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番外編 春騒動

第三者から見た彼。

その日、僕は少し緊張していた。

僕のミスでありえないくらい仕事を増やしてしまった先輩が出張から戻り、今日出社する。

ちゃんとお礼を言う暇さえなく先輩は出張に行ってしまったから、今日こそちゃんと謝って感謝の気持ちを伝えるんだ。


そんなことでなんで緊張するのかって?

それは、先輩の人柄にある。

決して先輩が怖い人ってわけじゃない。

むしろ、僕のミスの後処理を何も言わずやってくれるぐらい面倒見のいい優しい人だ。

だけど、先輩のまとう隙のないピシッとした雰囲気と何があってもほとんど変化しない表情のせいで、どうしても緊張してしまう。

先輩の前に立つと自然と背筋が伸びる。嫌な緊張感ではないんだけど・・・。


とても仕事ができて、部下だけじゃなく上司にも頼られてる先輩に僕は憧れてる。

そんな先輩に認められたいという思いもあって、変に力が入ってしまうのだ。


でも、今日はしっかりお礼を言うぞ!

尾形先輩に!!



そんなわけで、僕はいつもより早く出社して自分のデスクで尾形先輩が来るのを待っていた。

尾形先輩は、いつも皆が来るより先に出社して仕事の準備をする。

人も少ないし、ゆっくり話せるだろう。

そう思っていたんだけど・・・。


いくら待っても先輩は来なかった。

結局、先輩が出社したのは始業時間ギリギリだった。

めずらしい・・・。出張でお疲れなのかもしれないな。

それでも、髪型もスーツもピシっとしてるのはさすがだけど。



できたら先輩とゆっくり話がしたかったんだけど、しょうがない。

お礼を言うのは早いほうがいいだろうし、何より早くこの緊張感から解放されたかった。


仕事の準備をする先輩のデスクに近寄り、一回深呼吸をしてから話しかける。


「おはようございます先輩っ!あのっ!この前は・・・。」


何度も頭の中で練習した言葉は結局でてこなかった。


先輩の左手の薬指に光る指輪を見つけたから。



えぇぇぇぇぇ!?




先輩の薬指が起こした混乱は僕一人にとどまらず、その日のうちに会社中に広がった。

それはしょうがないことだと僕は思う。

だって、すごくもてるのに、どんな女性が告白しても顔色一つ変えず断ってきたあの先輩が急に指輪なんかつけてきたんだから。

浮いた話なんてほとんどなかったし、どんな女性に対しても、態度も表情も変えないあの先輩が指輪!!

一体、先輩に何があったんだ・・・??

ていうか、相手は誰なんだ???


指輪を見た人間が思うことは、ほとんど一緒だったけどそれを先輩に直接尋ねる勇気をもったものはいなかった。女性社員は集まってひそひそ話をしてるし、男性社員は気になりながらも普通に仕事をしてるふりをしてる。僕もその一人だ。

当事者である先輩はいつもと同じようにもくもくと仕事してるし。

そんな妙な状態のまま時間は流れていった。

が、そんな状態を壊したのも先輩だった。


「佐々木。」


っ!!先輩に呼ばれたっ!?

「はいっ!!」

いきおいよく立ち上がる。


「今度の会議の打ち合わせに行くぞ。」


げっもう、そんな時間!?

「はいっ!!」

先輩の指輪に気をとられて、仕事のことを完全に忘れてた・・・。

ダメだなぁ・・・。


たくさんの書類を取り出し、先輩を追いかける。

追いつき横を見れば、いつも通り隙のない先輩がいる。

まわりがこれだけ騒いでも全く動じていない先輩のもつ静けさが僕を落ち着かせた。

今なら・・・


「先輩・・・それ・・・。」

視線で指輪をさす。


「ん?あぁ、これか。」


先輩が指輪を見る。

すると、先輩はゆっくりと嬉しそうに微笑んだ。


あぁ、本当に大切な人ができたんですね、先輩。

それなら、あなたを尊敬する後輩として心から祝福したい。

頭の中で練習なんかしなくても、今度はちゃんと言えた。


「先輩、おめでとうございます。」


僕のその言葉に先輩は一瞬驚いた顔をしてから


「あぁ、ありがとう。」


と笑って言った。




尊敬するあなたとあなたが選んだ人に幸福を。


いつかあなたにそんな顔をさせる人に会わせて下さいね、先輩。



読んで頂きありがとうございます。彼の視点で書くとわりと熱い人なんですが、まわりから見た彼はこんな人です。基本は無表情。頼りになるけどちょっと近寄りがたいお人です。不定期ですが「ネガティブな春」まだ書くつもりですので、気長にお付き合いくださいませ。

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