単独行
亜竜種・・・火炎属性サラマンダー、土石属性バジリスク、風雷属性ワイバーン、氷結属性ニュート。
いずれにしても相手にするには危険過ぎる。
龍種と違い、亜竜種は基本的に複数で行動する魔物だからだ。
特にバジリスクのブレスは、麻痺を伴う為に単独行そのものが自殺行為。
サラマンダーは迷宮の中にしか生息せず、しかも、生息地自体が溶岩地帯等の超高温エリア。
アイシャにとって勝ち筋が見出だせるのは、ワイバーンか、ニュートだろう。
迷宮に入らずとも遭遇可能で、やり方次第では一対一に持ち込める。
理想を言えば、ニュートを陸に誘き寄せるのが最適だが、ニュートの発見はアイシャの索敵を持ってしても難しい。
常に水の中に潜んでおり、水中での運動性能では絶望的な差がある。
結局、正攻法で亜竜を倒すならば、はぐれのワイバーンしかないのだろう。
シャアリィはミヤマの屋敷に、そのまま客人として滞在することになった。
ぱっと見、どう見ても五十才よりも若く見えるミヤマだが、実際の年齢はレリットランスのロートシルトと変わらない。
民族的な特徴として、東方伝来種族は皆、スリムで若々しく見える。
そして、アーシアン本国の色素の薄い目の種族と比較すると、長寿な者も多いらしい。
「珍しい瞳の色だね」
と、シャアリィの瞳をじっと見て、その他についても、眺めるというよりも凝視する。
そういうミヤマの瞳は、オニキスのような輝きのある黒色。
「しかし、アイシャを一人で行かせてしまって、良かったのかな?」
単独行をけしかけた本人が、相方のシャアリィに問うのは、自分の求めていない答えを引き出すための確信犯的な質問なのだろう。
シャアリィは、それに対して心を揺らすような繊細さは持ち合わせていない。
「私もミヤマ先生の意見に賛同しましたので」
「刀で強くなってどうする?」
「心を抉られる言葉ですよね」
強いか、弱いか、というものは相対的なものであって、絶対的ではない。
「君は随分と諦めが良いというか、人の善性をまるで信じていないのだな」
「なるほど」
「私の眼から見て、アイシャよりも強いと感じるのはそういうことか」
シャアリィとアイシャという二人において、どちらが強いということは『状況次第』で、簡単にひっくり返るものだ。
運次第とさえ言えるだろう。
それでも尚、シャアリィに天秤が傾くならば、より『死』に近い場所に到達したからに他ならない。
夕暮れ。
まさか、アイシャがその日のうちに戻れるなどとは、ミヤマも、シャアリィも思っていなかった。
故に、ミヤマはやはり失敗したかと、予想通りの落胆。
シャアリィも同様に励ましの言葉の用意を・・・
それが共に見当違いだと思いもしないままに、アイシャを受け入れる。
「参ったよ・・・」
「はぐれだと思ったのに、近くに群れがいてね」
「正直、蜥蜴のエサになるって思ったけれど・・・やれば、なんとかなるもんだ」
「首は重いから、魔石にしたけれど、問題はないよね?」
戻ってきたアイシャの鞄からは黄緑色の魔石が七つ。
全身に傷を負い、ワイバーンの青い血に塗れながらも、五体満足で生還した。
しかし、あの真っ白な少女の白い部分は、殆ど残っていなかった。
「刀も、駄目にしてしまった・・・」
鞘から出てきたアイシャの片刃剣は、尖端から半分程を失い、残った刀身にも無数の傷が刻まれていた。
三節棍も、弩弓も、失った。
今まで、自分の命を守ってくれていた武具を全て失ってしまった。
「やっぱ、無茶はするもんじゃないなぁ」
ぽつりと、言葉と一緒に瞳から涙が落ちた。
シャアリィは、ただ、アイシャの背中を抱きしめることしか出来なかった。
ミヤマは、やれやれとばかりに、後頭部に手を当てて屋敷の奥に引っ込んだ。




