11月休日のイベント
11月、寒くなってまいりました、というか寒い、寒いのです。僕は先日制服の上に着るセーターを買った、紺色のやつだ。千佳もオレンジ色のセーターを買い、六倉さんもグレーのものを買った。大地は・・・別に寒くないと言った。確か僕の記憶の奥底にある幼稚園の時の大地は常に半袖だったような気がする・・・気のせいならいいのだが。
「すっすむ~ん」
千佳がノリノリで教室に戻ってきた、休み時間のあいだは一体どこに行っていたのだろうか・・・
「なんだ・・・」
千佳がノリノリなほど僕としてはそっけない返事をするほかなくなる。
「いやぁ面白いバイトを見つけてさぁ」
「バイト?」
「ほら、今度の週末はバイトがないとか言っていたじゃない?あたしが仕事を探してきてやったわよ、感謝しなさい」
千佳は僕の机にチラシを置いてきた。さっきからひらひらさせているので嫌でも目に入っていた。
「松野宮ふれあいデー・・・」
これまた懐かしいものを引っ張り出してきた。松野宮ふれあいデーは毎年、自然公園でこの時期に行われているイベントだ。子供の頃に千佳と行ったことがある、あの時に食べたカレーが物凄く美味しかった覚えがある。
「しかしまだこのイベントやっていたのか・・・」
「スタッフの募集だよ」
募集内容はイベントの設営や記録など、どこの担当になるかは電話してみるまでわからない。
「しかし何故またこんなものを・・・」
「香苗ちゃんとこの人形焼屋がまた出るみたいだよ、あたしも申込もうかと思うけど」
「あーそれが目的か・・・」
「?」
理由はどうあれ最近の千佳はそれなりに行動的だ、千佳が働くと言っているのでここは千佳の保護者として僕も参加するべきだろう。
「よし、参加しよう!報酬目当てとかじゃなくて・・・」
「え?」
「・・・いや、何でもない」
まぁ六倉さんも来るならいいだろう。
そんなことがあって僕は11月の休日に自然公園に足を運んだ。自然公園は以前ボランティアできたことがある、もちろん地元の自然公園なのでほかに何回も来たことがある。
「・・・・・」
仕事を言い渡された僕は早速“制服”に着替えた。僕の“制服”を千佳が笑いをなんとかこらえているようだ。
「ププ・・・進、似合っているじゃない・・・」
「これに似合うもクソも無いと思うが・・・」
僕の制服、それはウサギ・・・ウサギの着ぐるみだ。一応まだ頭は被っていない。胴体だけは異様に太くなっているので起き上り小法師のような状態になっている。
「あれ、前に着たメイド服の方が良かった?」
「その話題を出すのはやめてくれ・・・」
せっかく忘れかけていた頃だったのに・・・ちなみに6月くらいにボランティアできる羽目になったあのメイド服は未だに僕の部屋のクローゼットの中にある。なるべく復活して欲しくない・・・
「それで、千佳は何するんだよ?」
「あたし?コレよコレ!」
千佳の首にぶら下がっているものはカメラ、デジカメではあるがそれなりに本格的なカメラだ。
「撮影担当?」
「そ、地方の新聞とかに載せるんだって」
だいぶセンスのいる仕事を頼まれてしまったようだ。千佳に務まるだろうか・・・
「あたしの撮影技術に惚れるなよ!」
千佳が楽しそうだからまあいいだろう、僕はそのように納得することにした。
さて、このお話の初めに11月は寒くなってきたと言ったと思うがアレは嘘だ。今僕は汗をかくくらいに暑い。着ぐるみの中は地獄です。暑い以外にも視界が悪い、現在僕の視界はウサギの口という最悪な状況だ。口なのに目というカオスな状況だがそこに突っ込む余裕はない。僕のミッションは猫ならぬウサギをかぶって子供たちに風船を配るミッションである。
カシャ・・・カシャ
「・・・・・」
頭をかぶっている間は喋ってはならない、つまり目の前で着ぐるみをかぶった僕を撮りまくっている幼馴染がいても一切突っ込めない。屈辱だ・・・
「千佳さんおはようございま~す」
「あ、香苗ちゃん」
声から察するに六倉さんがやってきたようだ。頑張って六倉さんを視界に入れようと頑張ってみるが・・・ようやく視界に入れることができた。
「なにか、そこのウサギさんがこちらを睨んでいるような気がしますが・・・」
え、そう思われている!?どう思われているかはとにかくウサギを着ているあいだは絶対に喋ってはいけない。自分をアピールすることすら許されない。今はあくまでウサギなのだ。
「ああ、このウサギは気にしなくていいよ」
「?」
千佳がこのままだとどこか遠くに行ってしまいそうな気がするのでとりあえず風船を渡しておくことにしよう。
「あ、ありがとうございます・・・」
若干引いているが六倉さんは受け取ってくれた。
「あたしこのイベントのカメラマンなの、いろんなところ撮りに行こ!」
「いいですねーいろいろ回りながら撮っていきましょ」
ちょっと待ってこの流れは危険な予感がする・・・
「じゃあ行こー!」
「おー!」
女子2人は人の波の中に去っていった。
置いてかれた・・・完全に置いてかれた・・・
「うさぎさーん」
うなだれるウサギの元に女の子がやってきた。おっと、たとえ中の人がうなだれていても現在はウサギ、中の人などいないのだ!
「あ、ふうせーん!ありがとー」
女の子は嬉しそうにスキップしながら去っていった、僕は手を振りながら見送った。こんな光景を見るとこの仕事でも良かったと思う。30秒くらいの出来事だったが千佳には是非ともこの瞬間を撮ってもらいたかった。
おや、今度は後ろから視線を感じる。首だけ動かしても後ろは見えないので僕は体ごと回れ右をした。
「・・・・・」
視界は悪いがあのウェーブのかかった長い髪、間違いなく白沢先輩だ。白沢先輩はウサギの僕に何をするわけでもなくじーと見つめている。とりあえず風船を渡してあげよう。
「ふふ・・・」
素直に微笑む白沢先輩、ちょっと可愛い。
「あ、姫梨せんぱーい」
視界のない真後ろから千佳の声、多分六倉さんも横にいるのだろう。
「あら、千佳さんに香苗さん」
「進となにか話していたのですか?」
「え!?進くんだったの!?」
白沢先輩はそれはたいそう驚いていた。今僕は喋ることができないので体ごと大きく頷いた。
「気づかなかったんだ・・・」
「いえ、着ぐるみじゃあ気づきませんよ・・・てか相井さんだったのですね・・・」
六倉さんも今ウサギの正体に気づいたようだ。それよりも千佳は未だに六倉さんにも教えていなかったことが驚きだ。
「相井さん、バイトに来ると聞いていたのに見ないと思ったら・・・」
ひょこひょこと僕は小さくジャンプする。
「今、喋れないのですね・・・」
六倉さんは察してくれたようだ、非常にありがたい。
「ところで姫梨先輩はどうして進ウサギを?」
「あぁ・・・」
あれ、突然白沢先輩が黙り始めたような・・・
「ちょっと可愛いなと思って・・・」
あかん、ちょっとウサギのなかで照れてしまった。
「別に進に照れたわけじゃないから・・・」
さすが千佳、僕の心をよんでいらっしゃる。
「姫梨先輩、意外と可愛いもの好きですよね」
千佳は思い出すように話題を変えた。耳の下あたりを掻きながら多分生徒会選挙のことを思い出している。
「まあ・・・可愛いものは好きね」
そういえば白沢先輩のボールペンを何度か借りたことがあるがすべてキャラものだったような気がする・・・さらに今日白沢先輩が手に持っているバッグも取っ手部分にマスコットがついている。
「好きなキャラクターとかはいるのですか?」
「ないわね」
キッパリと白沢先輩、こだわりは無いようだ・・・
「無類の可愛いもの好きですか・・・」
若干呆れている六倉さんだが共感はしているようだ。
「見るとつい買ってしまうのですよねー」
ちなみに白沢先輩の自宅にはぬいぐるみはもちろんマスコット付きのボールペンも何本も所有しているらしい。
お昼休みでようやく着ぐるみを脱ぐことができた。
「新鮮な空気ステキ―!」
毛細血管の先っちょの方まで酸素を行き渡らせてみる、視界も通常通り良好だ。
「おつかれー」
1時間弱の着ぐるみタイムが終わった。着ぐるみに関しては午前ウサギ、午後にパンダが予定されているが午後は別の人が引き受けることになっている。着ぐるみの行動は限界がある。
「意外と辛かった・・・」
「でしょうね、ほれ、ドリンクの追加」
もらった500mlのお茶を一気に飲み干してしまった。千佳が気を利かせて別途にスポーツドリンクを買ってきてくれた(ただしお金は僕もち)。体力も使ったためにお腹もペコペコ、渡された弁当もぺろりと平らげた。
「そういえば進は午前中だけなんだよね」
「ああ、午後も引き続き着ぐるみという流れは勘弁してもらいたい」
まだ背中には滝のような汗が流れている。
「あたしはまだあるというのに・・・」
そういえば千佳は午前中は何をとっていたのだろうか?六倉さんと一緒にいたような気もするが・・・
午後はオフになった、千佳も午前中に写真は結構撮ったらしいので千佳も事実上オフだ。
「いらっしゃーい」
「お久しぶりだな進くんに千佳ちゃん」
というわけで夏祭りに引き続いて出店しているタイヤキ屋の人形焼に顔を出した。六倉さんのお父さんに会うのも久しぶりだ。
「こちらこそお久しぶりです、とりあえず2つ」
屋台の机に2つ分の小銭をおいたところ千佳が目を丸くした
「あれ、あたしの分も?」
「たまには奢るよ、バイトしているから・・・」
バイトを始めてからだろうか、結構なお金が入るようになったためそのあたりには寛大になってきたと自分でも思う。
「やった!」
大げさに千佳が喜んだのでおごってよかったと素直に感じた。それよりもチョコ以外で千佳の機嫌が取れるとは・・・
「そういえば姫梨先輩は?」
千佳に言われて僕も気になったが白沢先輩の姿が見えない。僕と千佳が控え室に戻ってからあっていないのだ。
「先輩なら帰りましたよ、もともと買い物の途中だったみたいですし」
「ありゃ、まあ文化祭もあるしね」
今日は休日なので文化祭は関係ないだろうが実は月末に文化祭控えており僕のクラスはお化け屋敷を予定している。ちなみに文化祭をするにあたって実行委員をこの間決めたのだがなんと千佳がそれを引き受けた。生徒会選挙のあたりから千佳は学校行事とかに積極的になっている。エコを心がけていた時期と比べるとえらい成長だ。
「ところで千佳は午前中南の写真撮ったんだ?」
「ぬ?」
よくわからない返事を返された。僕は千佳が既に写真を撮っていることは知っているがどんな写真を撮ったのかは知らない。
「ナイショー」
カタコトで断れた、ちょっと本格的とはいえデジカメなので画面から撮った写真を確認できるのだがカメラを見せてもらえない以上見ることはできない。
「六倉さんは何撮ったか知っているんですか?」
こうなったら一緒にいた六倉さんから聞き出してやろう。
「まぁ・・・知ってますけど秘密ですねー」
やんわり断られた!一体何を撮ったのだ!?
翌日の朝、母親に新聞の中程の面を見るように言われた。さて、新聞の中程には地方の面、昨日のイベントの様子が掲載されていた。
「お、この写真は・・・」
写真に写っていた光景は昨日、あの時にウサギの僕が子供に風船を渡している時だった。視界不良だったので周りがよく見えず、取られていることに気がつかなかった。
「ありゃ・・・」
その写真の下には小さい文字で“玉瀬千佳撮影”と書いてある。どうやら千佳が撮った写真のようだった。
どうせ撮ったなら教えて欲しいものだったが内緒にしていた気持ちも少しわかった。




