ランドウ・ミヤマ
「さて」
と、切り出すミヤマの一言で、室内に緊張が走る。
アイシャが言うには、ミヤマの機嫌次第では、刀を諦めなければならないのだ。
ただ、先程の遣り取りを見る限り、アイシャはミヤマに随分と気に入られている様子である。
「刀を見せな」
アイシャの腰、鉄の輪でベルトに接続されている鞘を外し、恭しくミヤマの元まで歩を進め、刀を置く。
ミヤマはそれを『すらり』と、まるで使い慣れた刀を抜くように刀身を眺める。
「手入れは怠っていないね」
「曲がりはないが、少々、持ち手側に歪みがある、それと刃の中程に凹みが少々か」
「随分と無茶な相手とやり合ってきたようだね・・・今後もそういう生き方をするつもりかい?」
「私の刀と縁を切ったほうがお前は幸せになれる・・・私にはそう見えるんだが」
アイシャは顔色を変えずにいるが、シャアリィは思わず目を伏せてしまう。
「私は先生の刀が好きだ」
「最初に授けてもらった時、必要な時にだけ抜きなさいと言われたが、たった三年でこの有様」
「グリーン・ノウズでも言われたけれど、私は随分と業が深いらしい」
「望むのは、この刀以上の業物」
「お叱りを承知の上で、参りました」
ミヤマは曲芸のように刀の尖端で鞘を立てると、その鞘に刀をまた『すらり』と仕舞う。
シャアリィから見て尚、華奢なミヤマが、女性が扱うには不自由この上ない重さの剣を自在に扱うのは驚異。
僅かに反りのある片刃剣がミヤマの手元に収まると、それだけで切れ味が増したように見えるのは説明不能でもあり、納得でもある。
「これ以上の業物とねぇ」
「アイシャ・・・お前、ドラゴン・スレイヤーにでもなるつもりか」
「随分と自惚れているようだがね」
ミヤマは、じろりとシャアリィを睨む。
図星を突かれても尚、アイシャは怯まずミヤマの手にある片刃剣を見つめる。
「一つ、試験をしようじゃないか」
「隣りにいる化け物とつるまずに、サラマンダーでも、ワイバーンでもいい」
「亜竜を一頭狩ってくるんだ」
ミヤマは小さな落胆の吐息を隠さない。
「アイシャ、お前にはギリギリってのが足りてないのさ」
「私の打った刀身が歪む程の敵と戦いながら、刃欠け、刃こぼれもなく斬れるのは、相方のお陰だろうよ」
「お前が業物を欲しがるのは、相方に劣らないようにするためだろう?」
アイシャの眉間に冷や汗が垂れる。
「順番が違うだろうよ?」
「刀で強くなってどうする?」
「このミヤマの刀の使い手は、強いことが条件だ」
「お使いが出来たなら、そうだな・・・」
「戦場で回収されてきた鵺斬をやろう」
アイシャの目の色が変わる。
ミヤマの刀の中でも特級品と言われる一本、ヌエキリ。
伝説の雷獣ヌエをも一刀両断すると謳われる、プライスレスなサムライ・ソード。
「承知しました」
「亜竜の首、我が手のみで此処に持ち帰ります」
「では・・・」
シャアリィには、今のアイシャの姿こそが刀に取り憑かれているように見えた。
アイシャ程の腕があるならば、どんな刀であろうと強いはず。
だが、この屋敷に入ってからは、アイシャのみならず、自分までもが酷く脆弱に感じる。
その理由が何かはわからない。
アイシャを行かせるべきかも、止めるべきかも。
シャアリィは自身が取るべき行動を完全に見失っていた。




