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他人の過去の一部が視えてしまう私なのに、なぜか侯爵子息の記憶は何も見えませんでした。  作者: 有梨束


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3/3

後編

「こんにちは」

「えっ、おっ…!」

そこまで言って、私は自分の口を全力で塞いだ。


目の前にいる方が、ニヤリと笑ったのが見えた。


ど、どうしてうちの店に、王子殿下が…?


多少変装はしているとはいえ、平民の着る服と帽子を被っているだけで、お顔を知るものが見たら一発で王子だと気づくくらいのものだった。


なんで、私が1人で店番している時に限って、こんなことが起こるんだ…。


動揺しながらも、口から手を離して、営業スマイルを貼り付けた。


この方が、今もくまのぬいぐるみを大切にされている王子殿下か…。



「いらっしゃいませ、何かご入用でしょうか?」

「ふふふ、僕を客だと扱ってくれるのか」

楽しそうに笑うと、殿下はカウンターまでやってきて、私の真向かいで肘をついた。


ぐはっ、この至近距離で王族の方を見るって、何事…!?


子爵令嬢としては今すぐに逃げ出したいところだが、配達やら打ち合わせやらで家族も出払っているこの店で、今私が逃げるわけにはいかなかった。


箔がつくのは嬉しいが、こんな形は恐ろしすぎるなぁ…。

あーあ、どうか上位貴族のお嬢さん方の耳に入りませんように。

恨まれませんように!!




「やあ、君がサリー嬢かな?ユリードが世話になっているそうだね」


は。


「ユリードがこの店がとても興味深かったと言っていてね、僕も来てしまったというわけ」

人好きの笑みで笑っている王子殿下に、私は顔が引き攣りそうになった。


平穏な子爵令嬢としての生活が終わったかもしれない…。


商売人の笑みが剥がれていないかヒヤヒヤしながら、背中には汗がたらりと落ちていった。


「サリー嬢、君はユリードに何をしたの?」

「うちの店に興味を持っていただけたようなので、僭越ながら案内役をいたしました」

「ううん、そういうのではなくて」

「……?」

殿下の言葉がいまいち飲み込めずにいると、少しだけ笑みから真剣な眼差しに変えられたのがわかった。


「ユリードを変えたのは、君かと訊いているんだ」

「ユリード様がどんな人なのかまで知るほど、親しい仲ではございませんので、わかりかねます」

正直に答えると、王子殿下は一瞬間があったあと、くすっと笑った。


「ユリードがどんな人か…、たしかにわからないね」

王子殿下はただ頷いて、優しい笑みを作った。


「ユリードが留学していたことは知っているかい?」

「ええ、噂程度ですが」

「僕はね、彼とは再従兄弟だから以前から交流があったんだよ。でもね、留学から帰ってきたユリードは人が変わったように穏やかになっていた」


その口ぶりから、殿下は記憶喪失のことを知らされていないのだと気づいた。

私、余計なことを言わなくてよかった。


「長い間の留学で成長したと言われればそうかもしれないけれど、以前の彼はもっと貴族らしい男だったから、僕は違和感を覚えた」

「貴族らしい、というのは…?」

「上に立つ者の矜持と強引さを兼ね備えていた」

「な、なるほど…」


それは、たしかに今の記憶喪失のユリード様とは像が違う。

私が見たユリード様はどんな人かと訊かれたら、『物腰柔らかで穏やかでら下位貴族にも優しさを示す人』だ。



「優秀さは変わらないけれど、こんなにも人は変われるのかと驚いたものだよ」


王子殿下視点で見れば、そうなのだろう。

知っている人が見違えるほど変わったら、戸惑うのも無理はない。


「でも、この前会いに行った時は、少しだけ変わる前のユリードみたいだった」

「えっ?」

「何か情報を掴んでニヤニヤしている顔は、以前のものだった」


以前のようって…、記憶が戻ったとか?


私の表情が変わったことがすぐにわかったのだろう、王子殿下はそれこそニヤリとして、私の瞳を覗き込んだ。



「それで、ユリードからキミの話が出たから、きっと君だろうと思ったというわけ」

「え、私の話、ですか…?」


何か話をされるようなことを、私はしたのだろうか。


「そう、普段にどのご令嬢のことも受け流すくせに、たった1人だけ自ら話す令嬢が現れたんだよ?友人として、気になるのは当然だと思わない?」

その顔がイタズラを仕掛ける少年のようで、でもしっかり上に立つ者も圧があって、私で適うわけがなかった。


「…上位貴族の殿方を狙いに行かない人間が、珍獣のように見えているだけだと思いますけど」

素直な感想を述べると、殿下は今度は目を丸くして、それから吹き出すようにぶはははっと豪快に笑った。


お、王子殿下って、声を出して笑うのね…?


直接お話しするのはこれがはじめてだし、普段だってチラリと遠くから見て、あの周囲に近づかないようにしようしか考えていないから、なんとも不思議な感じだ。


「あはははっ、サリー嬢ってそういう感じなの?そりゃあ、ユリードも気になるわけだ!」


えっと、どこらへんがですか…?


「はー、おかしい…。そうかそうか、ユリードはいい相手を見つけたのかもしれないな」

涙を拭いながら王子殿下は、私を真っ直ぐに見た。


「僕は応援するよ」

「え…っと」

「ユリードを振り回してくれるくらいのご令嬢の方が楽しそうだ」

「身分が違いすぎるので、そのようなことにはならないと思いますが…」

「そんなのいくらでも手はあるさ」

王子殿下はウィンクをして、カウンターから体を離した。


「さて、表に護衛を待たせているからこれで失礼するよ。またね、サリー嬢」

それだけ言うと、店の商品のおすすめ棚を指差して、全部をあとで王城に送ってくれと言い残して帰って行った。



…夢だったかな?


少なくとも人生で一番のおかしな日ではあった。

な、なんか疲れたな。


ユリード様、どうされているのだろうか。

オルゴールの手がかりは見つかったのかな。



そんなことを思っているうちに、侯爵家から私個人宛にお茶会の招待状が届くのだった。




「オルゴールの曲を調べたんだ。そうしたら、曽祖父が作った者だと判明した」

「えっ、作曲をされていたのですか!?」

「どうやら、そうだったみたいだ」


落ち着かない気持ちで参加したお茶会は、この前商会の人間としてやってきた時と同じく、客間に通されて、私とユリード様の2人きりだった。


「曽祖父は侯爵であった反面、音楽家の道に進みたかった過去があったみたいで。趣味が高じて、引退してからは本当に音楽家になっていたらしい」

「らしい、というのは…?」

「家族に隠れて活動していたから、ほとんどの人間が知らなかったみたいだ」


ユリード様の説明になんだか高揚感を覚えるようで、私の胸がトクトクと言っている気がした。


侯爵としてのやるべきことをやったあとに、自分の夢を叶える。

それがどんなにすごいことか、私には想像もつかない。


私も、いつか商会のために、何か成せるのかしら。


「それで、僕はオルゴールではなくて、曲の方に何か思い入れがあるのではないかと考えた」

凛としたユリード様の声に導かれて、私は彼の顔を正面から捉えた。


「曽祖父の遺品を探したんだが、それらしいものは何も残っていなくてね」

「そうでしたか…」

「家の者に聞いてみても、曲を知っている人間もいなくて」

「う〜ん、私たちのお父様たちが子どもの頃に作られたオルゴールですしね。覚えている人がどれだけいるか…」

「そうなんだよね。僕も幼少期に何度かお会いしただけで、曽祖父とそこまで交流もなかったし」

そこまで話して、私たちは頭を抱えた。


手がかりはあったものの、進展はそこまでなし…、と。


私は店から持ってきていたオルゴールをテーブルの上に置いた。


「一応、持ってきてはいるのですが」

「もう一度、聞いてみてもいいかな?」

「もちろんです」


私はねじを回そうとして、手を止めた。


「ユリード様が、回しますか?」

「え…?」

「何がきっかけになるかわかりませんし」


そう言って、オルゴールをユリード様の方に置き直した。


ユリード様はじっとオルゴールを見つめたあと、そっと手に取った。

くる、くる、と、確かめるように少しずつ回して、蓋を開けた。


音色が止まりながらも流れていくのを、私たちは何も言わずに見守った。

鳴り終わった時、ユリード様は静かに首を振るだけだった。


「やっぱり、聴いたことがあるとわかるだけだね」

「そうですか…」

「すまないね、何度も付き合わせてしまって」

「いえ、こちらこそ何もお役に立てずすみません」

「ははっ、荒唐無稽なお願いなのだから、いいんだよ」


そう言いながらも、濃紺の目が寂しそうに揺れている気がした。


私が、ユリード様に触れて、『何か見えた』らよかったのに。

そうしたら、過去にこんなことがあったはずですよ、ってお教えできたかもしれないのに。


この能力を持っていても、こんなに役に立たないのは、今がはじめてかもしれない。


人の過去なんて見えなくなればいいのにと思ってきたはずなのに、今はどんな些細なことでもいいから見たいと思ってしまった。


勝手だな、私…。


そう思いながら、さっきまで聴いていたオルゴールを辿るように、音を口ずさんでいく。


オルゴールだから音しかわからないけれど、歌詞もあったのかしらね。


高音が綺麗だったな、と鼻歌がそこに差し掛かった時──。


「それだっ…!」

ユリード様の大きい声がして、私はビクリとして、当然鼻歌も止まった。


「あ、すみませ…」

「それだよ、サリー嬢!そのままっ!そのまま口ずさんでいて!」

「え?」

やらかしたのかと思ったが、どうやら違うようで、怖いくらい私を見ているユリード様の言うように、鼻歌を続けた。


ふーん、ふふん、ららら、ふふーん。


「……ひいおじい様は、僕に、鼻歌で歌ってくれたんだ。そう、だったんだ」

ユリード様の掠れた呟きとともに、私の鼻歌も静かに止んだ。


力なく首が前に垂れているユリード様は、無言のまま。

私もどうしていいかわからずに、黙っていた。


しばらく沈黙が続いた客間の静寂を破ったのは、ユリード様の息を吸う音だった。


「はああ…、そうか、歌ってもらっていたんだ」

「…ユリード様?」

「サリー嬢、僕はどうやら断片的に思い出しているみたいだ」

ようやく顔を上げたユリード様の紺色の瞳は、キラッと光っていた。


「思い出されたのですか…?」

「うーん、それはどうだろう?ただ、ひいおじい様との思い出だけは、なぜか鮮明に思い出せた」

「それは…」


まだ全然ダメでしたね、と言いそうになった時、ユリード様は穏やかに笑みを深めた。


「やっと、一つだけでも思い出せた。ありがとう、サリー嬢。なんとお礼を言っていいのかわからないほどだ」


その顔が思った以上に晴れやかで、私の方が息を呑んだ。


私、何もわかっていなかったんだな。

たった一つでも思い出せたことをこんなに喜んでいるユリード様の、不安なのか、苛立ちなのか、解放なのか、何かはわからないけれど、それはとてつもない得体の知れない時間だったに違いない。


記憶がないって、真っ暗闇にいるようなものだったのかもしれない。


そこに一筋でも、どんなに細くても光が差したのなら、それは希望だ。

憂うのものではない。



「いいえ、私は何も。ユリード様が追い求めた結果にございます」

「そのきっかけは君がくれたものだ」

「でしたら、商人としてお客様のためになる当然のことをしたまでです」

私は線を引くようにそう言って、しっかりと商人の笑みを作った。


私が踏み込んでいいのは、ここまでだ。


ユリード様の笑みが一瞬強張った気がしたが、私は気にせず営業トークに切り替える。


「そちらのオルゴールは、貰い手がいるならお譲りすると商会長から許可を得ていますので、ユリード様が必要でしたらぜひお持ちくださいませ」

「…いいや、思い出せただけで十分だ。持ち帰ってくれて構わないよ」

「かしこまりました」

私がオルゴールを引き取ると、ユリード様は私に手を差し出した。


「…?」

「サリー嬢、君のおかげで僕は曽祖父との大事な思い出を思い出せたんだ、ありがとう」

握手を求められているとわかって、私は躊躇った。


だけれど、ユリード様の態度が一切引くことがないとわかって、仕方なくおずおずとその手に触れた。

ユリード様は、グッと引っ張るように私の手を強く握った。


あっ…。


思わず声が出そうになって、私は目を逸らした。


頭の中に、映像が流れたからだ。


どこか田舎の景色に、草原の上にシートを引いて並んで座っているおじいさんと、小さい子ども。


夕陽に照らされながら、その頬に風が吹いて、おじいさんの鼻歌を追うように、少年が顔を見上げている。


優しくて、情がこもった、メロディーだった。


『ねえ、ひいおじいさま。そのお歌、なあに?』

『これは、私の大事な歌なんだ』


見えたのはそれだけだった、それだけで十分だった。



泣きそうになりながら、私は最後の笑みを作った。


「ユリード様の記憶がお戻りになることを、これからもお祈りしております」


それが、私たちの最後になるはずだった。




「はあああああ、私夜会って気分じゃないんだけどぉ…」

「私たちの婚期が遅れてもいいの?」

「サリーがいてくれないと、始まらないじゃない」

「自分たちでも見極めてよぉ〜…」

友人たちに連れられて、以前と全く同じように引き立て役兼相談役として夜会に参加していた。


あれ以来、ユリード様には会っていない。


それはそうだ、身分が違うのだし、あちらから接点を持たれなければ、本来近づくこともできない相手なのだ。


家の中でため息を吐くたびに、「サリーが恋煩い!?きゃあ、あなたも年頃だったのね!」とお母様が楽しそうにするし、「サリー、お前商売以外に興味あったんだな」と兄様までやたらと絡んでくるし、「…なんだ、サリーも嫁に行くのか」とお父様は悲しそうにするしで、まあ、家にいるよりかはいいんだけど…。


そんなんじゃないって言っているのに!

ただ、この能力は肝心な時には役に立たないし、私はユリード様のことを何にも知らないんだなって、ガッカリしただけで。


断じて、恋じゃないってば。



友人の後ろに隠れながら、会場を回っていると、前と同じような一際目立つ歓声が上がった。


「あら、王子殿下とユリード様ね」

友人の声に、肩がビクリと震える。


「珍しいわね、こんなに早い時間にお出ましになるなんて」

「そうね、いつもは終盤にいらっしゃるものね」

「……なんでもいいよ、また巻き込まれるのはごめんだから、離れようよ」

私がそう言うと、友人たちは皆頷いた。


「そうしましょう」

「あんな物騒な思い、もう懲り懲りだしね」

私たちはいの一番に会場の壁へと逃げたのに、なぜか殿下とユリード様とそれを囲うご令嬢の集団がこちらにやってくる。


「なんか、こっち来てない…?」

「まさか」

「もうちょっと移動しましょうか」

そうやって動いたのだけれど、追われるようについてくるので、さすがに私たちは顔を見合わせて、すぐさま早足になった。


「何…!?怖いんだけど」

「誰か何かしたっ?」

「この前の、サリーがユリード様に助けていただいたのが気に食わないとか…?」

「えっ、じゃあサリーじゃない!しばらく離れてもらっていい?」

「えええ、薄情者〜!!」

私たちが壁際をずっと移動しているというのに、集団も同じように動いている。

怖すぎるっ…!!!


だけれど、その集団がピタリと止まるのが見えたかと思うと、ユリード様だけが一人こちらに来ていた。


えっ、えっ、え…。


戸惑っている間に、ズンズンとやってきたユリード様に追いつかれて、名前を呼ばれた。


「サリー嬢、少しいいだろうか?」

その声は柔らかくなくて、知らない声みたいだった。


王子殿下が言っていた『上に立つ者の矜持と強引さを兼ね備えていた』となぜか思い出した。


「え、っと」

「どうぞどうぞ、お連れくださいませ」

「私たちの友人ですが、とてもいい子なのでよろしくお願いします」

「え、ちょっと…!」

ぐいぐいと背中を押されて、前に出されてしまった。


うわーん、生贄じゃないか〜!


一面の壁には、私の友人たちの集まり、少し離れて私とユリード様、そしてもう少し離れたところに王子殿下を取り囲むご令嬢の集団、と並ぶこととなった。


こんな状態、普段ではありえないから、関係ない人たちもチラチラとこっちを見ている。

あと、王子殿下の周囲にいる令嬢の視線が痛い。



「あの…、何かご用でしたでしょうか…」

「サリー嬢」

ユリード様の圧のある声に、私は下を向く。


一緒に保管室でたくさんの品を見ていたユリード様ではないとわかる。

それが、なんとも怖かった。


「あれからのことなんだが、半分くらいは思い出した」

「えっ?」

びっくりして、思わず顔を上げてしまった。


濃紺の瞳がギラリとして、私を見下ろしていた。


「やはり、あの歌がきっかけだった。ありがとう」

「も、もったいないお言葉です」

「それでなんだが、サリー嬢」

ユリード様はそこで区切ると、しっかりと言葉を繋いだ。


「俺と結婚してほしい」


一瞬何を言われているのかわからなくて、夜会のざわめきした聞こえなくなった。


一人称が『僕』から、『俺』に変わってる…。


一番に気になったところがそこで、何度も瞬きしてしまう。


今、何を言われたんだっけ…?



「サリー嬢、俺は君と結婚がしたい。返事が欲しい」

「…もう一回、頭でも打ちましたか?」

「それは、侯爵家嫡男を侮辱していると受け取っても?」

「い、いいえっ!滅相もございません!」

全力で首を振ると、ユリード様は不敵な笑みを見せた。


「あの、身分が違いすぎますが…」

「そんなことどうとでもなる」


なんか、王子殿下も似たようなこと言っていたな、それ。


「なぜ、私なんでしょうか?」

「むしろ、なぜ君じゃないと思うんだい?」

ユリード様は悪い顔でニコッと笑った。


そうして、私の耳元で喋った。


「侯爵家のこの俺の秘密を知っているというのに、どうして放っておかれると思っているのかな?」

「え」

「ふふ、君が俺に親切にした時から、君に逃げ場はなかったんだよサリー?」


私の知らないユリード様が楽しそうにそう言うので、ああ、これがユリード様なんだ、と腑に落ちてしまった。


私に上位貴族からのお誘いを断る度胸なんて、ありはしないし…。


「私で、いいんですか?」

「ああ、君との時間は、これまでで一番落ち着いた時間だった。あの日以降、そんな日ははじめてだった」

「それは、私たちの間に何もなかったからでは…?」

「君はそう思っていたのか、それは傷つくな」


ユリード様は言葉ではそう言いながら、声は愉快そうに弾んでいた。



「君のことは母も気に入っているからね、君が嫌がっても、あらゆる手を尽くして捕まえてしまうと思うよ?」

「すごい怖い宣言をされた気がするんですが」

「愛の告白の間違いじゃないかな」

思わず、むむむ…とユリード様を見てしまったが、その濃紺の瞳が細められるだけだった。


現実逃避がしたくなって、視線を彷徨わせると、王子殿下がこちらを見ていることに気づいた。


あの時と同じように、ウィンクされてしまった。


あ、これ、逃げられないやつね…。


私は大きく息を吸って、覚悟を決めるしかなかった。



「ね…」

「ね?」

「根回しは、そちらでしてくださいね…?ユリード様」

私がそう答えると、ユリード様は目を丸くしてから、吹き出すように笑った。


「ああ、それは任せてくれ」

そう言って、ユリード様が私の手を取って、甲にキスを落とした。


私ではなく、いろんなご令嬢の悲鳴が響き渡った。


その時に私の頭の中に流れたのは、あのくまのぬいぐるみを箱の中に仕舞っている小さいユリード様だった。



『おれは大事なものは、誰にも取られたくないからここに入れておくの!』



そう自慢げに言ったユリード様に、若い頃の奥様がくすくす笑っているところが見えたのだった。



あー…、なんか見たかったような見たくなかったような過去が見えてしまったわ。


今目の前にいるユリード様をもう一度見ると、ニコリといい笑顔で笑っていた。



「これからもよろしくね、サリー」







お読みくださりありがとうございました!!


毎日投稿192日目。(日付変わってしまいましたが、寝るまでならセーフということで)

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