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セカンドシーズン ─好きな人を、真っ直ぐに。─ 〜第一章〜高1編〜  作者: 波方 真季


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第23話 最終日告白大作戦!


早朝、午前六時。


カーテン越しの光はまだ淡く、部屋の輪郭をぼんやりと縁取るだけだった。

夢と現実の境目が曖昧な、いちばん無防備な時間。


その静寂は──


バンッッ!!


乱暴な音と共に、容赦なく破壊された。




「起きろーーーーーーーー!!!!!!!」




雷のような怒声が、部屋中を震わせる。


「……ちょっとぉ……もー……なにぃ……」


半分夢の中のまま、陽向は布団に顔を埋めた。

身体は鉛みたいに重く、指先一つ動かすのも億劫だ。


だが、次の瞬間。


パサッ!と強い力で掛け布団が引き剥がされた。


「さっさと起きろ!!いつまでも寝てる場合じゃねー!!」


冷たい空気が一気に肌へ流れ込む。


「ちょ……っ!!」


反射的に身を丸めた、その刹那──


バシィッ!!


乾いた衝撃音が鳴り、ベッドが震えた。


「……っ!!」


剣道の竹刀が、容赦なくベッドフレームへ叩き込まれた。

その振動が、木を伝い、布団を伝い、陽向の身体へと響いた。


「寝てる女子の布団をいきなり剥ぐなよ!!パンツ丸出しだったらどーすんの!?」


「お前のパンツなんか1ミリも価値ねーよ!!」


叫ぶように抗議すると、即座に返ってくる朔也の怒鳴り声。

陽向は枕元のスマホを手探りで掴む。

画面を点けると、無慈悲な数字が光った。


【6:00】


「……うるっさいなぁ……朝から……まだ6時じゃん……」


再び布団へ潜り込もうと、掛け布団を掴んだその瞬間。


「コテーーー!!!」


ビシィッ!!


「いったーーー!!!」


剣道で相手の手首を狙う時の、あの鋭い掛け声。

狙いすました一撃が、布団を掴んだ陽向の手首を正確に打ち抜いた。


悲鳴混じりに叫ぶ声に対し、朔也は間髪入れず竹刀の先をビシッと陽向の目の前へ突き出した。


「お前、今日、生徒会役員会議だろ。」


低く、鋭い声。

陽向の胸が、ひくりと跳ねた。


「……あー……最悪……」


思わず零れた本音。


「まさか、図書室ばっくれ続けてる上に、役員会議までばっくれるわけじゃねーだろうな」


責めるというより、確かめる声。

けれどその奥には、焦りと苛立ちが滲んでいる。


「そんな事しないよっ!!」


思わず、強い口調で言い返した。


「だったら今すぐ化粧しろ」


「はっ!?」


理解が追いつかないまま、間抜けな声が出る。


次の瞬間──


バシィッ!!


再び、竹刀がベッドフレームを叩き抜いた。


「早くそこから出ねーと、お前の顔面に打ち込むぞコラーー!!!!」


脅しとも本気ともつかない、その迫力。


「もーーーなんなのよーーー!!!」


陽向はついに耐えきれず、布団を蹴飛ばして飛び起きた。

心臓が、ドクドクと音を立てている。

寝起きの身体に、無理やり血が巡る。


……最悪だ。

最悪の目覚め。



────────。



洗面所は、朝の湿った空気とヘアアイロンの熱でじんわりと温まっていた。


狭い洗面台の前。

鏡の中には、メイクを完成させていつつも苛立ちを残した自分の顔。

そのすぐ後ろに映るのは──


竹刀を握りしめ、仁王立ちする朔也。


まるで監視役。

あるいは、処刑人。


結局陽向は、朔也に強制的にメイクをさせられた。

そのままヘアセットも強制されて、コテを髪に当てている。


「もー…お節介やめてって言ってんのに…なんで朝からこんな…だる…まじでうざい……」


バシィッ!


竹刀が、洗面所の床に叩きつけられた。


「ブツブツ文句言ってんじゃねーよ!あんな不細工なツラのまんまで、役員会議なんて行かせねーかんな」


「どんな顔で行こうと私の勝手でしょ!」


朔也は一歩、距離を詰める。

洗面所の狭さが、逃げ場を消していく。


「お前みたいなブスが、何もしねーで藤崎先輩の前に姿を晒す事が許されると思ってんのか?」


「ねー本当最低なんだけど。」


陽向は、ムッとしながらも、言われた通りにコテを動かす。


朝の洗面所。

不釣り合いな二人。

不器用なやり取り。


それでも、確実に──

止まっていた時間が、また、少しだけ動き始めていた。



────────。



「陽向ー!久々に巻いてんじゃーん!メイクもしててちょー可愛い♡」


朝の教室に入った瞬間、咲の声が弾んだ。

その一言で、陽向の胸の奥に、ふっと空気が通る。

張り詰めていた何かが、少しだけ緩む。


完璧に仕上がっている自分。

一学期以来の、フル装備。

それだけで、武装しているみたいに心が強くなったようだった。


「今日は二学期最初の役員会議だからね。気合い入れた!」


陽向は、できるだけ軽い調子で笑う。


「やっと夏休みモードから抜けたな〜?やっぱ陽向はこれが最強!」


「それなー!」


咲と陽向の声が弾けて、教室の空気が一段明るくなる。


テンションも不思議と上がる。

景色まで違って見える。


メイクってまるで女子の魔法みたいだ。


(ほんと、うざかったけど…)


洗面所。

仁王立ち。

竹刀。

乱暴な言葉。


──思い出すと、まだちょっとムカつく。


(ありがとう…だな。)


口には出さない。

出せるわけがない。

あんな言い方で。

あんな態度で。



放課後──



「よし。」


自分にだけ聞こえる声で、そう呟いた。


役員会議、行きますか!


メイクという鎧をまとって。

少しだけ強くなった気分で。



陽向の二学期は、こうして、静かに、でも確かに動き始めていた。



────────。



「で。」



低い声が、廊下に落ちた。



「何でお前はまだ竹刀を握りしめてそこで仁王立ちしている?」



教室を出た瞬間。

気合いを入れ直して一歩踏み出した陽向の正面に、朔也が立ちはだかっていた。

逃げ道を塞ぐように。

いや、最初から逃がす気がない立ち方で。


朔也は、当たり前のように言う。


「お前が逃げ出すんじゃねーかと思って。生徒会室に蹴り出してやろうと。」


「逃げ出さないよっ!」


陽向は、思わず声を張った。

そして、プイッと顔を背けるようにして朔也の横をすり抜ける。

廊下を歩き出した、そのすぐ後ろ。


「なんでついてくんの!」


振り返ると、当然のように朔也がいる。


「いいか。今日のミッションは、役員会議で何がなんでも藤崎先輩と共同作業でやる仕事の担当を死ぬ気でこじ付けて来い。勝ち取れなかったら筋トレと走り込みの追加メニュー再開だかんな。」


「うざ。大体何であんたにそこまでされなきゃなんないわけ?」


陽向は歩きながら、吐き捨てるように続けた。


「俺がお前の垢入りを全力で阻止してやるからな」


朔也は一歩も引かない。

その言葉に、陽向はピタリと足を止めた。


「だから!私は!ずっと二次元の世界で行きていきたいんだってば!」


陽向は、振り返って叫ぶ。

胸の奥を叩くみたいに言葉をぶつける。


「リアルとか恋とか、もういいの!あんたに阻止される筋合いはない!」


その瞬間。


ビシッ。


朔也は、いつものように、竹刀を陽向の面前へ真っ直ぐ突き向けた。




「させねーよ!」




ガンッ。


竹刀を、そのまま床に突き立てる。

乾いた衝撃音が、廊下に響いた。


まるで──

誓いを立てるみたいに。


「この文化祭準備期間で、お前と藤崎先輩を急接近させてやる!」


朔也の目が、真っ直ぐに陽向を捉える。


「そして再び先輩へのリアコ魂を引きずり戻し!文化祭の最終日終了後に──」


朔也は熱く拳をぎゅっと握りしめて、ガッツポーズを作った。


「藤崎先輩へ告白する!!!」


「はあぁ〜っ!!??」


思考が、完全に追いつかない。


「名付けて!!」


朔也の拳が、天井へ向けて高く突き上げられた。


「文化祭準備でリアコ召喚!最終日告白大作戦だああぁぁぁーーー!!!」


廊下の空気が、一瞬、凍りついた。

陽向は、口を半開きにしたまま、ただ立ち尽くす。


「…あんた……」


ようやく声が出た。


「ほんと……アタオカだよ……」


陽向は、呆然としたまま、ただ朔也の無茶苦茶な宣言を受け止めるしかなかった。



────────。



「ふぅ…」


生徒会室の前で、陽向は小さく息を吐いた。


廊下の向こうからは、下校する生徒たちのざわめきが絶えず流れ込んでくる。

笑い声、足音、上履きが床を叩く音。

教室の扉が開いては閉まる、放課後特有の喧騒。


メイクもした。

髪も巻いた。

ここまで来たら、後戻りなんて出来ない。


よし。行こ。


そうして、陽向は扉に手を掛けた。


ガラッ。


引き戸が開く音に、室内の視線が一斉に集まる。


「星野さーん!」


最初に声を上げたのは、書記のニ年生橘梨愛だった。

放課後のテンションそのままに、明るく手を振ってくる。


「お疲れ様です!」


陽向はその声に少しだけ肩の力を抜きながら、歩みを進めた。


藤崎先輩は……まだ居ない。


その事実に、胸の奥がふっと緩む。

緊張と安堵が、同時にほどける感覚。


「夏休み中、元気だった?」


「はい!橘先輩ちょっと焼けました?」


「そー!グアム行ってたのー!」


「えー!グアム!?すご!」


「星野さんは、どっか行った?」


「普通に国内のプールとか海とか山とかですよ」


「結構行ってんじゃん!」


雑談が、生徒会室の中に自然に広がっていく。

外の廊下の騒がしさとは違う、でも完全に切り離されてもいない、半分仕事・半分日常の空気。


ガラッ


「お疲れー!」


副会長、朝比奈凛佳が姿を表し、声が弾ける。


……そのすぐ後ろから──


藤崎俊輔。


ドクン、と心臓が跳ねた。


放課後のざわめきの中で、不意に切り取られる存在感。

逃げ場のない距離。


なるべく自然に、冷静に会釈をした。


顔を上げると同時に、俊輔の視線が一瞬こちらに向き──

けれどすぐに、陽向は橘梨愛の方へ向き直る。


(やば…逸らしちゃった…)


胸の奥が、ほんの少しだけざわつく。

それでも。


「星野さん…!」



来……た………。



呼ばれた。


柔らかくて、優しくて、久しぶりに耳にする聞き慣れた声。


陽向は一拍置いて、自然な笑顔を作った。


「藤崎先輩!お疲れ様です!」


「体調…もう平気なの?」


「はい!すっかり元気モリモリです!」


いつも通りに、明るく。


「…良かった。じゃあどうして──」


「えー!なになにー?陽向ちゃん、体調崩してたのー?」


俊輔の問いかけは、朝比奈凛佳の声に遮られた。

無邪気で、悪気のない声。


「あ…いや、軽くですよ!全然大した事なくって」


慌てて言葉を繋ぐ。


「夏バテー?」


「…あー…みたいなもんです」


「そっかー高1の夏休みは、遊び過ぎに要注意だからね!」


「あははー…つい遊び過ぎちゃいましたー!」


笑って、流す。

その間、俊輔はそれ以上踏み込まず、ただ小さく頷いた。


「はーい、席ついてー」


顧問の声が、生徒会室に響いた。


外の喧騒はまだ続いている。

廊下の向こうでは、生徒たちが帰っていく。

その流れから、ほんの少しだけ切り離された場所で。


生徒会役員会議が始まった。


陽向は椅子に座りながら、そっと息を整えた。






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