番外編、六六六
2026年6月6日 箱庭縁側
いつものように、スカイ、エリザベス、レベッカ、アリスの四人が座っている。
庭には風が吹いていた。箱庭の空は今日も妙に澄んでいて、外の世界があるのかないのか分からない。相変わらず、この小さな箱庭は静かだった。
スカイが、図書館から持ってきた雑誌のページをペラペラとめくる。
「今日、世界滅亡説があるらしいぞ。2026、6、6。実質666だからって」
エリザベスは湯呑みを持ったまま、半眼になった。
「ただの語呂合わせじゃないですか……実質の範囲が広すぎます。第一、2と0と2はどこに行ったんですか」
「賢い人には見えない数字なんだと」
「裸の王様理論!」
アリスが隣で、スカイのAKS-74Uを整備しながらぽつりと言う。
「そもそも、私たち王党派は王国暦使ってるし……」
レベッカも頷いた。
「そうだよね。西暦で滅亡って言われても、こっちの暦だと何年? って感じ」
スカイは腕を組んだ。
「しかし666だぞ? 我々にとっては縁起の良い数字だ」
エリザベスが即座に突っ込む。
「世間一般では悪魔の数字ですよ……?」
「だが作者と大隊にとっては縁起数だ」
「局地的すぎる信仰ですね」
「大隊番号だぞ。家族番号だ」
アリスが小さく笑った。
「クリスティーナが聞いたら、今からでも記念日認定しそう」
レベッカが苦笑する。
「あー、やりそう。『666の日です! 家族の日です! 大隊記念祭をしましょう♡』って」
エリザベスは頭を抱えた。
「やめてください。絶対に妙な儀式になります」
「儀式とか言ってやるな。本人的には筋が通ってるんだろう。多分」
「殿下はクリスティーナに妙に甘いんですよ……」
スカイは雑誌を脇に置いて、ふと思い出したように言った。
「そういや、マヤ暦終了で世界滅亡説とかもあったな」
レベッカが「あったあった」と笑う。
「2012年のやつだよね。世界が終わるってテレビでも雑誌でも騒いでたやつ」
「作者も子供時代はあれには本気でびびったものだ……」
エリザベスがじっとスカイを見た。
「歳がバレますよ」
「純粋だったなぁ、あの頃は色々と……」
「殿下に作者が憑依している……」
レベッカは少しだけ柔らかい顔をした。
「ま、私達の中では666は悪魔じゃなくて、私たちの家族の数字だから。不吉な日扱いは不本意だぁね」
「うん。鳥籠の数字」
アリスはAKS-74Uのバレルを覗きながら言った。エリザベスも、少し黙ってから湯呑みに視線を落とした。
「……まあ、世間では忌み数でも、私たちにとっては別の意味がありますからね」
スカイが得意げに胸を張る。
「だろ? 666は家族の番号だ。縁起物だ」
「敬虔なキリスト教徒が聞いたら頭抱えますよ……」
しばらく沈黙が落ちる。
庭の木々が風に揺れる。箱庭には虫の声も鳥の声もない。
それでも、縁側の四人の間には、妙に穏やかな午後の時間が流れていた。
レベッカが空を見上げる。
「でもさ、世界滅亡説って毎回外れるよね」
アリスが頷く。
「外れなかったら困るし。今月世界滅亡! とか言ってるこの雑誌にも次号の予告が載ってるし」
アリスは雑誌の最後のページをめくった。ちなみに、この手の雑誌は発売日には何故か屋敷の図書館の新刊コーナーに最新刊が並んでいる。
エリザベスが肩をすくめた。
「世界は案外しぶといんですよ。少なくとも、語呂合わせ程度では滅びません」
スカイが鼻で笑う。
「我々の祖国は語呂合わせが無くても滅んだがな」
「急に湿度を上げないでください」
「だが、俺たちはまだここにいる。……なんの因果か」
その言葉に、三人は少しだけ黙った。
箱庭。出られない場所。死ねない場所。
それでもここには大隊の151人と1柱がいて、今日も湯呑みが並んでいる。
レベッカがぽつりと言う。
「じゃあ、世界は滅びなかったってことで、お茶のおかわりしよっか」
整備を終えたアリスが立ち上がる。
「お菓子持ってくるよ。今日は666の日だし」
エリザベスが眉をひそめる。
「あなたまで記念日にしないでください」
スカイは満面の笑みになった。
「よし、今日は666の日として制定する!」
「何をするんです?」
「夕食、少し豪華にしよう。流石にいつまでも食事がレーションって訳にもいかないだろ」
「それなら有志でケーキでも作りますか」
エリザベスは眼鏡をくいっと上げた。
スカイは嬉しそうに頷いた。
「良いねぇ」
レベッカが笑い、アリスも小さく笑った。
スカイは湯呑みを掲げる。
「ひとまず、世界が滅びなかったことを祝うか」
「祝、2026年6月6日。世界滅亡せず」
レベッカも湯呑みを上げる。アリスも続く。
「あと、666がこれからも縁起の良い数字でありますように」
エリザベスは最後に、渋々ながら湯呑みを上げた。
「……今日も世界が滅びないことに、乾杯」
四つの湯呑みが、こつんと小さく鳴った。




