プロローグ
野生化したメカドッグが獲物目掛けて駆ける。しなやかな足、猛るモーターの駆動音。呼吸のような白い排熱。静謐さなどはない全力駆動。
相対する獲物は全身鎧。魔金属の塊を見に纏い、長大な剣の切先を天に掲げて力強く踏み込む。
メカドッグは高速度カメラで捉えた獲物の踏み込みを見て角度を変更。急激な慣性変化もジャイロセンサーによって補正され、獲物の横から飛び掛かる。
全身鎧はそれに対し、剣を上から下、魔力で強化した身体で強引に円を描いて縦から横にグンと振る。
飛び掛かったメカドッグには高性能なモータやセンサはあれど、プロペラやジェットは付いていない。空中では飛び掛かるままに鉄塊のような剣を叩きつけられ、外装を剥がされ、僅かに駆動用オイルを撒き散らしながら吹き飛んでいく。
それを見て全身鎧は残心を行い、メカの駆動音、そして周囲を確認してから剣を下ろす。
「ふう、終わり」
一言、それだけ呟いて壊したメカドッグを拾い、徒歩で岐路に着く。
空を飛ぶ怪鳥、獲物は下の人間だ。かれこれ1時間ほど空を旋回して隙をうかがっている。
空を飛ぶ姿は地上から見たら小さくとも、身の丈3mを越える。人など魚の如く丸呑みにされてしまう。
人間は狙撃銃を構えて弧を描く怪鳥を見つめている。
装弾数6発、ボルトアクション式ライフルだ。
やがて怪鳥は痺れを切らし、降下を始め、徐々に大きくなり始める。そして、羽を畳み急降下。魔力を惜しげもなく使い、重力以上の加速を受けて口を大きく開けて食らいつく。
人間は冷静に、等倍スコープ越しにそれを見る。そして、スコープから全身が見えなくなるその瞬間。
その銃身からはあり得ない咆哮を上げながら弾が吐き出され、到底口径に収まらない大きさの弾が飛ぶ。
弾は怪鳥の大きく開けた口で見えなくなった脳天を正確に貫き、更に飛ぶ。
頭を貫かれた怪鳥は勢いそのままに人間に激突しかけ、しかし、人間は転がって避けて激突を回避。過剰な熱で赤熱化した銃身を触らないよう気をつけながら立ち上がる。
「長かった……」
1人ごち、怪鳥を近くに止めてあったトラックにリフトで積み込み、走り去る。
多くの人で賑わうギルド「歯車と枝」ではささやかな祝杯があげられていた。
「乾杯」
大柄な男、リヒターがそういえば
「乾杯」
と小柄な女タマキが同じく返す。
「いくらで売れた?」
タマキは見た目に似合わぬ大きなジョッキを一息に飲み干して尋ねる。
「全部で50,000E」
リヒターは半分ほど飲んで言う。
「少ないね。そんなに乱暴にしたの?」
「したつもりはないが、当たりどころが悪かったらしい。なんでも値上がりしてるセンサーがオシャカだとさ。そっちは?」
「私は100,000E」
「たっか。そんなに高いか?あの鳥」
むしゃむしゃと定価900Eのハンバーグを食いながら驚く。怪鳥の相場は70,000だ。
「当たりどころが良かったんだよ。大きかったし。リヒター、あんたも銃使いなよ。傷が小さいから高値がつくよ?」
「嫌だね。今回は相手がメカドッグだったから意味なかったが、相手が大きいなら大剣の方が良いんだよ。それに、弾とか高いだろ?」
「高いけどさ。今回は1発2,000E。で、いつも言ってるけど、その大きい相手はいつ出てくるのさ。もっと危険なとこ行かなきゃいないでしょ」
ここらへんの狩場は比較的安定しているが代わりに獲物はありふれたものだ。メカドッグやメカウルフなど比較的小さい。それ以上の獲物となると、メカや危険生物の領域に足を入れなければならない。
「そうだけどさ。いつかは俺もってね」
「はは、そん時まで死なないでよ?酒飲む相手あんたしかいないんだから」
「そっちこそ。油断して死ぬなよ」
そう言って2度目となる乾杯をする。
金を稼いで更に良い武器、良い防具、良い教育を受けて更に先へ。
彼らはハンター。過去の狂った博士が生み出した自己増殖する機械と、狂った学者が生み出した危険生物を狩る専門業者。人類、否、人と分類されるものに有益なものは高値で取引される。それは、未知の金属、未知の構造、未知の物質。自己進化する機械と危険生物はまさに宝物だ。
だからこそ、成り上がりを夢見て今日も酒を飲んで現実を見る。




