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「マスターのおすすめ日替わりサンドで。」
「私は、ジャンボフルーツパフェをお願いします。」
店員へ注文を告げる。
神殿長におすすめだと言っておいてなんだけど、今日はもう甘い物食いたくないんだ俺。
大体ジャンボって何だよヒルデ。
普通サイズでいいじゃねぇかエイル。
どう考えても数人でシェアする量を1人用として注文するなよスルーズ。
日替わりのサンドイッチってなんだろうなぁ……。
この世界……というか、この国は割と食が発展しているから、かなり期待できそうだ。
卵サンドとか、ハムサンドかなぁ。
トンカツってものが存在しているなら、カツサンドも捨てがたい。
タンドリーチキンサンドなんて飛び道具でもいいけど。
ケケケ……この何が来るかわからないワクワクとスリルが溜まらねぇぜ……。
「それじゃあ、この国の聖教トップが俺に何の用だったのか教えてもらえる?」
「いやなに、少々世間話がしたかっただけなのですよ。」
うっそだー!
ぜったいクソめんどくさい事言ってくるつもりだったでしょおっちゃん!
じゃねーとわざわざ神殿に連行とかしねぇよ!
「へぇ、世間話ねぇ……。例えばどんな?」
「そうですね……。例えば、ダロス男爵が新しく領地を得て、そこの視察中に人命救助をなさった事についてなんてどうでしょう?」
あーそう、聖女様と勇者様の話ね。
まあ予想はしてたけどさ。
もう少し捻ってくるかと思ったけど、案外ストレートに来たな。
「その事か。確かに森の中で修道服の2人を魔物から助けて、その後食事させてやったよ。美人だったわ。」
「その2人は今どちらに?」
「直前まで所属していた組織でろくな飯も食えなかったもんだから、これからは世界中を回って美食を極めるっつって去っていったよ。」
馬鹿正直に言う必要もないし、とぼけておこう。
設定としては、俺は彼女たちの正体も名前も知らないし、どうしてあんな所にいたのかも知らない。
俺の領地になってすぐだから、これ以降好き勝手しないように言い含めて開放した……ってコトでいいかな。
あ、もう説明できること無くなったじゃん。
「成程……。そう言う事であれば仕方がありません。実はその2人、真聖ゼウス教皇国において重要な立場にある方である可能性がありましてな。もし居場所を御存知であれば、是非保護させていただけないかと思っていたのです。彼女たちの事が心配で、急いだ結果が先ほどの部下たちの醜態にもつながっているのかもしれませんが……。」
保護ねぇ……。
探しているのが重要な立場にある人物であると言いながら、ろくな飯を食べていなかったという部分に疑問を持たない辺り、やっぱ聖教とかいう組織はろくなもんじゃないな。
「私にも娘がおりましてな。どうしても年若い女性が危険な目に合っているかもしれないと思うと、気が気でなくなってしまうのです。」
そう言って、神殿長は他のテーブルを見る。
そこには、母親に連れられた女の子が座っており、美味しそうにフルーツパフェを食べていた。
ジャンボじゃない奴な。
少女を見つめる神殿長は笑顔だ。
でも、コイツのこの笑顔……。
「10歳の時、娘は聖女のジョブを得てしまいました。真聖ゼウス教皇国では、聖女が生まれた場合、無条件で聖教会へ引き渡すことと法律で定められておりましてな。泣く泣く娘を神殿へと連れて行きましたよ。聖女を産んだ功績により、私と妻は聖教内で重役につくことができましたが、妻の方は娘を取られたショックからか程なく亡くなり、私の家族は娘だけに……。何を隠そう、先ほど申し上げた重要な立場にある者のうち1人は、聖女である私の娘なのです。」
「聖女様が行方不明なのか?」
「お恥ずかしながら……。」
こいつ、マルタの父親か!?
全く似てないけど……。
それはそれとして、聖女の存在は、聖教と言うものにとって他の聖教関係者全員合わせたよりも重要な気がするんだけど、よくもまあ逃げられたもんだよな。
まあ、イリア守ってた奴等も酷いもんだったし、全体的に聖教ってもんはそうなのかもしれない。
実に愚かだけど、聖教なんてもんを作り出した神にとっては、非常に好みの連中なんだろう。
その神ってゼウスってやつなのかな?
この状況で喜んでいるのか、それとも悔しがって生きてることを実感でもしてるのか……。
あ、それってネトラレ趣味と同じタイプの喜び方か?
ヤバイな神。
いずれにせよ、神様の退屈凌ぎの遊び用としては高評価なんじゃないかな。
「もう1人は?」
「はい?」
「いや、片方は聖女だとして、もう1人は何者なんだ?話しぶりからするとそっちも何か偉い奴なんだろ?」
まあ勇者なんだけど。
それを知らなければこういう質問して当然だと思うし、一応聞いておくべきだ。
本当に俺が何も知らないんだと思ってくれれば儲けものだけど、もしかしたら知らないのかも……と言う疑念が生まれるだけでも十分だし、何の効果も無くてもこっちに損はない。
相手にしか効かない毒をタダで撒けるなら、積極的に撒いていこう。
「申し訳ありませんが、それは教えられないのです……。」
「そっか、残念。王女様か誰かかね?」
「ハハハ、我が国に王はいませんので、皇女様になりますな。もっとも、聖教が力をつけてからは、皇族も慣習として残っているだけの状態ですがね。盛者必衰とはいいますが、悲しい物です……。」
ゼウスさんとこは皇帝がいるのか。
んで最低でも娘が1人。
宗教と政治を切り離せなくて影が薄いと。
興味が無かったとはいえ、調べれば簡単に出てくる情報だったかもしれない。
不本意ながら貰った領地と接する他国である以上、真聖ゼウス教皇国の基本情報は調べておくべきか。
にしても、コイツさっきからウソばっかりだな……。
「神殿長さんさ、嘘つきだってよく言われない?」
「……なんですと?」
本日初めてのビックリ顔。
これは嘘じゃなさそう。
「娘を泣く泣く神殿に連れてったって?いやいや、アンタは大喜びで連れて行ったんだろ?」
「何を言うかと思えば……。非常に不愉快です。根拠もなくそのような……。」
「いや根拠ならあるよ?アンタが納得するかは知らないけど。」
コイツが娘の……マルタの事を話す時に浮かべる笑顔は、俺にとって非常になじみのあるものだった。
大切なプラモに、ピンバイスや半田ごてでダメージ加工をするとき、つるつるのプラモに反射して映った俺自身の顔。
自らのエゴのために周りを傷つけながら得る喜び、そして充実感。
その狂気の一端が垣間見えるようなあの笑顔を理解できるのは、超能力者か、もしくはご同類だけだろう。
俺みたいな、な。
コイツの表情から察するに、妻が死んで悲しんだというのもウソだし、行方不明の娘が心配というのもウソ。
なんなら、死んでてくれればいいとすら思っていそうだ。
歪んだ愛か、怒りか憎しみか、理由はわからないけど、ろくなもんじゃない。
皇族に関しては、何の興味も持ち合わせていない感じがする。
そういう、自分のためなら周りはどうなってもいいという考えは嫌いではない。
場合によっては、そういう考え方ができる人間じゃないとできない選択もあるだろうから。
もっとも、俺の生きる目的には、ロボだのプラモだのはもちろんだけれど、家族を始めとした大切な人達の幸せってものがあるから、このおっさんとは絶対に仲良くなれそうにないけど。
可能な限り皆で幸せになりたいんだよ俺は!
「まあ別に、アンタがどんな人間かなんてどうでもいいんだ。問題は、アンタが何を目的に俺に接触したのかってことだ。」
「……はぁ。なんだか貴方に対して猫を被っても仕方がないような気がしてきましたよ……。正直に話しますと、私は娘の事が嫌いなのです。」
そう言って、多少は素直になったおっさんは語り始めた。
なんでも、嫁とは幼馴染でずっと一緒に成長して、自然と恋に落ち、やがて結婚したそうだ。
そこまでは幸せだったけれど、娘が生まれて全てが変わってしまった。
その娘は、全くおっさんと似てなかった。
肌の色も、髪の色も、瞳の色まで違った。
何より、大工仕事で鍛え上げられゴツゴツとしたおっさんと全く違い、とても美しい見た目をしていた。
それは成長すればするほど際立ち、いつしか周りも疑い始めた。
マルタは、おっさんの娘ではなく、嫁さんと間男の間にできた子供なのではないか……と。
何より、おっさん自身がそう考えてしまった。
それでも、最初は自分で自分を誤魔化し、妻を信じているふりをしていた。
しかし、男の誤魔化しなんて、女には簡単にバレてしまうもので、事あるごとに妻はおっさんに「私を信じて!」と言うようになったらしい。
しかし、そんな状態になったおっさんに、信じるなんて事ができるわけがない。
結局、夫婦仲は冷え切っていく。
何故こんなことになったのか……。
全ては、娘のせいなのではないだろうか……。
そう思ってしまうが、だからと言って娘を排除するような事はできない。
病んでいるとはいえ、基本的に悪人と言うほどでもないおっさんは、最低限娘も養っていた。
しかし、そこで娘に聖女のジョブが発現してしまう。
これにより、更に周りや自分の中で、娘はおっさんの子ではないのではないかという疑いは強くなってしまった。
そんな希少なジョブが、こんな田舎の、ただの一般人であるおっさんの娘であるわけがない。
高位の聖職者の隠し子なのではないか?
なんていう噂が堂々と村の中でされるようになる。
おっさんの心は、ほんの少しの愛情と、その何倍もの憎悪と絶望で占められてしまった。
丁度良く、聖女は聖教会に引き取られる事になっていたので、嬉々として引き渡してしまうおっさん。
少しだけ、ほんの少しだけ、娘がいなくなることで妻とまた昔のように愛し合えるのではないかと期待した。
だけれど、自分を疑い、娘を喜んで他人に引き渡す夫を愛せる妻なんてどれだけいるのだろうか。
少なくとも、おっさんの妻はそうではなかった。
聖女の母として正教会で手厚く保護されたけれど、精神を病んですぐに自殺した。
おっさん自身は、聖女の父親であることを利用して出世し、とうとう隣国の聖教支部の神殿を任されるようになった。
昔とは全く違う贅沢な暮らし。
自分を裏切ったと思われる妻と、その結果生まれたと思われる娘と引き換えに得たその立場は、おっさんにとってとても甘美だった。
そんな折、聖女が逃げ出したと言う知らせを受ける。
本国は大騒ぎ。
誰が責任を取るのか、1人や2人の首で済む話しではない。
それどころか、もし万が一聖女が死んでたりしたら、神殿に当時居た者全てが粛清されかねない事態だ。
ならば、聖女を今のうち自分で消してしまえば……?
そう考えたおっさんはすぐに調査を開始した。
通常の移動経路は全て空振り。
数少ない目撃情報によれば、ミュルクの森の方に向かった可能性が高いとわかり調べると、数日前にミュルクの森がピュグマリオン男爵の領地となっており、男爵本人が調査に向かったということが分かった。
しかも、調査に向かったはずの男爵が、今日既に王都に戻ってきて王に謁見したらしい。
これは何かあるとアタリを付けて、部下を引き連れてやってきたんだそうだ。
「そんな正直に話しちゃっていいのか?かなり危ない事言ってるぞ?」
「まあ、良くは無いですが、生きるためなら仕方がありませんから。」
「生きるため?」
「……男爵、私が聖女の話をした辺りから、私の事を殺そうかどうしようか迷っていたでしょう?必要かどうかというより、私の事を殺してしまいたいと思っていそうな雰囲気がピリピリと感じられましたよ。」
殺気と言うものがどういった物かはわからない。
具体的にコレと言えるような説明はできないし、放ち方もわからない。
だけれど、少なくとも神殿長は、俺から殺気のようなものを感じ取っていたようだ。
大正解!
娘を売るような親はぶっ殺した方がいいと思ってる!
「私の怒りも、憎しみも、この恐怖の前では無意味と理解してしまいました……。今私にできることは、男爵が気まぐれで私を見逃してくれるよう願うだけです……。」
多分だけれど、ルシファーが神気とやらを使って俺に威嚇してきたときのように、俺も何かそれに近い事が出来ているんじゃないかと思う。
ナナセ曰く、俺の位階とやらはすごく高いそうだから、大して位階上げもしていない神殿長には怒った俺が物凄く怖かったんじゃなかろうか。
未だに位階だのなんだのよくわからんけど、平和的に解決できるならそれに越した事は無い。
「懲りたなら大人しくしているんだな。別に奥さんの事を信じてやれなんて言わないけど、娘は何も悪くないんだから、放っておいてやれよ。」
「……何故かはわかりませんが、頭の中から悪い物が抜けたように穏やかな気持ちです。アレだけあった妻や娘への負の感情が、どうでも良くなってしまって……。何故、あそこまで頑なに妻を信じなかったのか……。娘を愛してやれなかったのか……。」
そう、本当に憑き物が落ちたように項垂れるおっさん。
「神様から思考誘導でも受けてたのかもな。それが恐怖で解けたとか。まあ、俺にはわからんけど。ただ、女と違って男は生まれてきた子供が自分の子かどうか確実に確認する方法は少ない。不安を持つのは当然だろう。いずれにせよ終わったことだ。アンタはパフェを食って、神殿に戻って、真面目に仕事をしながら余生を過ごせばいいんじゃないか?」
前に、アフロディーテ様に思考を誘導され、訳も分からない程に煩悩に支配されてしまったことがある。
もしかしたら、このおっさんの激情もそれに近い物だったのかもしれない。
神様たちの玩具にされた被害者か、もしくはただのネトラレ不適合者か。
今それを考えた所で答えは出なさそうだ。
どっちにせよ、このおっさんがやって来たことは無くならないし、後悔しても死んだ妻は喜ばないだろう。
いや、この世界だと本当に地獄とか天国がありそうだから、実は夫のこのげっそりした姿に喜んでるかもしれんが……。
何より、この話題に興味が無くなりつつある俺。
良い匂いがしてきて、お腹が減ってきた。
「お待たせしましたー!フルーツジャンボパフェでございまーす!」
店員によって、神殿長の前にドンッと置かれるバケツ。
目を見開き、本日2度目の本気ビックリ顔になるおっさん。
とりあえずこれでも食って、後は真面目に生きるんだな!
俺はもう甘い物なんて食ってられんから、サンドイッチを楽しむことにするよ!
「お待たせしましたー!日替わりのビッグ小倉ホイップクリームサンドとホットイチゴスパゲッティセットでございまーす!ご注文は以上ですねー!?」
あれ?
ここって名古屋?
胃袋からの逆流を警戒しつつ、当初とは人が変わったように逆流しているおっさんと別れたのは、そこから数時間後の事だった。




