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麗子様は好き勝手に生きてやる!  作者: 古芭白あきら
第4章 中等部のみぎり

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第116話 麗子様はマナー講師になる。


 さあ、いよいよ待ちに待った夏休みに突入よ!


 今年も色んなイベントが目白押しで、我はとっても忙しいのじゃ。


 塾の夏期講習でしょ。家族旅行でしょ。クラスのみんなで花火大会も行くし。あっ、それから社交パーティーも顔を出すよう、お母様から厳命されてたっけ。やだなー。


 今年からと言えば、夏休みに開催される菊花会(クリザンテーム)の交流パーティーもあるのよね。


 ——『夏菊の懇親会クリザンテーム・プレコース


 これ、中等部と高等部合同の親睦会なの。だから、お兄様や美咲お姉様、舞香お姉様も出席なさるのよ。


 うふふ、ちょっと楽しみー。


 だから、今年の夏休みはテンション高めなのだ。だけど、まず一番最初に越えねばならぬ苦痛のイベントがある。


 それは早見のお宅訪問だ。


「いらっしゃい、麗子さん」


 玄関で出迎えてくれた早見ママは二児の母とは思えぬほど麗しかった。相変わらず美人やのぉ。エプロン姿とか初々しい若奥様って感じやし。


「本日はお招きいただきありがとうございます」


 慣用的な挨拶を述べてから菓子折りを渡す。


 これ、どーぞ。銀座仟疋屋(せんびきや)の夏限定フルーツゼリーです。母に持たされましたのよ。おほほほ。

(意訳:ホントは来たくなかったんやでぇ。母に言われてしょうがなくなんや。とほほ)


「やあ、清涼院さん」


 ちっ、やっぱり腹黒(はやみ)眼鏡(みずき)もいやがったか。


 別に早見に会いに来たんじゃないんだからね。ツンデレっぽく聞こえるかもしらんが、ホントにホントなんだから。


「麗子お姉様!」


 おう、最後に登場したのは満面の笑顔のマイエンジェル水面ちゃんではないか。今日のお召し物は赤いヒラヒラワンピースか。


 通常の三倍の速さで突進してくる。さすが赤色だ。だが、我は清涼院麗子。有象無象の雑魚(ザコ)とは違うのだよ。雑魚(ザコ)とは!


 さあ、来い!

 どすこーい!


「グフッ!」


 やべっ、淑女にあるまじきものを吐き出すところだった。なんという突進力。小1の力を見誤っていたわ。


「こらっ、ダメでしょ水面」

「えーっ、だってー」


 口を尖らせて水面ちゃんが拗ねる。かわえーのー。


「だってじゃありません。麗子さんに謝りなさい」

「お、おば様、わ、私なら、だ、大丈夫ですから」


 水面ちゃんを叱りつける早見ママに手を挙げて大丈夫アピールをする、だいぶん苦しんでるけど。


 ふっ、認めたくないものだな。自分自身の若さ故の過ちというものを。


「さあ、上がって上がって」


 ちょっ、水面ちゃん、引っ張らないでぇ。まだ靴を脱いでないねん。


「きゃっ!?」

「危ない!」


 慌てて靴を脱ごうとしたら、バランスを崩してそのまま転倒……と思いきや、早見がサッと抱き止めやがった。


 くっ、屈辱だが助けてもらった礼は言わねばなるまい。


「あ、ありがとう……ございます」

「いや、こっちこそ水面がごめんね」


 ちょっと、早見、近い近い、顔が近い!


 やべっ、心臓バクバクやないかい。コイツに音聞かれとるんとちゃうか。くっそー、こいつが悔しいくらいイケメンなんがいかんのや。


 ええい、いつまで私の腰を抱いてんねん。


「もう、大丈夫ですので」

(意訳:離せよコノヤロー)


 そう?って残念そうな顔をするな。勘違いしてまうやんけ。コイツはいくらイケメンでも君ジャスのヒーロー側だからな。私の敵じゃ。臥薪嘗胆じゃ。


「こら、水面!」

「ごめんなさ〜い」


 おば様に叱られて水面ちゃんがペロッと舌を出した。これは反省していないな。それどころか私と早見を見てニマニマしておる。


 まさかとは思うけど……今のわざとなんじゃ。


 なんか獲物を狙う肉食獣みたく目が光っておるし、水面ちゃんは私と早見をくっつけようとしてるからなぁ。要注意や。でも、可愛いから許す。


「先生はもうキッチンの方へいらしているわ」

「それではお邪魔いたしますわ」


 改めて正面を向いて靴を脱ぎ、玄関に対して横に九十度の向きで膝を折って、靴をくるりと百八十度回転させる。


ここで決して相手に背中を見せないように配慮するのがポイントよ。


「ふふふ、清涼院さんの教育は行き届いているわね」


 危ねー。やっぱ、チェックが入ってたか。こういう細かいマナーって上流階級層でも疎かにしがちなのよね。実際、意外とできていない人は多い。


 だが、清涼院家の恥は晒せぬ。我は小さな隙も見せんぞ。


「やっぱり女の子は良いわね。配慮が細やかだし、とても華やかだし」


 私が靴を揃えるところを眺めながら、早見ママが呟いた。


 やべぇ流れだ。


「瑞樹にもきちんと教えたつもりなのに、どうも男の子はちょっと大雑把なのよねぇ」


 どうも私は早見ママに気に入られてしまっている。このままでは早見のお嫁さんに来ないなんてセリフが出てきそうだ。これは即断ち切らねば。


「おば様には水面ちゃんがいるではありませんの」

「水面も元気に育ってくれたのは嬉しいのだけれど、ちょっとガサツに育ててしまったかしら」


 外見だけなら水面ちゃんは天使な美少女なのだが、中身は元気いっぱい花丸印だ。だけど、まだ七歳だから、これで良し。


「えー、なになに?」


 自分の名前が出てきて水面ちゃんが興味を示した。


「麗子さんのマナーがしっかりしているって話よ」

「マナー?」


 うへぇっと水面ちゃんが嫌な顔をする。まあ、私にも覚えがある。五歳で前世の記憶が蘇って以降、清涼院家でもマナーマナーで息が詰まりそうだったもんなぁ。


「水面は今の麗子さんを見てどう感じたかしら?」

「んー、とっても素敵だった」


 ふっふっふ、水面ちゃんの中の私の株が急上昇しとるよーやな。


「なんだか動きが綺麗で、見てて憧れたの」


 私も麗子お姉様みたいになりたいですってよ、奥様。


 おーほっほっほ、私もなかなかのお姉様っぷりのようね。さあ水面ちゃん、もっと褒めて讃えて尊敬して。


「それは麗子さんがマナーをきちんと身に付けているからなのよ」

「そう……なの?」


 水面ちゃんが警戒しておる——絶対これ、マナー講習に連行される流れやと思っとるな。


 そしてそれは正しい。さすが早見のお母様、やっぱこの人も腹黒やったか。


「マナーというのはね、水面。自分ではなく相手を思って守るものなの。だから、見ていて綺麗だし、内面の美しさも滲み出るのよ」


 でも、言ってることは正しいんよ。

 そう、我は内面も美しいのである。


 この後、水面ちゃんはキラキラした瞳でマナー講習を受ける約束をしてしまった。水面ちゃん、早見ママの手のひらの上で転がされてるよぉ。


 んっ、待てよ……もしかして、水面ちゃんの情操教育のために私はダシにされたんじゃない?


 早見ママ、今日の料理教室で何か企んでいそうね。

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