イザベラ・リリィ・シュベルド
その尖った耳を隠すこともなく、威厳の眼差しと物騒な大剣が目印の冒険者。
名が示す通り、彼女は騎士称号をも持つ貴族籍のエルフだ。
七、八年程前まで彼女の名はただのリリィだった。
しかも、奴隷娼館の一室で幼いながらに客もとっていた、らしい。
ただの見世物としてだけでも価値の高いエルフを抱ける店という評判は、金持ち連中の間では有名だった。
だが、皆、リリィを眼にするとその身体を買うことを躊躇った。
あまりに華奢な身体と薄幸を絵に書いたような美貌だけならば、少女趣味の変態の大好物。
しかし、その胸元から腰に掛けてぐるりと大きな刃物傷があれば話は変わる。
もし、万一、この少女を抱いている時に何らかの間違いが起きたならば、言い訳が立たないのは確実だ。
それでも尚、この少女を欲した少女性癖の男の一人が、シュベルド子爵だった。
ただ、シュベルドはリリィを抱きたかったわけはなく、所有し、大切にしたかったのだという。
既にこの世にいない男の言葉を鵜呑みにするわけではないが、皆、イザベラからは、そう聞かされている。
死後婚姻と家督相続によって、リリィは、自らに名を与える権利を得た。
イザベラというのは、恐らくは同族の誰かの名前だろう。
母なのか、姉妹なのか、それともただ響きが良かっただけなのか、これについてはイザベラは誰にも語ったことはない。
そんな貧相な少女が憧れたのが『騎士』であり、貴族になったならば、課題さえクリアすれば本物の騎士になれると知り歓喜したのは言うまでもない。
数年にも及ぶ食生活と鍛錬、そして貴族界隈の教養の習得によって夢は叶った。
だが、周囲も自身もそう呼ぶように『百錬』の二つ名に偽りなし。
その凄まじい執着、執念、願望、或いは己に課した責務とも伝わる修行は想像を絶する。
筋力をつけるためならば、走ることも、大剣を降ることも、食べるに耐えない嫌いな食材さえも受け入れた。
ただ、夢を叶えるために。
だが、どうだろう。
そうやって騎士になってみた所で使えるべき主、つまり王族はこの地にはいない。
王族の住まうアーシアンに足を運んだ所で、謁見出来たのは叙勲式のただ一度のみ。
そして既に戦乱の世ではなく、領民にとっての脅威は同じ人類ではなく魔物のみとなった。
つまり、騎士となった彼女の活躍の場である戦場は既に何処にもなく、ダンジョンを主とした魔物の生息域であり、その活躍は持ち帰る魔石によって高を計られる。
何が騎士か、何が貴族か。
虐げられた幼い日々を懐かしく思うことさえある。
憎悪があり、復讐があり、猜疑があり、生き残ることさえも戦い・・・そこは戦場だった。
今、自分が足を踏み入れる戦場は、異形を狩り、異色の血を浴びる滑稽な遊技場だ。
だからこそ、面倒なことにも好んで首を突っ込む性質になったのかもしれない。




