土砂降りの血の雨を降らせながら
アイシャがオーガと戯れのような戦闘をしている頃。
シャアリィは新しい道案内を雇い、別のルートからの迷宮探索をしている最中だった。
道案内として雇われたアンソニー・レジータは、冒険者歴こそ短いものの、なかなか感の良い青年だ。
シャアリィが戦闘に入る気配を察すると素早く射線から身を躱し、無言の連携が取れていた。
単独行やアイシャとの冒険が長かったシャアリィにとっては、久しぶりに息の合う狩りについ熱中する。
やっていることは単独行とほぼ変わらないが、案内役を危険から守るという一つのハンディキャップが一段狩りの難易度を上げ、それを楽しいとシャアリィは思った。
今、シャアリィがやっていることは、消化試合のようなものだ。
やればやるほど成果にはなるが、あまりにも遠く、地道な作業。
それを独りでこなすには気が遠くなる。
「やっぱ、ネームドキラーってのは違いますねぇ」
等とお世辞を言われればこそばゆしくもなるし、思わず乱射したくもなる。
だが、そこはシャアリィも歴戦の術式使いだ。
魔力が切れるということは、自分だけでなく案内役のアンソニーの死をも意味することを忘れていない。
「あなた、射線から避けるの上手ね」
「それだけ動いてくれるとこっちも誤射する心配なく動ける」
お世辞にお世辞を返すわけでもなく、シャアリィは事実そう思っていた。
前日の少々恰幅の良い男は、人当たりや面倒見こそ良さそうだが、警告なしに撃てる局面が殆どなかったのだ。
それに比べたら、お世辞めいた言葉も出るというもの。
一度、迷宮に潜ればシャアリィは、戦闘のことしか頭になくなる。
そのあたりはアイシャのような生真面目さより、純粋に魔術を楽しむ素養があるだけ融通が利く。
それはアーシアンでの単独行の頃から、あまり変わりはない。
ただ、強くなった分だけ自分の限界点、自由度が高くなったことも、より戦闘狂の性質に拍車を掛けているのかもしれない。
吹き飛ばし、穴を穿ち、切断し、へし折り、敵を蹂躙し続ける。
そして、注意深く周囲を警戒しながら、魔石を抉り出す。
この時にも、アンソニーの知識はなかなか役に立った。
見当をつけた場所と違う場所を抉れば時間もロスするし、手間も増える。
焦りや苛立ちまで達したら、かなり危うい。
それは、そのまま危険度を増す要因となり得るのだ。
シャアリィとアンソニーが進む後には、散発的に雨が振ったように血塗れの池が出来る。
少ない手数で叩き魔力を温存すれば、それだけ長時間、戦闘を続けることが出来るのだ。
敵を誘導し、集め、一気に殲滅する。
それは魔物との実力差が大きい場合にだけ使える戦闘技術であり、初見や大型の相手であれば、逆に分散させて叩く必要がある。
そうしなければ手痛い反撃を食らうことになり、戦装束とは言え術式使いのマジックローブなどでは物理的な防御力は布のそれなのだ。
それでも強力な魔力を持っているシャアリィであれば致命傷にまでなるような傷は滅多なことでは負わない。
土石属性の特性と、マジックバリアによって自分の身は守ることが叶う。
だが、先述同様、自分が下手を踏めば、当然、アンソニーは落命する。
そうなれば、先々の案内役探しに重大な支障が出る。
シャアリィがアイシャのように広々としたフィールドを選択しない理由は、幾つかある。
一つは気配遮断も、走破力もない以上、会敵したらそれを殲滅するしかシャアリィには選べない。
勿論、鈍重な敵であれば、それも叶う場合もある。
一つは術式戦になった場合、人工物、ダンジョンの中では壁や扉を利用して敵の射線を躱しつつ、自分の攻撃だけを当てる技術がシャアリィにはある。
それは、動体視力に優れたシャアリィならではの術式近距離白兵戦を可能にしている。
さらには、触れただけで相手を死に至らしめるコラプションを所持しているのだ。
さらに言うならば、会敵とは言わず、一方的に敵を視認してからの短い時間で攻撃が出来るシャアリィの特性、詠唱短縮が効果を発揮するのも、限られた視界しかないダンジョンの方が勝っているだろう。
この日も、結局、250を越える魔物を倒しながら被弾なし、案内役への被害なし、と、いう異常なまでの戦闘能力を発揮したシャアリィだった。




