第114話 麗子様はストーカーされる。
滝川とケンカしたことが学園中に知れ渡った。そのせいで、我が清涼院派閥は滝川派閥と対立しているとの噂が流布された。
「みなさん、なんていい加減なデマを信じているのかしら」
「ええ、まったくですわぁ。麗子様と滝川様は初等部からのお付き合いですのに」
楓ちゃんと椿ちゃん、そんなに怒らんでもええんやで。
我はアイツと仲良くしたいとはこれっぽっちも思っておらんからのぉ。そんな噂はどーでもええんじゃ。
「きっと、広めているのは藤浪グループよ」
「滝川様や早見様と親しい麗子様に嫉妬しているに違いありませんわぁ」
問題はそこなんだよねぇ。
前回の件で、せっかく藤浪さんも大人しくしてたのに。ここぞとばかりに息を吹き返してしまったのだ。お陰でここんとこ私に突っかかってくんのよ。うぜぇ。
あのミーハーどもは、滝川や早見の追っかけで構成されてるからなぁ。アイツらと同じ菊花会のメンバーである私を目の敵にしてんのよねぇ。
藤浪さん達にとって「権力=滝川早見」だかんな。滝川と対立している清涼院派閥は落ち目だとでも認定したんじゃないかしら。お花畑な脳みそしとるぜ。
くっそー、毎度毎度、滝川の尻拭いをさせられるのは勘弁願いたい。私がこんなに苦労してんのに、当事者の滝川は我関せずだもんなぁ。アイツ、自分が悪いなんてこれっぽっちも思ってやしないんだろーな。
まったく、頭痛が痛いぜ。
「あっ、アイツまた!」
それから我には他にも頭痛の種が量産されとるんじゃ。
「麗子様、また白野がいます」
「白野さんも懲りない方ですわねぇ」
壁の影からそっと私を窺う大きなお鼻の男子生徒。
「麗子様を付け回すとは不届者め!」
「外部生ごときが麗子様に想いを寄せるなど、身のほど知らずにもほどがありますわぁ」
そうなのだ。ここんとこシラノ君にストーカーされておるのだ。まあ、我は類い稀なる美少女やからぁ。シラノ君が我に惚れるのも無理はないですけどぉ。
ふっ、美しすぎるって罪よね。
「まったく、白野は自分が麗子様に釣り合うと本気で思っているのかしら」
「容姿端麗、才気煥発、品行方正、まさに大鳳の象徴である麗子様に『ダンゴ鼻』の分際で懸想するなど汚らわしい」
学年トップとなったシラノ君は滝川ファンだけでなく、周囲からのやっかみも激しいようだ。そのせいで彼の特徴である大きなお鼻から『ダンゴ鼻』などと中傷を受けているらしい。
「椿さん、他人様の容姿に対して悪口を言うのは品性に欠けますわよ」
だけど、私はそれが大っ嫌いだ。身嗜みは注意して改善させるべきものだが、容姿は個人の責任ではない。
「はっきり申し上げて私は不愉快ですわ」
「も、申し訳ございません。今のは失言でございました」
椿ちゃんが真っ青になって平謝りしたので、この場は許すことにした。うむうむ、素直な子は好きじゃよ。
ごめんね、キツイことを言って。でもこれも椿ちゃんの為なんやでぇ。自分の友達が卑怯者になって欲しくないんよ。だからキチンと叱らないとね。別に嫌ってなんていないからね。理解してちょ。
「それに、彼は学年一位を取るほどの秀才ですわ。しかも、それだけではありませんわ。運動神経も良く、絵画などの腕前も高い多才な生徒だと、教師の間で評判なんですのよ」
鼻の大きなところといい、まさに現代版シラノ・ド・ベルジュラックよね。これほどの逸材はお兄様に献上することも考慮しておかないと。チェックやチェック、要チェックや!
「白野はそんなに凄い人物だったんですか?」
「それは存じ上げませんでしたわぁ」
「麗子様はどうしてそんなにお詳しいのですか?」
「大鳳の優秀な生徒は全てチェックしておりますの。いずれ清涼院グループを支える人材になるかもしれませんでしょ?」
へぇっと楓ちゃんも椿ちゃんが感心しとるけど、これって特別なことじゃないんやでぇ。
「私だけではなく、滝川様や早見様も同じだと思いますわよ」
青田買いってやつだ。私もお兄様の為に優秀な人材はチェックしておる。決して自分のスパダリを探しているわけではないぞ。ホントよ?
「とは言え、好意を寄せていただけるのは嬉しいのですが……こう四六時中視線を感じると休まる暇がありませんわ」
サロンに逃げ込んでも滝川との軋轢のせいで周囲からジロジロみられるし、塾じゃ桔梗ちゃんから敵視されとるし。お前ら我が視線恐怖症になったらどうすんねん。
「ふぅ、白野さんにも困ったものですわねぇ」
「ここは一つ白野をシメてやりましょう」
コレコレ楓ちゃん、そなたは最近ちょっとガラが悪いぞよ。チンピラじゃないんだから。
「まあ、今のところ実害はありませんし、しばらくは様子見といたしましょう」
シラノ君も人の目があるところで無茶はせんやろ。
「麗子様がそうおっしゃるのなら」
なんで楓ちゃんはそんなに残念そうなん。君、ちょっと血の気が多すぎやしないかね。
椿ちゃんもさっきみたいに過激な発言が目立つようになってきたし、悪役お嬢様の取り巻きである設定が影響してるんかいな。これはキチンと教育しておかねば。
「楓さん、椿さん、この際だから申し上げておきますが……」
「ちょっとあんた!!」
なんだなんだ!?
突然の大声にびっくりして振り返れば……あれは藤浪さん?
どうも藤浪グループの子達が眼鏡をかけた女の子を取り囲んでいるみたいだけど……何やってるん?




