第零章
ここに辿り着いてくださった「あなた」。
ようこそ「怪奇館」の世界へ。
読み進めるほどに、世界が広がってまいります。
どうぞお楽しみください……。
「三つ巴」という紋がある。
そう、勾玉を三つ、中心に向かって円形に並べたような形状だ。
いま僕の目の前にあるのは、もう一つ勾玉が増えた「四つ巴」の紋。
古びた金色の「四つ巴」が浮かびあがる、深い緑地の暖簾。
その大きな暖簾が、床の間の壁いっぱいを占めている。
700年の歴史を誇る旅館の大広間。そこにいま、僕は正座している。
上座には、暖簾を背負うようにして、この家の女主人と「あの人」が端座し、そこから左右一列ずつ、縁者や使用人たちがずらりと並び、その全員の視線が、一番下座で正座する僕に集まっている。
旧家を舞台にした、古い探偵映画とかに登場するシーンのようだ。
大広間に沿って長い縁側があり、その先は庭になっている。
庭といってもそれはあまりに広大で、その先に続く小山と境目がない。
しきりに鳥の声が聴こえてくる。
沈黙の中、僕は緊張から逃れるようにして、その鳥の声を聴いている。
どれくらい時間が経過したのか気になるところだが、こんな衆目にさらされた中では、とてもじゃないがスマホの時計を見る気にはなれない。
ただ正座を続けるしかない僕を、正面の「あの人」だけが、他とは違う眼差しで見ている。僕も彼女を見返す。救いを求めるように。だが、彼女もまた、僕を見守ることしかできず、申し訳なさそうな色をわずかに視線に込めるだけだ。
やがて、女主人が口を開いた——。
僕は、固唾を呑んで、その言葉を拝聴する。
「あの人」と目が合った。
僕は、初めて彼女と逢った頃のことを、思い出していた……。




