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混沌より出ずる軍団  作者: 皐月二八
第二章 チェスマン・プット・ワールド 浸透
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第一三話 モノクローム 捕獲

 そう言えば最近、「女の子の敵」というキャラを暫く書いていないことに気付いて呆然。


 本話、そこそこ物語に絡むキャラが登場します。

 『CC』に登場するモンスターには、固有能力を持つ種がある。例外はあるが、モンスターとしての階位クラスが高い程、多彩かつ強力な固有能力を持つ者が多い。天上級ヘヴンモンスターともなると、二桁の固有能力を持つモンスターも少なくない。


 コゲツ、すなわち白蛇を始めとする蛇系統のモンスターが持つ固有能力の一つに“感知網”がある。強力なセンサーのようなものだ。中でも白蛇の感知網の性能は、凄まじいの一言に尽きる。やろうと思えば、指定した目標を延々と追い続けることも可能なのだ。しかも魔力を消費せずに発動できる。


 そして、コゲツの目が捉えられるものの一つに、魔力の“波”と“線”がある。魔法として具現化される前の魔力の波、そして魔力によって繋がったラインなどを可視化できるのだ。もっとも、これは直接視界にでも入れない限りは感知できないのだが。


 つまり――――ドロシーにはああ言ったが、コゲツには最初から、件のレッドキャップが何者かに操られていたことは完全に掴んでいた。

 あとは、それと同じ質や波の魔力を捉えれば、ある程度は犯人が特定できるのだ。

 とは言え幾らコゲツでも、大陸中の魔力をいちいちチェックして犯人を特定する、などという真似はできない。そこまでの精度を期待するならば、やはりすぐ近くに犯人がいない限りは難しい。



「だからこそ……ここにいるんだけどね」



 コゲツは自分にてがわれた部屋のベッドで横になりながらほくそ笑んだ。

 彼女がブラックウッド公爵へ提示し、そして受理された“案”。それは金銭的な報酬に加え、二つの報酬――――というより報酬の代わり――――を貰うことだった。

 まず、暫くここに滞在させてほしい、ということ。自分は旅の者で、この辺りに対する見聞がない。そのため暫くはここに拠点を構え情報収集をしたいから、協力してほしい。

 次に、この辺り一帯の傭兵や傭兵支援組織とのコネが欲しいので、協力をしてほしい。


 以上を協力してくれるのなら、ある程度は無料や低価格で仕事をしてもよい――――コゲツは公爵にそう提案したのだ。


 公爵は暫し時間を求め、コゲツはそれに応じ、退室した。

 その後再び呼び出され、本殿の空いている部屋を提供し、出来る限りコゲツの活動を支援する。その代わり、ドロシーの護衛をほとぼりが冷めるまで続けてほしい。辞めたくなったら、その場で契約を切る事を提案された。

 そして、その場で報酬金を渡された。馬車と馬車馬で消えた分を容易に補える程の大金だった事に、コゲツは驚きながらも満足した。



「我が君なら、きっと有効に使って下さるに違いない。どの道今のところは、精々生活費と馬の飼料代くらいにしか使う当てもないからね……」



 これに加えての破格の条件に、コゲツは最低限の報酬金で公爵の案に応じる旨を伝えた。



「護衛するのは、ドロシー様だけで構わないのですか?」


「そうだ。ジンジャーについては十分な数の護衛が付いている。勿論、ドロシーの護衛を担うのは貴殿だけではないが、貴殿が穴を埋めてくれる分、ジンジャーの護衛を増やせるのだ。

 もっとも、六人もの優秀な護衛を失ってしまったのは痛いが……」


「参考までにお聞きしたいのですが、ここには傭兵は?」


「確かに私は公爵領軍とは別に、公爵家専属の傭兵団を幾つか有しておる。が、本殿にはいない。彼らは本殿近くの駐屯地に展開している。

 此の度の件について、本殿の強化をと言いたいところであるが、領民の安全を疎かにもできん。彼らには都市警備に回ってもらおう。

 つまり、現在本殿にいる兵は、皆我が領軍のみだ。此処はあくまで本殿、政治の場であり、軍事拠点ではない。兵の数は少ないが、錬度は保証しよう」


「わかりました」



 取り敢えず二週間の短期契約を結ぶことになり、場合によっては延長若しくは短縮されることとなった。

 だんだんと運が向いてきた。日頃から我が君に抱きしめられ、キスをされる妄想をしている御蔭だ、とコゲツはカーキに感謝した。彼女にとって、自分の功績は全てカーキの御蔭なのだ。いや、そもそも自分をカーキのペットにすぎないと考えているコゲツにとって、自分は“功績”などあげてはいない。あくまでカーキという絶対なる主の命令に従った結果だからだ。

 あくまでカーキは命じただけで、ドロシーの救助を考えたのも、公爵と交渉したのも全てコゲツ自身だという事実は、彼女のカーキへの異常なまでの崇拝の前に消え去っていた。


 思った以上に、公爵は自分を信頼してくれているらしい。もっとも、囲い込みや監視の意味もあるだろう。南軍領や北軍領をふらつかれたり、北軍に加われでもされるくらいなら、目の届く範囲においておいた方が良い、とでも考えたのかもしれない。


 コゲツはそう考えていたが、実はそれは殆ど的を射ていた。

 ブラックウッド公爵や公爵領高官は、コゲツの戦闘能力を直接見たわけではない。が、ドロシーの話、そして公爵をして実力を測れなかったことは、コゲツの戦闘能力の高さ、というより底知れなさを彼らに知らしめることとなったのである。

 コゲツがドロシー一行を襲ったレッドキャップをけしかけた当人、或いはその一派という可能性は、公爵たちの中でもほぼ消滅していた。



「…………ま、兎に角、ちょっと寝ようかな」



 人間と比べると睡眠の必要性がかなり少ないコゲツであるが、寝なくともよい理由にはならない。

 ましてやカーキの前で、寝不足のせいで荒れた肌を晒すなど考えるだけで死にたくなる。

 安宿とは比較にならないふかふかのベッドに身を沈め、コゲツは目を閉じた。






 「…………お?」



 真夜中。コゲツはふと眼を開け、身体を起こした。

 暫くキョロキョロと周囲を見渡した後、コゲツは艶やかな唇を指先でなぞり、真っ赤な舌を出した。



「……見つけた……フフッ」



 瞬間、コゲツの紅い瞳に、鮮血のように紅い光が宿った。

 それから先は、一瞬だった。


 瞬時にオックストン一帯を彼女が得意とする幻術の中でも、とりわけ強力な幻術で覆った。

 “幻術魔法ファンタジア裏表一帯ネバーランド”。

 それはもう一つの世界を創り出し、特定の対象と自分自身をその世界に引きずり込むという、幻術系統の魔法でもとりわけ希少かつ強力な魔法である。


 発動すれば、友軍に途轍もなく有利な効果が笑いが止まらない程付き、逆に敵には最早苛めかと思う程のマイナス効果がつくという、「ジョーカー以外の何物でもない」、「一発逆転、起死回生という四字熟語に愛された魔法」と『CC』プレイヤーを(色々な意味で)震撼させた魔法だった。


 魔法が発動し、周囲がモノクロの世界に変わる。『CC』でも「こんなところに拘るんなら他に拘るものがあるだろ」と言わしめた程の、見事なモノクロな世界。それがネバーランドの世界である。



「……久しぶりに使ったけど、いい感じかな」



 このネバーランドは本物の世界をモデルとしているが、何の繋がりもない。よってネバーランドで何をしようと、影響が出ることはない。

 こんな魔法がゲームではなく、現実で(・・・)使われたらどうなるか――――そう、どんなに暴れようとも誰にも気取られない、格好の“狩り場”と化す。

 しかもこの世界では、コゲツの能力は大幅に強化され、さらに世界自体も(・・・・・)コゲツの思うがままだ。彼女の思い通りに景色は変わるし、武器も出現する。まさに、コゲツ専用のステージだ。


 コゲツは獰猛な笑みを浮かべると、窓を開けて外に飛び出した。

 人間を遥かに上回る脚力でジャンプし、屋根の上まで上がる。

 そして、本殿の庭に生えている木に視線を下ろした。そこで、影がうごめいている。



「なんだ、案外トロいじゃないか」



 コゲツは小さく呟き、その影に高速で突撃し……“何か”に阻まれた。



「……いや、訂正しよう」



 その“何か”は吹き飛び、木をなぎ倒しながら転がっていった。



「グェ!!」


「ニルス!」



 甲高い声。それは、女性の声だった。

 コゲツの前で構える、紅い髪をショートボブにしたオレンジ色の瞳が特徴的な、黒いローブ姿の女性……というより、少女だった。背丈はコゲツよりも大分高くスレンダーだが、顔つきには幼さが残る。しかし、努めて無表情にしているだろうその顔からは、歴戦の戦士の風格が漂っていた。



「気分は如何だい? 魔物使い(モンスター・テイマー)


「――――――――敵!」



 少女は後方へとジャンプし、手にしていた紅色の鞭で足元を叩いた。

 その鋭い音が合図になったかのように、先程吹き飛んだモンスターがコゲツに突撃してきた。



「……我が君より賜ったこの服を、傷付けられるとでも思うのかい?」



 それを、蛇の足が素早く薙ぎ払う。

 コゲツは三日月形に口を歪めながら、吹き飛んだそれを楽しげに見つめた。

 額にわずかな青筋を浮かべながら。


 コゲツの鞭のような攻撃に吹き飛ばされつつも、何とか持ちこたえたそれは、コゲツを睨みつけた。

 それは、巨大な雄鶏だった。ダチョウくらいのサイズがある。毒々しい赤色に染まった雄冠。ところどころ黄金に染まった白い羽毛。力強い二本脚。そして、尻尾の代わりにくっついた様な、紫色の蛇の尾。


 上級ハイモンスター、“蛇尾雄鶏コカトリス”。“半鶏大蛇バジリスク”と並んで、『CC』ユーザーからは「石コンビ」と呼ばれていたモンスターである。

 理由は、両者が持つ“石化眼メデューサ・アイ”という固有能力によるものだ。相手を石化させ、行動不能とする。



「!? ニルスの目が、効かない……!」



 しかし、コゲツにはそういったマイナス効果を無効化する“再生の象徴”という固有能力を持っている。よってコカトリスの一睨みは、コゲツに不快感しか持たせなかった。



「……下半身が蛇……蛇女ラミア?」


「おいおい、あんな低俗な発情女と一緒にしないでくれよ」



コゲツは大袈裟にため息をつき、そして、少女を睨んだ。



「さっさとお前、死ねよ」



「な!?……」



 コゲツから噴き出した、濃厚で強烈な殺気。モンスター・テイマーの少女は、慌てて懐から黄金に輝く団扇サイズの羽を取り出し、振った。

 瞬間、轟雷がコゲツを飲み込む――――前に、コゲツが消え、少女の身体を巨大な蛇体が襲った。



「……ぁぐっ!!」


「“雷鳥の羽サンダーバート・フェザー”か。珍しいアイテムを持っているね」



 コゲツは小さく驚いた顔をしながら、そのまま右腕に水の塊を集め、コカトリスを殴った。

 殴り、殴り、殴り、殴った。

 一秒とかからぬ間に、万を超える打撃を叩きこまれ、コカトリスは羽を撒き散らしながら血を吐き、崩れ落ちた。



「グ……エ……」



 不快な甲高い声を持つコカトリスは、弱弱しく鳴き、動かなくなった。



「ニルス!」



 少女が声をあげるが、しかしあげることで隙が生まれてしまった。

 もっとも、目の前の存在は隙があろうが無かろうが関係ない程の存在なのだが。


 ギュル、と音をあげ、高速で蛇体が少女の華奢な身体に巻き付き、締めあげる。



「しまっ……ぐ……!!」



 後悔と苦痛が少女を襲う。そんな少女に、圧倒的強者は冷徹な目を向けた。“敵”ではなく、“ゴミ”を見る目で。



「さぁて、聞こうか? ドロシーを襲わせた襲撃者君。君はどこの誰なんだい?」


「……」



 苦悶の表情を浮かべたまま、少女はコゲツを睨む。口は固く閉ざされたままだ。



「……不快だな。雑魚に視姦されるってのは」



 コゲツは不快さを消そうとするかの如く鼻を鳴らすと、少女を殺意と憎悪に濡れた瞳で見つめた。具現された悪意を放つかのような、紅い瞳。それはコカトリスの瞳よりも、遥かに恐ろしいものだった。



「――――――ぁ……」



 少女は僅かに無表情を崩すも、それでも口を強く結び、コゲツを睨みつけた。



「……へぇ、一丁前にぼくに歯向かうなんて――――」


「……キャリスタ」


「ん?」


「キャリスタ=ベケット」



 小声で名乗った少女は、力強い瞳でコゲツを見つめた。



「……ふぅん。所属は?」


「……北軍、赤い土(レッド・アース)



 またか。

 つくづく自分は、薄汚れた屑集団と縁があるらしい。おぞましいことこの上ない縁だが、しかしチャンスではある。

 エディンソンの時は、つい殺してしまったが――――。



「……生かしておいても、価値はあるかな」



 これを機に、北軍ともコネを造っておいてよいのかもしれない。コゲツはそう考えた。エディンソンの時は、我が君を侮辱されたため殺す事が確定したが、特殊部隊の人間だ。情報を吸いとるのみならず、協力者としても心強いだろう。

 勿論、目の前のいけすかない女がカーキを侮辱すれば、その瞬間小生意気な顎を砕いてやるのだが。

 いや、その程度でとどめる気は毛頭ないが。


「………」


「君、ぼくに協力しないかい?」


「……私は北軍の兵士。裏切りはあり得ない」


「だよね」



 簡単に裏切るような者を特殊部隊においている敵など、違う意味で脅威である。

 断られて当然と言わんばかりに、コゲツは肩をすくめた。

 にこやかに笑ったコゲツの内なる狂気と、今にも自分を飲み込みそうな殺意を感じ取り、少女――――ベケットはゾッとした。



「あいにく、そういうの(・・・・・)はぼくの専門じゃあなくてね。いや、やれないこともないんだけど――――壊したら、元も子もない」



 そして、大袈裟に肩をすくめて首を振るコゲツ。

 言い知れぬ不安が、ベケットの頭の中を満たす。しかし、絶え間ない苦痛を与えてくる――――しかし手加減しているのだろう――――美しい程に白い蛇体は、全くほどけそうもない。


 頼るべき相棒は、未だに動かない。契約コントラクトは切れていないので、生きてはいるはずだが。


 ベケットは激しく後悔していた。ドロシーを攫う機会を窺うために、態々相手のテリトリーに足を踏み入れたことを。レッドキャップが蹴散らされた時点で、警戒して脱出するべきだったのだ。

 引き際を見抜けぬ兵士は無能の代名詞だ。自分もまた、そうだということか。

 北軍随一のモンスター・テイマーとして名をはせた私が……最後はこんな怪物モンスターに殺されるのか。


 いっそのこと自害しようか、とも考えた。しかし――――。



「……まさか自害する、何てこと考えていないだろうね?」



 紅い瞳に魂まで射止められ、ベケットの呼吸は止まった。



「巫山戯てんのか、ぁあ!?」



 ズイッと、先程まで笑みを湛えていた、白い肌が映える整った顔が迫った。絹のような白い髪が、ベケットの顔にかかりそうになる。

 血の池地獄の底のような発酵した憎悪を孕む瞳が、ベケットを骨の芯から震え上がらせた。



「好きに死ねる、何て思っているのか? 思い上がりも甚だしい。

 私に捕まった時点で、テメェは我が君のものだ。我が君に全てを捧げたあとに消えるなら兎も角、我が君に血の一滴も捧げていない屑の分際で死ねるとか思ってんじゃねェよ!

 我が君に全てを捧げろ! 偉大にして、あらゆる叡智の上にあらせられる我が君の糧となれ! それが、それこそがテメェら屑共に残された唯一にして、最高の栄誉なんだよ!!」


「あ……あ……」



 おどろおどろしい瞳に身体の全てを支配され――――キャリスタ=ベケットは闇の中に、自ら意識を投げ込んだ。






「……はぁ、全く、これだから低能な屑は。世の理さえ、理解できないとはね」



 コゲツは目の前で意識を手放した少女を見て、ふぅ、とため息をついた。



「……さて」



コゲツは蛇体をシュルリと動かし、ベケットを開放する。ドサリと倒れたベケットを尻目に、コゲツは血塗れのコカトリスを見つめた。



「君も運んでおこうか。ついでにね」



コゲツは軽々とコカトリスの巨体を持ちあげ、小さく呟いた。



「……手柄は譲ってあげるよ、ヘウレカ」



妖しく光る紅い目を持つ少女の口元は、三日月形に歪んでいた。






 そろそろコゲツ以外のキャラも動かしたいな、と思っています。そのために、他勢力であるベケットをGAに引きずり込みます。

 情報さえあれば、皆を動かせますし。


 いつでもどこでも無双可能なGAメンバーですが、トップのカーキが消極的ですので、無双とかが起こりにくい状況に。期待している方々、御免なさい。

 無双シーンはあったとしてもまだまだ先になりそうです。まぁ、今は無双する必要性もありませんからね。

 戦闘シーンももっと入れていきたいですね、コゲツ以外の。


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