静かな街
アイシャが少し腰を折って、視点を低くしてナッチェに提案する。
「お姉さんが帰ってきてるかも知れないから、一度、お家に戻ってみようか?」
アイシャの提案に頷き、ナッチェが二人の前を歩く。
不規則に動くしっぽは、不安や機嫌の悪い時のサインだ。
恐らく相当姉のことが心配なのだろう。
途中で閉店間際のサンドイッチ屋を見つけたので、飲み物も含めて、一応、四人分購入する。
「ナッチェは・・・」
と、話し掛けたアイシャに、ナッチェが振り向いて唇に指を当てた。
そしてアイシャの耳元で囁く。
「このへんからは旧市街地なので、夜、外での会話は控えて下さい」
そう言われて初めて気付く。
灯りはどの家にも灯っているが、外を歩く気配はほとんどない。
そこから数分で、灯りの点いていない家の門をナッチェが開いた。
そして、小さな声で、
「ただいま」
と、誰も居ない闇に向かって告げた後、落胆の溜息を吐く。
粗末な土壁の家、昔ながらのランプにナッチェが灯を入れた。
「やっぱり、帰っていないみたいです」
それは、もう声を出しても大丈夫という合図でもあった。
アイシャが、サンドイッチの包みをテーブルに置き、二人に飲み物を渡す。
「喉乾いてるよね?」
ナッチェはアイシャに礼を言いながら、それを受け取り、シャアリィは何時ものように目配せで感謝を表現した。
次の声をあげたのは、意外にもシャアリィだった。
「お姉さんが戻らなくなってから、どれくらい?」
「出掛ける先とか、思い当たる場所とかはある?」
どうやら、先程の失態をシャアリィなりに気にしているらしい。
「昨日の夕方から帰って来ていません」
「私達は普段、教会のお手伝いで届け物や子供たちの世話を仕事にしてて」
「昨日は、港の方に届け物にいったらしい、ということまではわかっています」
アイシャが、だから湾岸地区に足を運んだのだなと察し、
「届け物は何時も同じ場所?それとも毎回違うのかな?」
「ああ、そうだ・・・少し休憩にして食事をしよう」
その声に反応したのか、ナッチェの小さなお腹が空腹を訴えた。
「好きなのを選んでいいよ」
「何が好きかわからなかったし、あったものを適当に買ったんだ」
「私達はこれでも、割とお金持ちだから、気にしなくてもいい」
ナッチェは賢くて礼儀正しい。
アイシャが先回りをして、ナッチェの遠慮をなくさなければ、多分、食事も口にしないだろう。
シャアリィは、こういう時の振る舞いがよくわからない。
だから、アイシャのやることを邪魔しないようにするのが精一杯だった。




