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24.十倍

 屋敷の庭。


 空は春の淡い青に染まっている。その下で朝食を終えた第666特別大隊が整列していた。


 以前より人数は増えている。


 いや、正確に言えば戻ってきた者がいる。


 死んだはずの顔。記録簿に「戦死」と書かれた者たち。


 それでも誰も驚いてはいない。というより、あまりにも変な事が起こり過ぎて、それが当たり前のように受け入れられていた。


 スカイは前に立ち、腕を組む。


「……さて」


 一拍。


「というわけで」


 軽く息を吐く。


「既存小隊はそのまま。原隊が崩壊済の戦死組は再編成した。所属はさっき配った紙で確認しておけ」


 俺は肩をすくめた。


「元々同じ釜の飯食ってた仲だ。新部隊でも仲良くしろよ? ……頼まれもしないのに死後もついてきたんだ」


 一瞬だけ口元が笑う。


「キビキビ働いてもらうぞ」


 隊列のあちこちで小さな笑いが起きる。それに続いて――


「「「おー!」」」


 と中途戦死組全体から声が上がった。


 軍隊の気合いというより、遠足前の学生のような空気だ。


 エリザベスが横でため息をつく。


「相変わらずですね」


「何が」


「統率がゆるい」


 スカイは笑った。


「この大隊、昔からこんなもんだろ。そのくせ、トリガー引く時だけは人が変わる」


 それから隊列を見渡す。


 ファルコン。

 クロウ。

 イーグル。

 ウッドペッカー。

 オウル。

 ヴァルチャー。

 グース。

 コーモラント。

 スワロー。

 ペリカン。


 死んだはずの顔も混じっている。復活した隊もある。それでも違和感はない。


 この連中はある意味、元からおかしい集団だからだ。


 再編成を終えた第666大隊を見ながら、俺は腕を組んだ。


「年少者ばかり。さながら十五少年漂流記だな」


 エリザベスが横でメモ帳を閉じる。


 俺は遠くの森を眺める。初日にざっくり探索しただけで、まだ未知のエリアも多い。やれる事は沢山ある。一方エリザベスは突っ込んだ。


「十五少年漂流記にしてはおぞましいんですよ」


「何が」


「人数です」


 彼女は冷静に言う。


「10倍ですよ?」


「そうだっけ」


「赤穂浪士ですら47人止まりですよ」


 一拍。


「読者さんついてこれませんって……」


 スカイは肩をすくめた。


「なに、登場人物紹介を参照しながら読んでもらえばよかろう」


「メタ発言やめてください」


「それに」


 指を立てた。


「一小隊ごとに話作っていけば日常ものっぽい雰囲気になるだろ」


 エリザベスはゆっくり振り向いた。


「今、何小隊いるんですか……?」


 俺は指を折り始めた。


「イーグルが8小隊」


「もう多い」


 続ける。


「ウッドペッカー6小隊」


「まだ増える」


「ヴァルチャー8小隊」


「オウル5小隊」


「グース6小隊」


「スワロー3小隊」


「コーモラント3小隊」


「ペリカン3小隊」


 エリザベスの目がだんだん死んでいく。が、まだ終わらない。


「それから再編されたクロウが3」


「同じく再編ファルコンが1」


「待ってください。ちょっと待ってください」


「どうした」


 エリザベスは震える指で数える。


「えっと」


「8」


「6」


「8」


「5」


「6」


「3」


「3」


「3」


「3」


「1」


 そして顔を上げる。


「これに私と殿下の幹部二人を入れて……47グループあります」


「そうだな」


「そうだな、じゃないですよ。十五少年漂流記どころじゃないですよ」


「十五少年漂流記は十五人。それに比べるとだいぶ増えたな」


「だいぶどころじゃない」


 だが俺は満足そうに頷いた。


「よし。47回分ネタがあるな」


「一小隊一話構成なんですか!?」


「なんなら二話~三話つづくらいいけるな」


「94話!!」


「とはいえ、それだと永遠に完結出来ん。ひとまず。全小隊の持ち回やったら一度最終回にして区切って、以降は再連載開始って形でダラダラ不定期に日常回をたれ流そう。かのサザエさんも、原作ではサザエとマスオさんが結婚した回で一区切りって事で完結して、しばらくしてから再開したわけだし」


「さらっと作中で作者の脳内プロット開示しないでくださいよ……それにサザエさん一時完結は長谷川先生の家庭の事情が原因ですし……」


「まあいいじゃないか。永久禁固刑。どうせ時間はたっぷりある」


 エリザベスは空を見上げた。


「読者の時間は有限なんですよ……」


「なあエリザベス」


「はい」


 俺は指を立てる。


「だいたい美少女日常ものって、三〜四人くらいで百合百合イチャイチャするのがメインだろ? ご〇うさとか、のん〇んびよりとか」


「まあ……」


「それが×47」


 俺は周囲を指差した。


「多すぎる」


「お得だろ?」


「なにがお得なのかよく分かりませんが」


 エリザベスにツッコまれたが、気にしない。


「大丈夫大丈夫。151人。47小隊。かの赤穂浪士と同じ数。縁起が良い」


 指を折りながら言う。


「グループだけで四十七士!」


「人数は初代ポケ〇ンの151と同じだ」


 エリザベスは真顔で言った。


「人をポケ〇ン扱いしないでください」


「いうてポケ〇ン全種より覚えやすいだろ。今1000種以上いるし」


「そういう問題じゃない」


 俺は一堂に会した隊員達を眺めながら言う。


「本編だとどうしてもな、ピックアップ出来るメンツが偏る」


「まあ確かに」


「だからこうしてスピンオフで補完する」


 エリザベスは静かに言った。


「急にメタいやん……」


「いいんだよ。どうせ100%趣味で書いてるスピンオフなんだから」


 俺は笑った。


「それに151人もいると、カップリング妄想するだけで何か事件が起こる」


「それはそうでしょうね」


「つまり」


「つまり?」


 俺は満足そうに頷いた。


「ネタには困らん」


「作者の事情やめてください」


「現実的だろ?」


「そういう現実はいらないんですよ」


 その時。爆音が響いた。


 ドォン!


「……」


「……」


「チヌーク姉妹ですね」


「イーグル第2かもしれん」


 エリザベスはため息をついた。


「この人数でこのメンツ……絶対平和な日常にならない気がしますよ」


「それもまた一興だ。箱庭の日常、はじまりはじまり~」

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