第六話 おかえり、私の奥さん
半年後。帝都の大聖堂で、わたくしとセヴェリン殿下の結婚式が執り行われることになった。
式の前日、わたくしは控え室で真剣に悩んでいた。
「どうしましょう、お母様。誓いの言葉の途中で滅したら」
「するでしょうね」
「誓いの口づけの瞬間に滅したら」
「確実にするでしょうね」
お母様は即答した。お父様と兄も深く頷いている。王国から駆けつけてくれた家族は、すっかり帝国の空気に馴染んでいた。
「大丈夫だ、ラミア。皇宮の典礼官と打ち合わせ済みだ」
兄が胸を張って式次第を広げる。そこには、こう書かれていた。
『花嫁、滅(予定)。花婿、受け止め(予定)。参列者、拍手』
「予定に組み込まれておりますの!?」
「だって、どうせ殿下の腕の中に戻るんだろう。なら最初から段取りにしておけばいい」
合理的すぎる。帝国の典礼官まで真顔で了承したというのだから、わたくしの滅はもはや国家行事の一部らしい。
ちなみに王国とは、このたび新たな条約が結ばれた。光の乙女の末裔たるわたくしが帝国に嫁ぐ代わりに、わたくしの滅の光は、遠く離れていても王国の結界へ届くよう、セヴェリン殿下が術式を組んでくださったのだ。
つまり、わたくしが殿下を好きであればあるほど、王国は平和になる。
「責任重大ですわね……」
「何を言っている。あなたは何もしなくていい。私が毎日、あなたを好きにさせればいいだけだ」
いつの間にか控え室の入口に、正装の殿下が立っていた。花婿は式の前に花嫁に会ってはいけない、という慣習は、どうやら帝国では採用されていないらしい。
「で、殿下……!その正装は、反則です……!」
「そうか?ではもう少し近くで見てくれ」
「近づかないでくださいまし、まだドレスの着付けが――」
ぱぁん。
本番前日に一回。もちろん、殿下の腕の中に着地した。
――そして、当日。
ステンドグラスから降り注ぐ光の中、わたくしは祭壇の前で殿下と向かい合った。
大司教様が、厳かに問いかける。
「セヴェリン・ヴァルトシュタイン。汝は、この者を妻とし、生涯愛し続けることを誓いますか」
「誓います。この人が何度消えても、そのたびに受け止めると」
参列者席から、くすりと温かな笑い声が漏れた。
殿下はわたくしの手を握り、誰にも聞こえないほどの声で囁く。
「どんな君も見逃さない。これからは、笑った顔も、照れた顔も、全部見せてほしい」
そんなことを言われたら、誓いの前に滅してしまいます。わたくしが必死に素数を数えている間に、大司教様は何事もなかったかのように式を進めた。
「ラミア・エーデルシュタイン。汝は、この者を夫とし、生涯愛し続けることを誓いますか」
胸が苦しい。溢れそうだ。でも、今日だけは。この言葉だけは、消える前に伝えたい。
二、三、五、七――素数を数えて、深呼吸して。
「誓います。わたくしは、この方を――」
あの日の庭を思い出す。一人ぼっちで刺繍をしていたわたくしに、笑いかけてくれた少年を。
「好きすぎて、どうにかなってしまうほど、愛しております」
言えた。
殿下の青い瞳が揺れる。ゆっくりとヴェールが持ち上げられ、そっと、唇が重なった。
ぱぁぁぁぁぁん。
典礼官の段取り通り、花嫁は滅した。
大聖堂いっぱいに光の粒が舞い上がる。それは天井のステンドグラスを照らし、参列者の肩に雪のように降り注ぎ、開かれた扉から帝都の空へ、そして遥か王国の結界へと流れていった。
人々はそれを、のちに「祝福の光」と呼んだ。
そしてわたくしは、ぽすん、と。
予定通り、旦那様の腕の中に帰ってきた。
「おかえり、私の奥さん」
「……それも、反則ですわ」
参列者の盛大な拍手の中、殿下は――セヴェリンは、わたくしを抱き上げたまま、少しだけ意地悪く笑った。
「覚悟しておいてくれ、ラミア。これから毎日、何度でも消させるから」
「お、お手柔らかにお願いいたします……!」
「無理だな。私も、あなたが好きすぎる」
ぱぁん。
――好きすぎて滅する公爵令嬢は、今日も今日とて、推しの腕の中にしか転移できない。
そしてそのたびに、二つの国の空は、少しだけ明るくなるのだった。
最後までお付き合いありがとうございました。
「好きすぎて滅☆」しちゃう令嬢のお話でした。
あの曲が脳内で流れたら、ブックマーク、★★★★★、よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ





