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10.おチビちゃんの挑戦その1-3

「なぁ、なんでそんなに俺と付き合いたいんだ?」


 彼女の家に向かう途中、ふと気になって聞いてみた。

 何度断っても告ってくる女子なんて、俺には初めてだった。

 都合よく付き合うだけなら、告白なんてしなくても、俺は割と気軽に誘いには乗る方だ。

 反対に、告白されて付き合った子とは、長続きした試しがない。

 俺のストーカーをしているおチビちゃんなら、それくらいのことはもうとっくに知っているだろう。

 なのに、なぜこんなに無理をしてまで、俺と付き合いたいと思うのか。


「一目惚れしたからよ」


 顔が見えない安心感からか、おチビちゃんは素直に答えた。


「でも、それだけじゃないわよ」

「ん?」

「電車で口開けて爆睡して一駅乗り過ごして慌ててるボケっぷりとか、道端の野良のニャンコと戯れている時の腑抜けたデレ顔とか、他校の知らない男子生徒に理不尽に絡まれてる時の冷徹振りとか、ラーメンに胡椒入れようとして爪楊枝入れちゃう天然っぷりとか。そういうの全部、いいな、って思って。だから、もっと色々知りたいし、もっと色々見てみたいって、思っちゃうのよ。私、趣味悪いのかしらね」

「……お前、どんだけストーカーだよ」

「失礼ねっ、高宮 漣っ!前にも言ったけど、私はストーカーなどでは」

「声でかいっ!鼓膜破れるっ!」

「頭悪いわね、高宮 漣。これくらいでは鼓膜はそう簡単には破れないわよ」


 俺の耳に、おチビちゃんの小さく抑えた声が響く。

 負ぶってもらっている奴の言葉とは思えないほどの態度のでかさだ。体は小さいくせに。

 それでも、俺はなんか分かったような気がした。

 何故おチビちゃんとは一緒にいても疲れないのか。

 何故おチビちゃんといると、楽しくなってくるのか。


「頭が悪いのはどっちだろうな」

「どういう意味?」

「さぁな」


 それから間もなく彼女の家に到着し、玄関先で彼女を降ろして俺は言った。


「またチャンスを逃したなぁ、おチビちゃん」

「あ?」


 ありがとう、と言いかけていたらしく、『あ』の形の口のまま、彼女はキョトンとして俺を見る。


「お前の顔、ここにあったんだぞ、ついさっきまで」


 俺が自分の肩口をに目を向けると。


「あっ……」


 おチビちゃんは目を見開き、呆然とした表情を浮かべた。


「私としたことが……」

「頭が悪のは、どっちだろうな?」


 思い切り顔を近づけ、見開いたおチビちゃんの目を覗き込む。


「ふんっ!」


 とたんに顔を赤くし、おチビちゃんは顔を背けた。


「お前、ほんとに狙う気あるのか?」

「……あっ!」


 ハッとして、慌てて伸ばしたおチビちゃんの手をかわし、俺は素早く体を離す。


「2回も逃しちゃったなぁ、チャンス」


 悔しそうに俺を睨みつけるおチビちゃんの目。

 悔しそうな顔もいい。怒った顔もいい。

 でも。

 こいつの哀しそうな顔や泣き顔は見たくない。

 そんなことすら思ってしまう。

 ……どうした、俺。おチビちゃん相手に何を血迷っているんだ。


「じゃあな。ちゃんと応急処置してしっかり治せよ。治るまで、待っててやるから」


 そのまま駅に向かって歩き出した俺の背中に、おチビちゃんの小さな声が微かに聞こえた。


「ありがと、高宮 漣」

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