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機械仕掛けの人形師  作者: 六轟
第4章

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79:

「すまぬ、もう一度説明してもらえぬか?」

「いいですよ。ミュルクの森を視察しに行ったら、真聖ゼウス教皇国の勇者と聖女が魔物に襲われていたので助けて、そのまま匿ってます。」

「そうか……。聞き間違いではなかったか……。」


 玉座の背もたれに体重を預けながら、高い天井を見上げる王様。

 どうやら淡い期待を砕かれたらしい。

 心中お察しします。


 勇者と聖女を連れて冒険者ギルドへ赴き、そのまま冒険者登録を完了。

 再度隠れ家に連れ帰ってから、すぐさま王城にやってきました俺です。

 最近俺が王城へ行くと、アポイトメントもとってないのにすぐに謁見が叶う。

 よっぽど俺が重要視されているのか、もしくはほっとくとやばい問題児だと思われてるのか……。

 問題起こしてるのは俺じゃなくて、俺に絡んでくる奴だからな?


「確認するが、無理やり連れて来たのではないのだな?」

「寧ろ超丁重にお連れしましたよ。特に食事は、あっちの国だとろくなもん食べさせてもらっていなかったらしくて、最初のうちは何を出しても泣きながら食べてましたね。」

「不憫じゃな……。」


 味がついてるだけで泣かれた時にはどうしようかと思ったよほんと。

 だからと言って全てを信じてやることもできないんだけれども。

 大体の話、彼女たちはただそこにいるだけで戦争の切っ掛けになりかねない重要人物だ。

 例えそれが、イリアを疎んじてやる気のない護衛をするような兵士を送り出してきてたアホども相手だとしても、生きている人間同士で戦うのは極力避けたい。

 だから、本来であればあんまり関わりたい類の人間じゃない。


 でもよぉ……。

 カップ麺とかたい焼きであんだけ喜ぶ顔見せられるとよぉ……。

 投げ出すこともできてねぇんだよぉ……。


「して、その2人は今どこにいるんじゃ?」

「秘密です。知らない事にしておいたほうが都合も良いでしょう?」

「確かにそうじゃが、その場合ダロスに全ての責任が行ってしまうぞ?」

「積極的にやりたいわけでは無いですけど、最悪聖教会滅ぼすので大丈夫です。勇者と聖女も事あるごとに聖教ぶっ潰してやる!って言ってますし。特に食事を食べるタイミングで。」

「それは大丈夫なんじゃろうか……。あの国は、年若い娘たちに何を食わせとったんじゃ?」

「ジャガイモだそうですよ。味のついてない。」

「それは……不満も溜まりそうじゃな……。」


 せめて味塩コショウとかバターがあればね。

 あとはマヨネーズ。

 聖女様もお気に入りだぞ。

 アレ元々肉料理用だったらしいけども。


「というわけで、とりあえずのご報告でした。」

「とりあえずでとんでもない案件持ち込むんじゃからなぁ。寿命がどんどん縮まるわい。」

「せめて孫が生まれるまでは生きててくださいね。」

「なーに、息子がおぬしの部下に丁度良く躾けられたら、さっさと王位を押し付けて隠居するから大丈夫じゃ。その時にはおぬしの領地もいい具合に開発されとるじゃろうし、景色が奇麗な所にでも館を建ててもらおうかのう。」

「わかりました。領主邸からはかなり離れた所に建てますね。頻繁に訪ねてこられるとイチャイチャの邪魔なので。」

「つれないのう……。」


 報告を終えて王城を後にする。

 本当は、少し前に作った王城と家との秘密の地下通路で行こうかなとも思ったんだけれど、日中にそこ通って行ったところで、結局王城内だと目撃者をゼロにはできないしバレるだろうと言う事で泣く泣く我慢した。

 秘密の通路……使いたかったなぁ……。

 今度夜中に使ってみよっと。

 王城の敷地内にある兵士寮に住んでいる門番のドミニク君の部屋にでもエッチな本を置いてきてやろうか……。

 橋の下に捨てられてたように敢えて加工した奴を……。

 きっと喜ぶぞ……。


 久しぶりに1人で歩く王都。

 今日は3号をセリカとマルタの護衛に置いてきてしまっているため、ポツンと1人貴族街を進む。

 この世界に来てすぐ、ここを2号に乗って駆け抜けたのも今では懐かしく感じるな。


 しばらくしんみりした気持ちで歩いていると、前方から馬車が1台と、それを護衛するように鎧を着た騎士が数人馬に乗って走ってきた。

 戦に行くわけでもあるまいに、全身鎧に槍を装備とは馬が可哀想になる光景だ。

 好意的に解釈するなら、王都から出てどこかに行く途中の盗賊対策なのかもしれないけれど、馬の種類からしてそうではなさそう。

 あの馬は、見た目が良くて最高速度が速い種類。

 それとは引き換えに、スタミナは無くてケガもしやすいから兵士が好んで乗る種類じゃない。

 競争や、貴族のボンボンがカッコをつけるために乗る奴だ。

 馬車を繋げている馬までその種類なんだから、随分と舐めたことしているなぁ……。


 何て思っていたら、俺の前まで来て止まるその一団。

 何だ何だと思ってたら、戦闘の騎士が馬の上から話しかけてきた。


「ダロス・ピュグマリオン!貴様に背信の容疑がかかっている!大人しく同行せよ!」


 最初、何を言われているのかよくわからなかったけど、言葉の意味を理解した上でやっぱりこいつが何を言っているのかよくわからない。

 とりあえず、やんわりと説明しなおしてもらえるよう話してみるか……。


「お前、俺の友達か何かか?」

「何?どういう意味だ?」

「突然やってきて、名乗りもせず、馬に乗ったまま、背信の容疑がかかってるから、大人しく、同行しろ?お前を構成する全てが無礼。もう少し礼儀を勉強してから出直してもらえる?」

「……いい度胸だな……!穏便に済ませてやろうと思っていたが、その必要は無いようだ!」

「貴族に命令しようとしてる時点で穏便じゃないだろ?まあいいや。会話にならん。」


 残念ながら、平和的な解決は無理と判断しました。

 俺は服の下に忍ばせていたスズメバチ型人形、通称刺谷さんを数匹放す。

 超高速で飛ぶ上に、空中でホバリングが可能。

 アゴによる物理攻撃や、毒針による物理と毒のダメージまで与えられる優れモノだ。

 しかも、毒は色々な種類を使い分けられる。

 今回は、やさしーく麻痺毒にしておいてやろう。

 刺されても痺れて動けなくなるだけで死んだ人はしない毒だから安心なんだ。

 ただ死ぬほど痛いんだけど。


「総員!この反逆者をとら……があああ!?」

「なんだこの虫は!?ひ!?」

「くそ!兜の中に!」


 うんうん。

 なかなか気持ちのいい混乱ぶり。

 実戦で使うのは初めてだったけど、十分効果を発揮したな。

 コイツがいるから今回は3号を置いてきてるんだ。

 大体、貴族が1人でうろついてる時点で、誰かに襲われても何とかなるような奥の手があると思って相対するのが普通なんじゃないのか?

 こいつら、実戦は愚かマトモにこの手の事柄を勉強すらしてない気がするな。


 外にいた兵士が全員麻痺して馬の上から落ちたため、馬の方には催眠毒を打っておく。

 放馬は危険だし、何より馬が可哀想だ。

 こんなアホどもに使われてる時点で同情しかないけれど。


「それで、君らはどこの誰?背信がどうこう言ってたってことは宗教関係者?」

「ぐぎ…貴様!我らにこのような事をしてタダで済むと思っているのか!?」

「いやだから、お前らどこの誰なんだよ……。」


 会話はできるように、全身麻酔ではなく手足のしびれだけにしておいたのが間違いだったか?

 痛みはそこそこあるはずなんだけど、それでもこうして傍若無人な態度を取れるのは中々図太いな。

 ただ、それで会話が成立しないなら何の意味もない……。


「申し訳ない。私の部下たちが失礼しました。どうかその辺でお許しいただきたい。」


 諦めて、そのまま放置して帰ろうかと思い始めた所で、後ろにいた馬車の中から修道服の男がおりてきた。

 歳は50代といった所だろうか?

 肌は浅黒く、顔以外で唯一肌が露出している手はささくれ立ってゴツゴツしている。

 見た目のイメージだと、宗教関係者というよりは大工のおっさんって感じかな?


「許す許さないの前に、何が何だかわからない。俺としては、盗賊か何かに襲われたのと大差ない状況だ。お前らがどこの誰で、何を目的に声をかけて来たのか簡潔に教えろ。」


 そう言って、先ほど舐めた態度を取っていた騎士の頭を何度か蹴りながら言ってみる。

「ぐっ!?」だの「ぎや!?」だの聞こえるけどここは敢えて乱暴にやっておいた方が相手からの印象も良くなるだろう。

 コイツは頭おかしいってな!


「これは失礼。貴方とは初対面では無いもので、御存じかと思っておりました。しかし、よくよく考えてみれば、私が一方的にあなたを拝見した事があっただけかもしれませんな。」

「有名人なのか?ごめんな、男の顔を覚えるのは苦手なんだ。もっと言うと、修道服の奴は基本苦手だ。」


 そういうと男は、ハハハと笑いながら名乗った。


「申し遅れました。わたくし、聖教オリュンポス神殿長、ヨーゼフと申します。」


 しんでんちょう……?

 それってこの国の聖教関係者で一番偉い奴ってコト?

 あー、ってことは俺が爵位貰った時とかにもいたのかな?

 それならあっちが俺の事知っててもおかしくないわな!

 うん!

 でも自己紹介しあってるわけじゃないからやっぱ知らねーわ。


「それで、神殿長さんが俺に何の用?」

「少々お伺いしたい事がございまして、神殿までご招待しに参ったのですが、どうにもこの者たちには上手く伝わっていなかったようです。まったく……傲慢な態度は改めるように何度も言っているのですが、本国から送り込まれた騎士たちは聞く耳を持ちませんでな……。」


 本当かどうかはわからないけれど、苦々しい表情のヨーゼフとかいうおっさん。

 そんな奴をここに引き連れてきてる時点で同罪だと思うんだけれど、これ以上突っついても何も話は進まなそうだな。


「神殿なんて辛気臭い所で話したくないな。少し歩いたら馴染みの喫茶店があるから、話したいならそこで話さないか?もちろんアンタの奢りで。」

「ハハハ、私は職務中に金銭を持ち歩かないのですよ。」

「マジか……。しゃーない。コイツに奢らせるか。」


 そう言って、足元に転がる騎士たちの頭を蹴りながら懐を漁る。

 気分はRPGで民家に押し入る勇者だ。

 おうおう、上司は無一文なのにお前らはたんまりと持ってるじゃねぇか。

 貰っとくぞ?


「じゃあ行こうか神殿長さん。うちの家族によるとお勧めはジャンボフルーツパフェらしいぞ。」

「それは楽しみですね!男1人では中々そう言ったものを注文することはできませんので……。」


 俺も何度か連れていかれたけど、ヒルデ、エイル、スルーズのおすすめだから間違いないぞおっさん。

 あの3人は王都中の飲食店をハシゴしているらしいからな。

 グルメマップでも作れそうな勢いだもん。


 折角の1人散歩がおっさんとの2人散歩になってしまったが、まあ甘いもんに免じて許してやることにしよう。

 俺と神殿長は、一路噂の喫茶店へと向かった。



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