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セカンドシーズン ─好きな人を、真っ直ぐに。─ 〜第一章〜高1編〜  作者: 波方 真季


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第31話 告白のバカヤロー!

※X(旧Twitter)にてイラスト公開しました!

https://x.com/exbrrh2oof32785?s=21


文化祭二日目も、いよいよ大詰めを迎えていた。


校舎に満ちていた喧騒は、朝のそれとは少し違う色を帯びている。

浮かれた声の奥に、終わりを惜しむ名残の気配が混じり、装飾の紙花はどこか力を失ったように、天井から揺れていた。


最終日の午後シフト。


それは、陽向も俊輔も、それぞれ自分のクラスに割り振られている時間だった。

二人が顔を合わせる理由は、どこにも用意されていない。


──これで、最後だ。


そんな言葉が、誰に言われたわけでもないのに、胸の奥で静かに形を持っていた。


二年一組の催しの前。

受付を担当する俊輔の前には、相変わらず途切れない人の流れがある。

笑顔で応対し、パンフレットを渡し、役割を完璧にこなしている最中だった。


「藤崎先輩。」


その声に、俊輔は顔を上げた。

声の主は、少し離れた場所から立っていた。


「えっと…確か総選挙で、星野さんの推薦者だった……」


一瞬、記憶を辿る間。


「黒川朔也です。」


「あ、そうだ。黒川くん。」


俊輔は、いつもの穏やかな笑顔を向けた。

人当たりがよく、壁を作らない。

誰に対しても同じ距離感で接する。


「へぇー!この人が陽向ちゃんの“推しの神様”、藤崎先輩なんだぁ!」


文化祭を訪れていた朔也の彼女であり、陽向の師匠、最強ギャルの“朱里”が声を上げた。


「はじめまして。星野さんのお友達?」


「はい!それと同時に、朔也の彼女です。」


笑顔で挨拶を交わす俊輔。

しかし、“恋人”と関係を名乗る相手に言われる“推しの神様”という自分のポジションに、少しだけ俊輔の胸がちくりと刺されていた。


「これ。あいつから。」


「……?」


そう言って、朔也は一枚の紙を差し出した。


白い紙。

折り目はきちんとしていて、俊輔は、それを受け取る。


一瞬、指先に伝わる紙の温度。

それだけで、胸の奥が僅かにざわついた。


紙を開く。


“お伝えしたい事があります。放課後、HRが終わったら図書室に来て下さい。待ってます。星野陽向。”


その文字を追った、ほんの一瞬。


「………っ」




表情が曇った。




ほんの僅か。

第三者が見れば、気づかない程度の変化。

それでも——


朔也は、見逃さなかった。


俊輔の目元に落ちた影。

無意識に呼吸が一拍遅れたこと。


朔也は口元をゆっくりと釣り上げた。




いい顔するじゃん。




胸の奥で、確信が形を持つ。


「絶対行ってやって下さいね。あいつ、来るまで待ってると思うんで。」


俊輔は、手紙から顔を上げた。

そして再び、柔らかい笑顔を浮かべる。


「わかった、行くよ。わざわざありがとう」


声は穏やかで、何も変わらない。

まるで胸の内に落ちた影など、存在しなかったみたいに。


(改まって、どうしたんだろう。昨日会った時は…何も言ってなかったのにな……)


俊輔の中では、朔也の予想とは別の思考が静かに動いていた。


朔也と朱里が去った後、俊輔は手紙を丁寧に折り直し、ポケットにしまった。

再び、受付の仕事に戻る。

次の来場者に、笑顔を向ける。


(…また……図書室に行けなくなりましたとか…言うのかな)


胸の奥に、じわりと広がる不安。


(文化祭で告白されて…彼氏が出来ました…とか?)


人の前で崩れない。

感情を表に出さない。

来場者の対応は、完璧で、優しくて、隙がない。


でも、その胸の奥では、確かに──


何かが、静かに動き始めていた。



────────。



二日間に渡って続いた盛大な文化祭は、静かに幕を下ろした。


校舎にはまだ、ざわめきの残響が漂っている。

片付けきれない興奮と、終わってしまったという名残惜しさが、空気に混じっていた。

紙花の飾りは色を失い、床に落ちたガムテープの切れ端が、昼間の喧騒を嘘みたいに語っている。


笑い声、肩を叩き合う音、写真を撮り合う声。

それらすべてが、「もう戻れない時間」を置き去りにして、流れていった。


「ねー……本当に告りに行くのー?」


陽向の足取りを横目に見ながら、朔也が言った。


「当たり前だろ!呼び出しの手紙まで渡しに行ってやったんだから、今さら後には引けねぇだろ」


「…勝手に余計なことするんだから……」


陽向は小さく呟く。

その声に、いつもの勢いはなかった。


「チャチャッと告って、チャチャッと先輩の気持ち聞いて来いよ」


「そんな簡単な事みたいに言わないでよっ!」


噛みつくように言い返しながらも、陽向の視線は床に落ちたままだった。


ホームルームを終えたクラスが、次々と廊下へ溢れ出す。


「……はぁ……」


小さく息を吐いて、陽向は肩を落とした。


「仕方ない……行ってくっか……」


その言葉は、決意というより、覚悟に近かった。

人の流れは増えるのに、陽向の周りだけが、妙に重たい。


「おう。頑張ってこいよ」


ズキッ


朔也はそう言ったその瞬間、理由のわからない痛みが、胸の奥を刺した。


ゆっくりと歩き出す陽向の背中が、やけに遠く見える。


重たい足取り。

俯いた首筋。

その背中が向かう先に、どんな結末が待っているのか。


朔也には、もう見えてしまっていた。


だからこそ。

陽向が纏っている空気が、余計に重たく、切なく見えた。


「…ひな……!」


思わず、声が漏れた。


陽向は立ち止まり、ゆっくり振り返る。

その顔には、無理に作った笑顔すらなかった。


「……正門で、待ってるから!」


廊下のざわめきに紛れながらも、その声は、はっきりと届いた。


一瞬の沈黙。


そして、陽向は小さく頷く。


「……うん。告白、行って来ます!」


その言葉は、まっすぐで。

それでいて、どこか儚かった。


もしかしたら最低な事をしてるのかもしれない。

こんな事して、あいつの幸せや喜びを奪って。


だけど──


受け止めてやるから。

お前の傷も、悲しみも、涙も。


失恋は、成長だ。

そうやって、人は大人になる。


また次の、幸せな恋が……お前を待ってる。


そう言い聞かせるみたいに。


「……正門で、待ってるからな」


朔也は、誰にも届かない声で、もう一度呟いた。


廊下の向こうへと消えていく陽向の背中を、最後まで、目で追いながら。



────────。



陽向は、図書室の扉のガラス窓から、そっと中を覗いた。


午後の光が、窓際の机に長く伸びている。

いつもの席は、まだ空いていた。


(まだ…来てない…)


ホッ──


胸の奥に溜まっていた息を、ゆっくり吐く。


ほっとしたような、でも同時に拍子抜けしたような、妙な安堵。

足を踏み入れると、図書室特有の紙とインクの匂いが、静かに肺に入ってくる。


窓際の席に腰を下ろす。

椅子の軋む音が、やけに大きく響いた。


カチ、カチ、と時計の秒針が進む音。

さっきは「いなくてよかった」と思ったはずなのに、逆にこの待ってる時間の緊張が長くなる方がしんどいという事に途中で気がつく。


あぁ…早く終わらせたい……


そんな想いが溢れ出す。


暫くすると──


ガラッ


扉が開く音に、反射的に心臓が跳ね上がる。

身体がびくりと強張るのが、自分でもわかった。


「ごめん…!ホームルームの後…生徒会ブースに寄らなきゃいけなくなって…」


振り向いた瞬間、陽向の視界に入ったのは、少し息を切らした俊輔の姿だった。


陽向の顔を見た瞬間、俊輔はぎゅっと胸が締め付けられて、一瞬言葉に詰まった。


「…遅くなった……」


それだけの不安を抱えながら、俊輔もこの場所へ来た。


来てしまった。

来てしまった、という覚悟。


「来ないかもって…一瞬思っちゃいました!」


陽向は、明るく笑った。

少しだけ声が高い。

自分で思っている以上に、無理をしている声だった。


俊輔は一歩、距離を詰めながら、慎重に問いかける。


「……どうしたの?…改まって…伝えたい事だなんて」


胸の奥で、嫌な想像がちらつく。

文化祭で何かあった?

もう図書室には……来ないの?


陽向は席から立ち上がり、俊輔の正面に立った。


「…えー…コホン……藤崎先輩。」


わざとらしく咳払いをする仕草。

場を整えようとする必死さが、かえって緊張を滲ませる。


「はい。」


俊輔も、つられて背筋を正した。

自然と、身構えている自分に気づく。


「…あの…ですね……えー…私……」


バクン、バクン、と心臓が鳴る。

陽向の耳には、その音しか聞こえない。


言葉が詰まる。

頭が真っ白になる。


「………。」


言葉に詰まる陽向の様子に、俊輔も身構える。

緊張が高まり、ゴクリと喉が鳴る。

呼吸が止まる。


(…来るか……)


覚悟が、胸の奥で静かに固まった、その瞬間。


「先輩の事が好きです!!初めて見た時からずっと好きでした!!」


言ったーーーーーーーーー!!!!


「えっっっ!?」


俊輔の声が、素で裏返る。

意表を突かれ過ぎたまさかの言葉。

想定していた“重たい話”とは、あまりにも違う方向から、言葉が飛んできた。


「え?」


陽向も、状況が飲み込めていない。

俊輔は一瞬、思考が追いつかず、言葉を探す。


「いや…それはわかってる…けど…そんなのいつも言ってくれてるから…知ってるけど……」


困ったように笑って、首を傾げる。


「……え?伝えたい事ってその事?」


「え?あ、そっか。確かに…毎日私言ってますよね」


特にここ最近は、文化祭準備で絡みが増えたり、図書室で勉強をするようになったり、好きが日に日に溢れて、先輩好き好き発言も過剰にヒートアップしていた。


「………。」


「………。」


沈黙が落ちる。

二人の間に、言葉にできない空白が横たわる。


「え…他に……まだ何かあったりしない…?」


俊輔は、まだ不安を解けずに聞いた。

これで終わりだと、どこかで信じきれない。


「他に?うーん……」


陽向は人差し指を顎に当て、瞳だけ天井へ向けた。


え……告白って…この後どうしたら…いいんだ?


自分の気持ちを伝える。

自分の気持ち…他に……


ま、いっか。

取り敢えず。


「えっと、これからも応援してます!!」


「あ、うん。ありがとう 笑」


俊輔は、少し安心したように笑った。


「………。」


「………?」


そして謎の沈黙に、俊輔の頭に疑問符が浮かぶ。

今度は、陽向のほうが戸惑う。


え、もう終わりでいいかな。


気まず!


無理!!!


「じゃ、このあと打ち上げあるんで!!失礼します!!」


耐えきれず、陽向は一気にそう言い切ると、逃げるように図書室を飛び出した。



残された図書室には、さっきまでの緊張だけが、取り残されたまま漂っていた。



────────。



ダダダダダダダ──


アスファルトを叩く激しい足音が、正門前の空気を切り裂いた。

スマホに視線を落としていた朔也は、その異様な気配に思わず顔を上げる。


次の瞬間──



ズバシューーーン!!



風を引き裂くように、陽向が視界を横切った。

制服のスカートが翻り、髪が弧を描いて流れていく。


「……おい!!ひなっっっ!!」


反射的に声が出る。


キキーーーッ!


呼び止められた声に、陽向は急ブレーキをかけたみたいに足を止めた。

靴底が地面を擦り、身体が前につんのめる。


「あ、朔也!」


振り返った顔は、真っ赤だった。

走り疲れたせいだけじゃない。

目が、どこか泳いでいる。


「……どうした!?言えたか!?」


朔也はスマホをポケットに突っ込み、駆け寄った。

心臓が、やけにうるさい。


「…はぁー…はぁー…言えた…言えた!!」


陽向は膝に手をつき、肩で大きく息をする。

胸が上下に揺れ、そのたびに吐き出される呼吸が荒い。


「すごいじゃん!!やるなお前!!」


思わず声が弾む。

ここまで来たら、あとは結果だけだ。

受け止めてやる。


「…だろ……?」


陽向は、どこか曖昧な笑みを浮かべた。

達成感なのか、疲労なのか、本人にも分からない顔。


「で、何だって!?」


朔也は一歩、距離を詰める。

“現実”を引きずり出すため。


「……ありがとうって……!」


その言葉が、ふわりと落ちた。


「……は?」


空気が、一瞬止まる。


「え?」


陽向がきょとんと瞬く。


「……まさか……オーケーなわけ……ない……よな?」


胸の奥が、嫌な音を立てる。

笑えない冗談だ。

そうであってくれ。


「オーケーって……どゆこと?」


「返事だよ!!イエスかノーか!!!」


声が、思ったより荒くなる。


「…………返事……?」


陽向は、ゆっくりと、固まった。

その反応で、朔也の中の嫌な予感が別の方向に変わった。


「……まさか……お前……」


言葉の続きが、喉に引っかかる。


「返事……聞いてないとか……ないよな……?」


沈黙。


ほんの一秒。

でも、永遠みたいに長い間。


「…………あ。」


その小さな声が、決定打だった。




「バカヤローーーーーーー!!!!!!」




正門前に、朔也の怒声が響き渡った。






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