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浮世話

次の日の午前四時

いつもより早く目覚めた清。

我ながらお爺ちゃんのような生活になったもんだと気持ちよく伸びをする。

早めの身支度を終えて、本堂で慈円を待っている清は。

空いた時間に、深いため息をつく。

昨日から清には避けていることがあった。

それはスキルボードの確認である。

これまで気に入っていた例のトリガーが昨日の出来事で甚だ腹立たしく感じる。

避けては通れぬ道ではあるが…

一晩寝たことで若干ほとぼりが覚めたのか、よっこいしょと文字通り重い腰をあげてみる。


閻魔様〜お願いしま〜す。

いつもなら目の前に現れるスキルボードが反応しない。

丸坊主のおでこにギュッと皺が入る。

クソっ!気持ちも入れないと反応しないのかよ!


ふぅ〜〜〜〜!すぅーーー!


深い深呼吸をする清。

ストレスを感じた時は深呼吸をするのが良いと何かで読んだことがある。

閻魔様!お願いします!パンっと手を合わせてみる。

目の前には、見慣れたスキルボードが現れる。

唾を吐きかけられた相手にお願いすることの、なんと屈辱的なことか。

結構根に持つタイプの清である。


体力8 知力6 筋力9 仏力1 功徳3

保持スキル『仏の声』レベル1


昨日の今日で何も変わんないか〜と思っていたが、功徳が3になっている。

これはなんでだ??

思い当たるのは総代と高岡さんの件か。

条件はわからんが、魂を救ったのが反映されたのか?

正直功徳が何なのか知らない清はネットで調べて〜っとこの時代に来てから不便を感じることが多々ある。

一方でデジタルデトックスのおかげか超健康児になりつつあるのも事実だ。

携帯が出回るのはいつ頃なんだ?

というか俺は持たせてもらえるんだろうか?

テレビも見ない慈円が、買ってくれるところを想像できない。

やっぱ金を稼ぐ手段は必要だな。


改めてメインの項目チェックに移る。

「そもそも、これ触れたのかよ」と一人愚痴りながらもシュッと左にスライドしてみる。

画面が切り替わった。


・使命

・スキルの説明


誰がわかんだよ!

そう突っ込みつつも使命の部分を押してみる。

さらに画面が切り替わる。


『お前の使命は現世に留まる迷い霊どもを一刻も早く成仏させることだ。

現世に長く留まる迷い霊は、生前の悔いに捕らわれ悪さを働く怨霊に変わる。意識が薄れゆくゆくは人ならざるもの、魍魎となる。

前世の記憶を残してやったのは、少しでも多くの迷い霊を成仏させる為だ。

ワシが選んだお前なら出来ると信じておる。』


使命というかメッセージのようだ。

閻魔様…やっぱ良い人だ…ズズッ

あれだけ罵っていた事が嘘のように改めて尊敬しだす単純な清であった。

前世では、ほとんど褒められる事なども無かった為、人に期待されるだけで嬉しくなるようだ。

やったりますぜ!閻魔様!

そうやる気を出して、次の項目のスキル説明を押してみると画面が切り替わる。


お前に与えた『仏の声』だが、早くレベルを上げるよう努力すべし。

まずは、心を込めて読経してみよ。

近くに霊がいるなら声が聞こえるだろう。

多くの霊を成仏させればさせるほど、スキルレベルが上がるように設定しておる。

ゆくゆくは天界におる仏とも話せるやも知れぬ。

何処までやれるかは、お前次第だ。

仏力はスキルの発動とは関係ないから注意せよ。

お前の記憶で言うなれば、魔力ではない。

仏力は坊主としての本質、言うなれば言葉の力とでも心得よ。


こちらも閻魔様のメッセージのようだ。

めちゃくちゃ丁寧に書かれてある。

なんだか唾を吐かれても仕方ないような気分である。

本当にすみませんでした!!!

天に向かって手を合わせる清。

その光景を入り口近くで眺めながら、同じように手を合わせる慈円。

慈円の目には、小窓から差し込む朝日を浴びて、手を合わせる清が神々しい姿に見えた。

慈円は改めて思った。

この子を立派な僧侶に育てなくては!と。


慈円という男は、見た目は日本兵のような勇ましさがある。坊主らしからぬ筋肉質な体型だ。

人によっては怖いと感じる人も、漢らしいと感じる人もいるだろう。

ここ平成の世ではイケメンに入る。

恐らく令和ではモテないタイプだ。

子供の時から慈円はモテた。

だが、付き合ったことはない。

元来、無口であり、人見知りする方だ。

中高男子校に進んだことで女性への免疫がほとんど付かなかった。

ただイケメンではあるので、急に声を掛けられることはあった。

目を白黒させながら、初対面の女性を傷つけないようにと捻り出した答えが「宗教上の都合で…」

よりにもよってお喋りな幼馴染の真田(児童相談員)に聞かれたために、瞬く間に噂は広がった。

振り返れば、慈円の周りに女性は殆どおらず、家が近所で同じく幼馴染の島田香織が唯一と言っていい女友達である。

そう。島田香織は京子さんの娘である。


話は逸れたが、結婚出来ないからせめて子供だけでもと清を引き取ったわけではない。

慈円は一生独身でも気にしない。

周りと自分を比べるタイプでない。

久しぶりに幼馴染3人で食事をしようと約束していた前日、夢を見た。

赤と黒の着物で、烏帽子をつけた阿弥陀如来を名乗る仏様。銅像などで見ていたお姿とは全く似ていないが、神々しい姿に妙に納得する。

阿弥陀様は、慈円に子供を引き取るように言う。

すぐに話があるとのことだ。

阿弥陀様はご自分が結んだ縁なので大切にするようにとのこと。

引き取らなければ、その子は死ぬだろう。

また災厄も引き起こす、証拠を見せてやる。

そこで慈円は目を覚ます。

妙に鮮明な夢だった。と思った瞬間に地震だ!

ギョッとする慈円。そこまで大きくはない。

ラジオをつけると、震度3の音声が流れる。


3人で食事を楽しんでいる時に、ふと真田が仕事の話をする。

真田が仕事の話なんて珍しい。

いつも嫁が子供の話を聞かされている二人は興味を持った。

「とても可哀想な子供がいるんだ」

そんな話出して、清の生い立ちと記憶喪失の状況を説明。

コンプライアンスなんて殆どない時代である。

ただ昨日の夢を鮮明に覚えている慈円は、あまりにも出来過ぎた話に阿弥陀様のお導きを感じ引き取る決意を固めた。

後日、真田にその時の話をしても、

「慈円が子供探してるって言ってたやろ?

そんなことまで話すわけない」と二人の会話は噛み合わないのであった。


余談ではあるが、ほいほいと目の前で子供を引き取る話が成立したことで、島田香織は絶望した。

一晩中泣いていたよと京子から聞いて頭に?を浮かべる慈円であった。

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