ナッチェの探し人
――― 数十分前の出来事。
ナッチェは旧市街の住人であり、探しているのは姉らしい。
色違いではあるものの、繋がりがあるかもと、目立つ耳を見つけたナッチェはアイシャに声を掛けた。
「姉を探してるのですが、知りませんか?」
こんな場所、少女が一人で来るような所ではない。
「いや・・・私の知り合いに黒猫さんはいないよ」
「・・・ちょっと待って」
「一人で来たの?」
「ご両親とか、は?」
ナッチェの表情や身成から、姉妹の両親は既にいないことをアイシャは察した。
問う前に気付くべきだったと己の浅慮に舌打ちすると共に、場所柄だけで勘案したとしても、深刻な事態に巻き込まれている恐れが濃厚だ。
アイシャは、ほぼ即断で少女と関わることに決めた。
獣人種は珍しい。
十万人規模であったレリットランスで一年生活をしていて数回しか目にしていない。
互いに見ず知らずの獣人同士が言葉を交わすなどというのは、奇跡的な確率だ。
大切な人を待たせて、大切な仕事をしている、だが、それを差し引いてもアイシャにとって、このナッチェという獣人の少女は放っておける相手ではない。
「ほんの少しなら手伝ってあげられるかも」
「外にひとを待たせてるんだ」
「私の名前は、アイシャ」
少女は涙を溜めた目で答える。
「ナッチェ・シュバルツです」
「姉の名はエレナ、です」
ナッチェは何かを思い出したようだが、それを言い淀み、
「私は・・・お金も少ししかなくて、何もお返し出来ません」
「だから、大丈夫です」
アイシャは、ナッチェの頭をくしゃくしゃっと撫でて微笑む。
「私達は遠い街から来たばかりで、ここの街のこと、よくわからないんだ」
「私達は、ナッチェのお姉さん探しを手伝う」
「ナッチェは、この街のことを私達に教えてくれる」
「これなら両方に得がある」
勿論、アイシャはナッチェと対等な取引をするつもりは毛頭ない。
この少女は単身でこんな場所に来る程、姉が大切であり、それに追い詰められている。
何より礼儀正しく、頭も悪くない。
こんな状況でさえ遠慮するくらいには辛い思いをしてきたのだろう。
だから、少なくとも心を軽くしなければ些細な申し出も断るに決まっているのだ。
返せるものがある、だから手伝ってもらってもいい、と。
ナッチェは、頬から涙を拭い落としてアイシャの提案を受けた。
「ナッチェ、ごめん」
「とりあえず一度、外に出てもいいかな?」
「私、外に大事な人を待たせたまんまなんだ」
アイシャは、この空間にいる者を残らず確認した。
だが、ここには自分たち以外の獣人の姿はなかった。
今更だが、ひしめく人混みであろうと見落としなどあるはずはない。
「まずは外で待っているシャアリィと合流して」
「それから、落ち着ける場所で話をしよう」




