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菅原道真は検税使を停止したい

道真は寛平八年(八九六年)七月五日に朝廷で検税使の報告を受けた。検税使は国司の徴税を検査する役割である。

「検査の結果、国司の中には律令に違反している箇所が見受けられました」

「そうだ、それを言いたかったんです。この検査があまりにも形式主義に陥り、大目的を見失っていることに危惧を感じています」

「大目的とは具体的には何をおっしゃるのでしょうか」

「人々の幸福です。検査が条文の違反にこだわるあまり、その本質を見失っていると思うのですよ。こだわりすぎると、目先のルールを守ることが目的となりがちです」

道真は国司らがやむを得ない理由で律令の条文に違反していると国司らに代わって弁明した。その上で諸国への検税使の派遣停止を奏上した。

「本朝は法を大切にし、それを守ることで平和と秩序を保ってきました。しかし、法は手段であり、目的は人々の幸福です!検査が形骸化してその大目的を見失うことは許されません。重要なことは大目的です。個々の細かい条文に違反していないかではありません」

「しかし、律令の条文を守らなければなりません。それが法であり、秩序を保つために必要です」

役人の一人が反論した。

「そうだ、もちろん法を守ることは重要です。しかし、法は人のためにあるのです。個々の条文にこだわり過ぎず、大目的を見失わないようにしましょう!」

「しかし、それが一般的になれば秩序が乱れることになりませんか」

「形式主義にこだわることで本来の目的が失われることもあるのです」

これは現代日本の官僚主義への批判にもなる。現代日本の行政は憲法の目的を考えずに省令などを形式的に守ることにエネルギーを注いでいる。


道真の主張は支持されたが、道真のやりたいことは国司の臨機応変の対処を追認することで終わりではない。それは一時の対策に過ぎない。むしろ現実とそぐわない形式化した仕組みを改革することであった。国司が臨機応変の対処をしなくて済むようにすることであった。ところが、後に道真が冤罪で失脚することで改革は頓挫し、歪められてしまう。

道真の主張は人々の為という大目的を実現するものであった。ところが、後世には大目的が税金を徴収して中央に貢納することに歪められてしまった。税金が取れるならばルールに違反しても構わないという搾取の論理にすり替わってしまった。この結果、受領請負制が台頭していくことになる。


太政官では大臣を務めていた源融や藤原良世、源能有らが相次いで亡くなった。宇多天皇は寛平九年(八九七年)六月に藤原時平を大納言兼左近衛大将、道真を権大納言兼右近衛大将に任命した。時平と道真のツートップ体制とした。時平は基経の息子である。


このツートップ体制は貴族達に不評であった。より正確には道真がツートップの一角になる体制が家柄重視の貴族達に不評であった。彼らは道真の家柄に対する不満や自身の地位を脅かされる恐れから職務をボイコットすることで道真に抵抗した。

この抵抗に直面した道真は困惑しながらも対策を考えなければならなかった。道真は心を決めて、宇多天皇に助けを求めることを決意した。道真は宇多天皇を訪れた。宇多天皇は道真の困難を理解し、道真の要請に応えることを決めた。

「朕が命じれば、彼らを出仕させることができる」

道真は深く感謝の意を示しながら答えた。

「お言葉に甘えて、是非ともお願いいたします」

宇多天皇は貴族達に出仕を命じる旨を伝える勅命を発した。それによって、抵抗していた貴族達は徐々に出仕し始め、新体制がようやく動き出した。


道真と時平は互いに補完しあいながら、政権の安定と繁栄を追求するために協力した。時平は経験豊富な政治家であり、父である藤原基経から政治の手ほどきを受けて育った。彼は知識と洞察力に優れ、的確な判断を下すことで知られていた。道真とのツートップ体制では、政治の実務を効率的に遂行する役割を果たした。


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