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~ 勇者が目覚める1時間ほど前 ~
朝一で女の子助けるために魔獣の群れと戦い、倒した魔獣から魔石取り出してたら朝食タイミング逃したダロスですおはよう。
他の面々には、適当にレトルトとかインスタントの物を食べておくように言っておいた。
カッコつけて魔物の解体は俺に任せておけ!なんてキャンプテンションで言っちゃったもんだから、53頭ものアホみたいにデカい魔獣の心臓開くのにえらい時間がかかった。
「大丈夫なんですか?いっぱいいましたよ……?」
とローラに心配されたときに歯をキラっとさせながら大丈夫!って答えてしまった俺はバカだったと思う。
とはいえ、腹ペコ状態のドラゴンに解体させると作業が雑になるし、腹ペコ天使たちはブーブー文句言いだすし、ローラ相手にはカッコつけたかったんだからしょうがない。
いくらになんのかなぁこの魔石。
見たこと無い魔獣だったから相場がさっぱりわからん。
ぶっちゃけ捨ておいても良いかなとも思ったんだけど、貧乏性というかなんというか……。
流石に毛皮等は諦めた。
そもそもなんかよくわからないヌルヌルがついてて使い物にならなそう。
案外こういうのが殺菌作用が強力だったりして新薬の材料になることもあるらしいけど、だとしても今持ち帰る気にはならんな。
面倒だし。
というわけで、俺は俺で朝ごはんにします!
気分的にはカップ麺の気分かな、と思い倉庫を調べていると、普段は全く食べたくないのに、たまに無性に食べたくなるものがあった。
そう!カップ焼きそばである!
正直味は好きではない。
普通の焼きそばの方が断然好きだ。
でも、本当にたまーに食べたくなるだけ。
それが今!
ただ、大抵途中で味に飽きが来るので、マヨネーズとかで味変をするのが俺流。
因みに、カップ焼きそばはこの世界で再現した最初のカップ麺だ。
何故なら具も入ってなくて作りやすそうだったから。
にも拘らずソースがあんなに作るの大変だとは思わなかったなぁ……。
麺も丁度いい硬さになるまでの時間をうまく調整できなくてなぁ……。
そんな事をお湯捨てながら考える。
そしてソースとかやくを投入。
ハコフグの中に広がる香しい香り。
多分他の人にとっては迷惑なので換気するのがお勧め。
ルシファーがジトーっと睨んできてるし。
スルーズは横から食おうと狙ってる。
さあ食べようと思った所で、修道服の女の子が目覚めた。
「……ここは……?」
「おっと、聖女様の方が先に目が覚めたか。案外タフだな。」
本人には言わないほうが良いだろうけど、ちょっと色々ヤベー状態になってたんだよなぁ。
こう……骨が……。
まあ完全に治したと自負しておりますが。
「貴方は?」
「俺はダロス。この森の調査に来た苦労人。早朝からドカンドカン音がするから確認しにきたらキミらが追われてて、危なく魔物に食べられそうになってたから助けた。そこまではわかる?」
「成程……。貴方があの変なゴーレムを操っていた方なのですね?」
「ゴーレム?変って……まあいいけど。そうなるね。んでキミも今そのゴーレムに乗ってる訳だ。」
「ここがそうなのですか?随分不思議な造りですね……。」
そう言って、聖女様はハコフグの中を見渡す。
この状況で取り乱さない辺り肝が据わってるな。
囚われのヒロイン感は無い。
「もう1人の女の子もそっちに寝てるよ。2人ともケガは治してあるから安心してくれ。魔力切れで寝ちゃってたけども。」
「……すばらしい回復魔法の使い手がいらっしゃるんですね。もしや、この国の聖女がここに?」
「この国の?」
「失礼、私は真聖ゼウス教皇国で聖女をしておりますマルタと申します。」
あの面倒そうな国で聖女さんなさってるんですか。
面倒な方でしょうか?
「あ、違いました!」
「え?」
「逃げ出したのでもう聖女ではありません!」
「ああそう……。」
サバサバしてそうなのに面倒な臭いがする。
どうしよう、王様に押し付けっかな?
俺が対応を考えていると、マルタがくんくんと部屋の匂いを嗅ぎ始めた。
ソース臭かったか?
「何やら嗅いだことのない美味しそうな匂いがしますね……。」
そう言ってお腹をぐぅと鳴らす。
かなり空腹なようだ。
しかたない、俺が作った分だけど譲ってやるか……。
「カップ焼きそばと言って、お湯だけで簡単に作れる保存食なんだけど、食べてみるか?」
「良いのですか!?いただきます!」
言うが早いか、俺の手から容器を奪い去る。
しかし、箸の使い方はわからないのか間誤付いていたためフォークを渡す。
麺類をズルズル食べるのが苦手な外国人も結構いるらしいとは聞いていたけど、このマルタって子は該当しないらしく、ズルズルと食べ始めた。
「どう?おいしい?」
味の感想を聞いてみたけど、何故か反応が無い。
無視されているというより、固まっている感じ。
どうしたんだろうと思っていると、ポロポロと泣きだした。
「こんなにちゃんと味がついてる物初めて食べましたぁ……!しかもおいしいぃ……!」
甚く気に入ったらしい。
彼女曰く、出身はすごい田舎の農家で、食事といえばジャガイモ。
大した味もついてないそれを食べて育った。
たまに手に入るお肉なんてもうご馳走だったけれど、やっぱり味は薄い。
そしてジョブを授かってからすぐに聖教会に引き取られたマルタだったが、そこでは更に芋尽くしだったそうだ。
しかもやっぱり味が薄い。
普通のジャガイモのペースト、緑色の何かが練り込まれてるけど特に味は無いジャガイモのペースト、ニンジンが練り込まれてるけどほんのり甘いだけのジャガイモのペースト。
3食そんなんだったらしい。
清貧がどうとか言う理屈だけど、そんなものクソ食らえと思っていたそうだ。
何より、自分を利用して偉くなっていく周りの幹部たちは、酒に肉にと贅の限りを尽くしていたのも彼女を苛立たせていた。
そんな折、たまたま勇者と意気投合し、今がチャンスだと逃げ出して、追っ手を撒くために森に入って丸一日走って至る現在。
「……って言う事があったんです。(ズルズル」
「思い切りいいなぁ……。」
因みに、話の間におかわりを要求されたため、自分の分も合わせて2つ作っている所です。
調味料を入れ終わるとすぐに容器を持って食べ始める辺り、よっぽど気に入ったらしい。
ただ、俺はといえばさっきからソースの匂いになれちゃって、もう最初から味変したくなってしまっている。
いけ!マヨネーズ!
あぁ……ソースの複雑な味わいをマヨが優しく包み込んで……、これは……。
「まあまあだな。月1でいい感じ。」
「……。」
視線を感じる。
聖女様が、俺のマヨ焼きそばを凝視していた。
「……食べるか?」
「いただきます!」
躊躇も何もない。
奪い取られるまでノータイム。
「なんですかこれぇ!?こってりしてるのにまろやかで、さっぱりさもあって……!」
そう言って、マヨネーズの容器まで持っていかれた。
マヨネーズも気に入ったようだ。
聖女の健康が心配。
俺の方は実際には殆ど食べてないけど、ソースの匂いでお腹いっぱいになってきたため、キンキンに冷えたコーラで誤魔化してしまう事にした。
因みに容器はガラス瓶。
何故かはわからないけど、ペットボトルより美味しく感じるからだ。
蓋を開けると気圧差でシュワーと弾ける炭酸!
そして慣れないとクスリ臭いだけの香り!
さあ飲むか!
「……。」
視線を感じる。
聖女様が、コーラのビンを凝視していた。
「……飲むk」
「いただきます!」
やっぱり躊躇も何もない。
奪い取られるまでノータイムどころかマイナスタイム。
「ああああ~!あまいですねぇ!シビシビするこれは何なのでしょうかぁ……。変な匂いなのにやめられない……!」
コーラも気に入ったようだ。
大丈夫?
今日だけで俺凄い悪い事を聖女様に教えてない?
罪悪感がすごいんだけど……。
「おいしい!おいしいです……!」
そうつぶやきながら泣き笑いしてる聖女様を前に、もう食べんなと制止する覚悟は俺になかった。
できる事といえば、4個目のカップ焼きそばを作る事だけ……。
「ってことがあったんよ。」
「アンタ聖女様になんて事してくれてんの!?」
「食事させただけだよ……。ちょっとジャンクな……。」




