませんの」
コレコレ、君達ちょっと口が悪いぞ。ほれ、眼鏡っ子の梓ちゃんが震え上がっておるではないか。
まあ、今の内に……
「主計梓さん……でしたわね?」
「は、はい」
声をかけたら、ビクッと震える梓ちゃん。
うーん、可哀想にすっかり怯えちゃって。
「もし、あなたが助けを求めておられるのなら、私が少しだけ力を貸してあげられますわよ」
「力を……」
私に向けられた眼鏡の奥の瞳が怯えの中に少しだけ希望の光をきらめかせた……そんな風に私には見えた。
「あらぁ、麗子様ったら私のグループの子にちょっかいかけるのは止めてくださいます?ー」
ったく……藤浪め、テメェと一緒にすんなや。せっかく梓ちゃんの心が開きかけてたのに。
「主計さんは藤浪さんのグループではないでしょう?」
「もう梓はうちのグループに入ったのよ」
背後から肩を掴んで梓ちゃんに圧かけてんじゃねぇ。せっかく上げた顔がまた下向いちゃったじゃない。
「主計さん、それで本当によろしいんですの?」
さあ、顔を上げて助けてって訴えて。梓ちゃんが声を上げてくれなきゃ私は何もできないんだよ。
「まったく、天下の清涼院家の者が他派閥から引き抜きなんてみっともないマネするじゃないの」
「引き抜き……?」
「そうそう、麗子様もご自分の勢力を伸ばされたいんでしょう?」
テメェのようなボスザルと一緒にすんなし。清涼院派閥は少数精鋭。見境なく勧誘などしとらんわ。
「けっきょく麗子様も……同じ……」
梓ちゃんがボソッと呟いた。けど、か細い声で俯いてるせいもあって聞き取れなかった。
「麗子様は……綺麗…し……成績だって……それなのに、家柄も……」
「主計さん?」
恐る恐る声をかけると、梓ちゃんが顔を上げてキッと睨んできた。眼鏡の奥の瞳に涙を溜めて。
「あなたみたいな人に私の気持ちなんて分かるはずない!」
「あっ、お待ちなさい」
止める間もなく梓ちゃんが逃げ出しちゃった。
「ふふん、残念だったわねぇ、麗子様」
「ざまぁないわ」
「これに懲りたら私達のグループにちょっかいかけないでちょうだい」
藤浪さん達が勝ち誇りながら去っていったけど……梓ちゃんは逃げ出したんだから、別に君達の勝利ってわけでもないでしょうに。
「あの主計って子はなんなんですか!」
「せっかく麗子様が差し伸べてくださった手を拒絶するなど言語道断ですわぁ」
楓ちゃんと椿ちゃんがぷんぷん怒りだした。まあ、梓ちゃんが私の助けを拒否したせいで、藤浪さんのデカい顔を許さざるを得なくなったのだから無理ないか。
「それは別に構いはしませんが……主計さん、大丈夫かしら?」
「麗子様は優し過ぎます」
「あんな恩知らず、どうなろうと自業自得ですわぁ」
そうは言うても、ちょっと心配なんよ。
梓ちゃんはあまりに気が弱くって、気の強い藤浪さんとは決定的に相性が悪い。たぶんイジメみたいな状態になるんじゃないかなぁ。
——後日。
「ちょっと梓、遅いわよ」
「で、でも、みんなの荷物が重くて……」
たびたび荷物持ちをさせられたり……
「ちょっと飲み物買ってきてー」
「あ、あの…次の授業がもう始ま……」
案の定、パシリにされてる梓ちゃんの姿を見かけるようになった。
「麗子様が気にかける必要はありませんわぁ」
「そうですよ。彼女が選んだ道なんですから」
椿ちゃんと楓ちゃんは梓ちゃんに対して厳しい。どうにも彼女に裏切られた感を強く抱いているようだ。
「だけど、このままで良いとも思えませんわ」
うーん、この状況、どうしたものかなぁ……ホント……




