第三三話 レット・スリップ・アウト 失敗
卒論終わって、就職先も決まって、レポートも出し終えて、後はテストと卒論発表だけ。
というわけで、漸く書けますよ。遅くなりました。本当に申し訳ありません。
……働きだしたら、もっと書けなくなるのかなぁ、鬱です。
そんなこんなで、シーチさんとトルスタヤちゃんのキャッキャウフフ編です。
「どうも、通りすがりの傭兵っす」
ニーナ=トルスタヤの耳に届いたのは、場に不釣り合いすぎて不気味なほどに明るい声だった。少女は目を見開き、視界に割り込んできた美女を見つめた。
両頬に黒い十字架の刺青が彫られた端正な表情は、ニコニコと笑みを浮かべている。ゆらゆらと揺れている黒の長髪は、少女の目から見ても美しかった。
灰色のコートとスラックス、という灰色ずくめな地味な格好だが、実用性に拘って煌びやかさも花もない格好の傭兵など、トルスタヤの経験上、珍しくはない。むしろ多数派と言えた。
剣士などの近接戦を主とする傭兵は、常に鎧を着込む傾向が強い。これは女性剣士も変わらない。トルスタヤの場合は、エプロンドレスに強力な防護魔法をかけて代用しているが。
この法則に当てはまるのならば、目の前の美女は、遠距離戦か後方支援を得意とするタイプだろうか。
美女の腰に吊り下げられた短杖を目ざとく見つけたトルスタヤは、警戒する。多種多様な魔法を使いこなす魔法師は、強靭な肉体を持つ剣士よりも厄介だ。どんなことをしてくるか、ある程度予測ができる分、剣士の方が幾らかマシである。
もっとも、トルスタヤとて、年齢は若いが実戦経験は豊富なプロの傭兵だ。魔法師との戦闘経験は少なくないし、何より身内にダリウス=ローという大陸でも屈指の実力を持つ魔法師がいた。魔法師に対抗するための実力も経験も知識も、彼女は兼ね揃えている。
しかし、それは目の前に現れた魔法師を警戒しない理由にはならない。ましてや、仲間と隔離された異常事態の最中では。
「えーと? あぁ、そっか、こーいうときって名前を名乗らなきゃ伝わらなかったんすよね。いやー、失敬失敬っす。どーも、堕天使の心を情け容赦なく覗きまくってくる隊長とか副隊長とかに慣れてると、コミュニケーション・スキルが下がりまくってよくねーっすねー。
おかげでキャ……カーリーサンと初対面……あ? あ、いや、正確に言うと初対面じゃなかったんすけど、マトモに挨拶した時にも苦労したっすよ。いやー、慣れってホントーにおっかねーっすねー。
っつーわけで、初めまして、シーチ=ブロックというものっす。宜しくっす」
「……」
長身の美女は大口を開けて笑いながら、ペラペラと喋り出した。品のない仕種のはずなのに、何故か彼女の美貌は欠片も損なわれていないように見える。しかし、今のトルスタヤに、そんなことを気にしている余裕などなかった。
どうも、おかしい。
違和感を感じるトルスタヤだった。
というより、おかしすぎる。おかしすぎて、おかしくないことが見付からない程におかしい。
幾ら(今のところは)戦う必要性がないからと言って、身内でも同盟関係でもない傭兵にここまでペラペラと話しかけることは普通はしない。傭兵の中には、同業者を見るやいなや装飾品などを奪おうとする性質の悪い連中がいる。流石にそんな輩は少数派だが、そうでなくても自身の情報が知られることを恐れ、接触してきた人間を極度に警戒する(無論、露骨にではない)者が多数派であり、傭兵の業界では当然だ。
傭兵は、傭兵を警戒する。同業という理由で親しみなど沸かない。彼らが信じるのは、自分と仲間のみ。
誰もがそうなので、自分が警戒されても不快に思うことはないし、遠慮なく相手を警戒する。が、それは相手を不快にさせても良い理由にはならない。商売敵関係でもあるが、時としては情報を交換したり、共同戦線をとることもまた事実なので、敵を作って得することなど無いのだ。
そのため、仲間でもない同業者と挨拶する時は、ある程度は距離(物理的・精神的両方の意味の距離である)を保ちながら、話しかけるのが普通、というよりマナーである。
このマナーを破った者は、周囲の傭兵に目を付けられ、仲間集めや情報収集の際に苦労する羽目になる。ルールを破った者は排除されるのが、コミュニティの常なのだ。
これは傭兵育成機関ならまず第一に叩き込まれることであるし、機構も新人の傭兵に積極的に知らせている。機構とて、将来有望な者を無知ゆえの非礼などで失いたくないし、傭兵たちが不仲になるのは治安維持的な意味で歓迎できる話ではない。
しかし、目の前の女性は、その“普通”をあっさりと無視している。
挑発と受け取られても文句は言えないし、場合によっては冗談抜きで戦闘の引き金となりかねない。当たり前であるが、余程の野心家か自信家、或いは戦闘狂でもない限り、仕事以外で不用意に敵を作るような傭兵はいない。
一方、目の前の美女は、自分のことが不信と混乱の目で見られていることに漸く気付いたらしい。ヒラヒラと両の手のひらを見せつけるように振りつつ、口を止める事無く話し続けた。
「あ、別に貴女を襲おうとかたくらんでいたわけではないっすよ? つい癖で、隠れてしまっただけっす。まぁ、咄嗟のことだったわけで、御覧の有様っす。……っつーても、万全の準備しても、あのまま隠れられたかは怪しーところっすねー。
うわー、獣人なんて、初めて見るっすねー」
ビーストは一般的に、危機察知能力を始めとする感覚面では、人間より優れている。視覚や聴覚などの五感についても同様だ。一般人だろうが傭兵だろうが、そこは共通していると言っていい。
傭兵界においては、頑迷な人間至上主義者か人間を絶対視する一部の宗教の関係者たちの傭兵団でもない限りは、ビーストは斥候役、哨戒役として重宝されていた。何しろ、常時警戒用の魔法が発動しているようなものなのだ。
「……何、なの?」
尋常ではないことが起こっている。そう直感したトルスタヤは、二本の剣先を目の前の長身美女――――シーチに向けた。
その反応に、シーチは漸く口を閉じた。そして、ニッコリと微笑む。それを視界に捉えた瞬間、トルスタヤは危うく悲鳴をあげそうになった。
「――――!」
猛烈な吐き気がトルスタヤを襲った。まるで、目の前で大切なものを小馬鹿にされたかのような不快感。生ゴミの山に顔を突っ込んだかのような気持ち悪さ。そんなものを呼び起こすような、綺麗な微笑み。
「……まぁ、ヘウレカ隊長なら、この笑みで一〇〇〇人は自殺させられるっすけどね。リアルの人を殺す笑みって、あー、おっかねーだけっすねー」
小首を傾げ、シーチは目を細めた。
「……で、どうするっすか?」
「……は?」
予想もしていなかった問いに、トルスタヤは目を見開いた。
「通りすがりの傭兵捕まえて、どうするっすか?」
「……え?」
その言葉に、トルスタヤの視線がぶれた。目に見えた動揺だった。
トルスタヤからしてみれば、ローに追い出され、彼の危機を察し、アジトに殴り込もうにもにっちもさっちもいかず、混乱と焦燥に脳をチリチリ追い詰められていた最中に何者かの気配を察し、叫んだのだ。
結果、このおちゃらけているというかゆるいというか、妙な気配で場違いなことを喋りまくる美女が釣れた。
しかし、よくよく考えてみれば、この“非常事態”の仕掛け人の関係者、もしくは当人が目の前の美女だという証拠など何一つない。
タイミング的には怪しいことこの上ないが、ここは住宅地のど真ん中である。傭兵が歩いていてもおかしくない。いや、そんな住宅地にまるで人の気がないからこそ、唯一普通に登場したこのシーチ=ブロックと名乗る女性が浮きまくっているのだが、自分の様に巻き込まれただけという可能性もあるにはある。
それでも、怪しいことには違いないのだから、攻撃を仕掛けるという手もあった。
しかし、敵でないとしたら、この状況で敵を無作為に増やすのは躊躇われる。
その時だった。
ババン、バババカン!
何かが炸裂するような音。しかも、一つや二つではない。地球の人間が聞けば、まるで「複数の爆竹が爆発したような音」とでも評すだろう、そんな音が周囲から聞こえた。
「これは!?」
トルスタヤは猫の耳を立て、声をあげた。同時に、混乱が少女の頭を貫く。
この音には聞き覚えがある。“炸裂風魔法”という、風の塊を飛ばし、爆発させる初期魔法の音だ。
発動が速く、殺傷力もそれなりに高いこの魔法は、戦場やモンスターの狩り場では頻繁に聞く音だ。
しかも威力と規模に対して、やたらと音が大きいため、囮やひるませ技(要するに猫だましである)など、応用範囲の広い魔法である。初期中の初期魔法なので、風系統が得意ではない魔法師でも習得が容易という点も嬉しい。
要は、戦闘が起こったならば聞こえてきてもおかしくない音なのだ。
――――問題なのは、ここがルトガリオの住宅地であるということだが。
炸裂音は今も、断続的に鳴り続いていた。
「んー? 第五四九猟兵小隊が先走りでもやらかしたっすかねー?」
空を見上げ、シーチは暢気に呟き、ポン、と手を叩いた。
「おお! そうか、第一総督サン、“行動干渉”をここら一帯に住んでいるヒト限定で発動しているっすね。どおりでヒトっ気がないと思ったっす。
……あ」
おそらく無意識に呟いたのだろう。それはかなりの小声だった。しかし、その言葉をトルスタヤは聞き逃さなかった。
この時、ルトガリオに展開していたGAメンバーはその大半がツイていなかったが、シーチも確実にツイていなかった。
もし、目の前の少女が聴覚に優れるビーストでなければ、炸裂音が響く中、呟かれたシーチの言葉は、確実に聞き捉えられなかっただろう。
しかし、シーチの目の前にいたのは、超一流の傭兵組織に属する剣士のビーストだった。
しかも、シーチは先程発言していた通り、『CC』時を含めても初めてビーストに出逢ったのだ。知識としては知っている。しかし、実際に出逢って対処したかしていないかの差は大きい。
「犯人を知っているの!? 何をしたの!!」
限りなく怪しい目の前の美女は、確実にこの異常事態に関わっている。少なくとも、関わっている者を知っている。
確信したトルスタヤは、シーチに剣先を向けた。殺意の込められた、明確な敵対宣言。
「あぁ、もうこれ、完璧にやっちまったっすねぇ……。カーリーサンにどやされる……って、ええ!?」
シーチは頭を抱えて蹲っていたが、焦った表情を浮かべて顔をあげ、先程と同じ方向を睨みつけた。彼女には珍しく、その表情には焦燥感がはっきりと刻まれていた。
「ちょ、この気配……完璧に市街戦じゃあないっすか。ゴシクのゼニットサン、一体何があったんすかね……。
こまったなぁ、第五総督サンは第一総督サンに備えないといけないし……ウチにゴシクへの命令権なんてありませんし。通信は……あぁ、やっぱり妨害、されてるっすねぇ、まったく不便っすね、敵の通信だけジャミングとかできればいいのに……」
乱暴に黒い髪を掻いて、シーチは小さく舌を打った。ベケットが見れば、少し目を見開いていただろう。それ程、余裕なさげな仕種だった。
「――――答えろ!」
無視されたと感じ、トルスタヤはシーチへと敵意を持って斬りかかった。
普段の彼女なら、もう少し相手の出方を窺っただろう。幼いとはいえ、歴戦の剣士である。
しかし、仲間と隔離され、その仲間の安否は不明で合流の目途も立ってないという状況が、彼女の思考と行動を短絡的なものに組み替えてしまった。
「おっと!」
慣れた手つきで腰から短杖を抜き、振り下ろされた双剣を器用に防ぐ。
金属音が鳴り、火花が飛び散った。
「――――『黒炭骸短杖』!?」
シーチが抜いた禍々しい黒に、持ち手に無数の小さな髑髏の装飾が施されたワンドを至近距離で見つめ、トルスタヤは歯軋りをした。
『黒炭骸短杖』は、アンデッド系のそこそこ上位、中級モンスターの中でも上位か上級モンスターの骸、それも炎を用いた攻撃でトドメをさされ、黒ずんだ骸の部品を加工することでしか造ることのできないワンドである。
ワンドの中では上位で、発動媒体としても打撃武器としても、一流の傭兵の装備として十分通用する代物だった。
当然、そこらの武器屋で並べられているようなものではない。
つまり、これを装備している時点で、唯の雑魚ではないことは明らかだった。
「あ、知ってるっすか。……ふふん、そこらの装備と一緒にするもんじゃあないっすよ。これをお造りになったのは―――――って、それどころじゃあないっすって、わかってるんすけど、ね!」
トルスタヤの身を、強烈な熱が襲った。
「ぐっ!?」
慌てて後ろにジャンプするトルスタヤ。その直後、先程まで彼女がいた場所を、紫色の炎が迸った。
「“毒火魔法”……んー、魔法はあんまし得意じゃあないんすよねぇ……。
んじゃあ、これで――――」
愛杖をくるくると回しながら、シーチは不満そうに口をへの字に曲げた。
そして、ニヤリと笑った。
サディスティックな笑みに、トルスタヤは背中に大量の蛆を放り込まれたような悪寒を覚える。
「――――ヒッ……」
「“絶念頌歌”」
瞬間、今まで聞いたこともないような音が、いや、声が、トルスタヤの脳を揺さぶった。何千人分の断末魔を合わせたような高い声と、地獄の死者が話しかけてくるような低い声、色々な声がごっちゃになり、煉獄の釜で煮詰めたようなおぞましい声がトルスタヤの猫の耳と人間の耳から入り込み、脳を鷲掴みにする。
死者の冷たい手で脳を揺さぶられ、腐臭が鼻から入って全身の血流にしみわたったかのような錯覚を覚え、トルスタヤは膝をついた。ガシャリ、と音を立て、双剣が落ちる。
声の発生源は、シーチの口だった。僅かに開かれた口から、地獄から這い出てきたかのような怖気の走る声が放たれる。
「……フフ。純粋なパワーではそっちに分があるかもしれないっすけど……これも含めれば、どう――――」
「う、あああああ!」
直後、シーチの顔面にトルスタヤの頭が突き刺さった。
心を折られるその直前に、頭と両足に魔力を込め、ロケットのように飛び出したのだ。
戦術も何も、へったくれもない行動。そんな行動をトルスタヤがとったのは、ダリウス=ローという大切な仲間が、敬愛する味方が危機に曝されているという状況だからこそだった。
ニーナ=トルスタヤの行動は、ローへの心配によって短絡的となった。しかし、それ以上に彼女に力を与えていた。
シーチは、それを知らない。アルマが目の前の少女の仲間を隔離したということは知っていても、トルスタヤがどれ程ローを慕っていたのかなど、知っているわけもない。しかし、恐らく絶望しているだろうと踏んだ。ある意味当然だろう。仲間が隔離され、八方手を尽くすも、助けるどころか会いにさえいけないのだから。
しかし、シーチは見誤った。トルスタヤは仲間を助けに行くことができない事実に絶望するのではなく、助けに行くためになりふり構わず戦う事を選んだのだ。
「ごふぶっ!?」
完全に意表を突かれたシーチは、思わず愛杖を落としながら、大きく仰け反った。いや、そのまま吹き飛んだ。
後頭部と足を交互に地面に打ち付けながら、くるくると回転し、街路樹に背中を叩きつけて止まった。
「――――はぁ、あ、あぁ!!」
ガクガクと震える膝に叱咤し、かなり痛む頭を押さえる余裕もなく、トルスタヤは立ち上がり、剣を拾った。
「――――ぁああ! どうだぁ!! 負けるかコンニャァロゥ!!」
自分でも何を言っているのかわからない啖呵を切り、トルスタヤは双剣を振って、天に向かって吠えた。猫というより、獲物を仕留めた狼のような咆哮だ。
カラン、と音とともに、持ち主の手から離れた『黒炭骸短杖』が、地面に落ちた。
「……あ~」
地面に突っ伏したシーチの手が、ピクリと動く。
「………………さぁああああああああいやぁあああああくっっっっっっっす」
やけにノロノロとした動きで、シーチは顔をあげ、立ち上がった。
「……え?」
瞬間、トルスタヤは固まった。彼女の視界が、何かを捉えた。その瞬間、それに釘付けとなった。瞬きすることもなく。
いや、違う。
「目が……あれ?」
瞬きを忘れたのではない。できないのだ。まぶたも、眼球も、動かせない。それだけではない。
手も、足も、首も、口も、全てが動かせなくなり――――
「……ウス、お、に……ちゃん」
意識が徐々に消えていく。
少女の身体が、地面に倒れた。ゴトリ、と、まるで石像を倒したかのような音が響いた。
ダラダラと鼻血を流すシーチは、「う~」とか「あ~」とか呻くながら、ふらふらと立ち上がり、ドン、と自分が衝突して大きく傾いた街路樹に背を預けた。
「……何してるの」
そこにやってきた人物を見て、シーチはやせ我慢にしか見えない笑みを浮かべる。
「あぁいぢ、鼻折れたっす……。いや、ホント面目ないっす。心折っちゃえば勝てると思ったんすけど……」
弱弱しい弁解を聞いて、シーチを見下ろしたのは、カーリー=ブロックことキャリスタ=ベケットだった。
「ニルス、ありがとっす」
ベケットを背中に乗せ、心配げな表情を浮かべたニルス――――ベケットのパートナーである蛇尾雄鶏は、紫色の蛇の尾を揺らし、硝子を爪で引っ掻いたような声で鳴いた。不快な程にかん高い鳴き声は、コカトリスの特徴である。
ニルスは“石化眼”で石化させた少女を一瞥すると、主人の方に首を曲げた。
「うん、偉いよ、ニルス」
主人に頭を撫でられ、ニルスは嬉しそうに目を細めた。
「まったく、総帥になんて報告する気?」
「別に、戦闘は禁じられてないっすよ。正当防衛っす」
あの状況じゃあ誰だってこの堕天使を攻撃する、と心の中でツッコミを入れつつ、ベケットはニルスから下りて、転がっていたワンドを掴み、シーチへと投げた。
「あっ! もう、粗末にしねーでくださいよ。総帥閣下より賜った大切な装備っすよ?」
本気で怒気を孕ませた目で睨まれ、ベケットは肩をすくめた。鼻血を垂れ流している美女に睨まれても、そんなに怖くはない。腐っても、元特殊部隊の隊員である。
ましてや、自分が杖をほっぽり出してしまったという負い目もあるからか、堕天使の眼光はそれほどでもなかった。
「支給品の癖に」
「支給品だからこそ、っすよ! ウチのような一介の兵士に、総帥閣下サンが特別な武器をくれるわけがねーっすもん」
鼻に杖先を向け、治療魔法をかけるシーチを見つめ、ベケットはため息をついた。
一流の傭兵しか持っていないような装備が、憲兵隊の堕天使全員に支給されている消耗品とは、どんだけ贅沢な軍団だ。
とことん規格外なところに再就職したものである。
「戦闘中に装備品をほっぽったなんて知られたら、ユルスナール副隊長サンに殺されるっす。
はぁ、明日は水攻めかなぁ、針山かなぁ……」
ため息をつく同僚を視界に入れつつ、ベケットは、先程から戦場独特の音が響いている方向へと視線を向けた。
はい、というわけで、シーチさん、単独ではトルスタヤちゃんに負けました。
一流の傭兵に、唯の兵士であるシーチさんは、はっきり言って敵いません。ですが、心を折るというある意味チート技が成功さえしていれば、シーチさんも勝利できたでしょう。ですがGA憲兵隊と言えど、単独で短時間で一流傭兵の心を折りきるのは難しかったようです。
次話は部隊VS部隊の組織戦を書きたいと思っています。
御意見御感想宜しくお願いします。




