54:
トンネルボーリングマシン、通称TBM。
簡単に説明すると、トンネルを掘る機械だ。
そしてデカい。とてもデカい。
あと物凄く高価な機械。
量産されないから、当然1台1台がべらぼーな値段だ。
基本的に大きなトンネル工事の際にオーダーメイドされて、最後は使い捨てされる悲しい奴でもある。
長いトンネルの場合は、始点と終点から同時に2台で掘り進め、途中でぶつかる前に片側を埋めてしまう。
後ろ向きに外に運び出す方がコストがかかるんだとか。
だから、未だにドーバー海峡に通されたトンネルの途中にはTBMが埋まってるはずだ。
「というわけで!作った!」
「これで何するんですの?」
「トンネルを掘る!」
「拳じゃダメなんですの?」
ダメだよ。
仕組みは案外簡単だ。
先端のドリルで穴を掘って、出てきた土砂を機体後ろに送り出しながら圧縮しブロック化。
それと並行してタンクに積んだ神粘土をトンネル壁面に盛りながら硬質化し、トンネルが崩落しないようにする。
神粘土を事前に吹き付ければ、ミスリルやオリハルコンクラスの頑丈さで固まる性質にしておけば、俺がわざわざ人形生成で固めていく必要もない。
壁を硬質化できたら、土砂ブロックで歩行者用の通路を作りつつ、神粘土製オリハルコン等でレールを作る。
このレールに後で何か乗り物を乗っけよう。
後付けでリニアモーターカーにしても良いし、ただの高速鉄道でもいい。
つまるところ、乗り物を置くこと以外はこのTBM1台でトンネルを作れるようになっている。
ファンタジー要素満載で作ったから、硬い岩盤の中でも1時間に1kmは進めるぞ!
壁の中にも排水用の機構も組み込んでおけば、地下水が侵入して来ても大丈夫だろう。
因みになんだけど、ドリルはよくロボットについている円錐状の物では無くて、すごく硬い突起が沢山ついた円柱状だ。
円錐状のドリルは、現実だと案外活躍する機会は無い。
悲しい話だけれど……。
「これで、王都にある俺たちの家の地下50mまで自動的に掘り進んでくれる。」
「なんでそんなに深い所なんですの?」
「地下20mくらいまでは下水が流れてる上に、地下30mくらいまではなんかよくわからない遺跡だらけなんだよね王都の地下って。」
これは、トンネルを掘ろうと決めた段階でした調査で判明した。
上水道はそこまで発達していないのに、下水道だけはやけにしっかりとした造りで張り巡らされていた。
ただ、この下水もどうやら遺跡の一部らしくて、いつ作られたのかわかっておらず、メンテナンス等も最低限しか行われていないらしい。
ゴミが溜まっていないかと、魔物が住み着いていないかをたまに冒険者に依頼して見回る程度だそうだ。
冷静に考えると、とんでもない物の上に住んでいたなと思うけれど、この世界の人々にとっては当たり前の事なので疑問にも思わないらしい。
ともかく、そんなものが密集している深度を掘り進むわけにもいかないので、安全に掘り進められそうな地下50mまで下がった。
もっとも、本体のTBMで掘る前に、100m程先まであらかじめ実験的に掘って、前方の空間が危険じゃないかを調査する小型のTBMも作ってあるから、万が一変な遺跡があってもそうそう大事にはならないと思うんだけども。
「じゃあここからは自動で進むはずだし、一旦帰ろうか。」
「晩ご飯の時間ですわ!」
別に大急ぎで作業を完了しなければならない訳でもないため、今回の隠れ家製作メンバーには、夕食の時間までに帰るように言ってある。
エクレア飯を食いに戻らねば。
「っと、その前に冒険者ギルド寄ってから帰ろう。モンスターの素材いっぱいあるし、なんてモンスターだったのかのデータも欲しい。」
「わかりましたわ!じゃあ私は、退屈なので先に帰っていますわね!」
「ダメだ。絶対何かやらかすから一緒に行動するぞ。」
「あんまりですわ……。」
実際お前さっき敵の包囲のなかで棒立ちする事態になってたじゃねぇか。
どんだけ心配したと思ってんだ。
「……町の屋台で何かこっそり買って軽く食べてくか?」
「行きますわ!」
そして現在王都の冒険者ギルドの前にいる我々です。
お団子みたいな切りたんぽみたいな不思議な甘いネットりした串焼きを1本食べておりますダロスです。
隣では、ドラゴンが満面の笑みで同じものを20本平らげた所です。
最近ご無沙汰だったギルドの建物に入る。
受付には、いつも通りビジュアル面が考慮されたと思われる美女たちばかりが並んでいて、ついついそちらに行きたくなるけれど、今日に関しては我慢せざるを得ない。
俺が用があるのは、残念ながらモヒカンのおっさんだ。
モヒカンだけどギルド長、ティモテさんだ。
相変わらず世紀末な感じで職務をこなしているみたいだけど、何かの重さを測る様がどう見てもヤクの売人だ。
「おや?これはこれは!お久しぶりですねダロス様!」
「何か月ぶりかなぁ……。相変わらずモヒカンなんですね。」
「頭頂部さえ禿げなければ続けられますからね。」
頭頂部が禿げたらどんな髪型になるんだろうこの人……。
「今日は、魔獣の素材買取と、その魔獣の情報が欲しくて来たんですよ。」
「ということは、この前の魔猪とはまた違う物を持ち込まれたのですか?」
「牛みたいにデカいアリと、熊よりでかいオオカミなんですけどね。」
「……因みに、どの辺りで狩りましたか?」
「王都からメーティス方面に向かって徒歩で1日もかからない場所です。」
そこまで説明すると、モヒカンが考え込み始めた。
およそモヒカンの人がやらなそうなモーションだ。
とりあえず確認したいという事で、ギルドの前に止めてある多脚型キャリアー『ハコフグ』へと案内する。
ドラゴンのフルパワーパンチでもギリギリ1激耐える強度を誇るナイスガイだ。
2発目は耐えられなかった。
「これは……。恐らくですが、トールアントの女王とゴルブラックウルフですね。ただ、これが群れていたとなると……。」
「アリは洞窟の中から一気にワラワラ出てきましたし、オオカミは30頭くらいに囲まれたのでもっといっぱいいましたね。」
ハコフグに入りきらなかったので、今ここにはそれぞれ5頭ずつしか持ってきていない。
「どちらの魔獣も本来群れのリーダーになるような存在なんです。ですから、それが最低30頭もいたのであれば、何か異常事態が進行しているのかもしれません!」
「まあ、見つけたのは全部倒したんですけどね。」
「それで終わってくれればありがたいのですが……。」
女王アリがワラワラ出てくるって、巣立ちの季節だったんだろうか。
田舎の自販機が真っ黒になったりするあの不快な現象は魔獣にも共通するものなかはわからんけど。
でも、羽はついてなかったから普通にあそこで暮らしてたんだと思うんだよなぁ。
狼は知らん。
熊よりデカい時点で、やつらが普段何を食べてどうやって狩りしてるのかすらわからん。
餌足りてる?
まあいいや。
とりあえず名前さえわかれば識別データとして登録できるし。
「ところで、これが一番重要な問題なんですけど……。」
「……なんでしょう?」
「この魔獣たちは食べられる?」
「食べたって話は聞きませんねぇ……。」
持ってきた理由の半分は無駄になったな……。
アリと狼は、中々のお値段になった。
肉は食用にならないけど、研究材料という事で買い取ってもらえるらしい。
毛皮や甲殻は、良質な武具等の素材になるそうだ。
神粘土から作り上げる俺には無用の長物だけど、モンスターの素材から作り上げた武装でモンスターと戦うのは正直興奮する。
いっぱいやったなぁ……。
授業中に先生の目を盗んで集会所立てたら、即4人の全く知らないメンバーが集まってたもんなぁ……。
今回は口座に振り込みではなく、全て現金で受け取った。
これを各隠れ家に置いておけば、万が一逃げ込んだ時の逃亡資金にできるだろう。
この世界には、クレジットカードも電子マネーも無いから、有事の備えには現金か換金可能な物を用意するしかないんだ。
ただ、宝石や金塊は、大きい街じゃないと換金できないことが多いし、ぼったくられる危険もあるけども。
確か、金貨は周辺国でもある程度共通で使えているはずなので、金貨を中心に置いておこう。
「この金貨1枚で、さっきの串焼き何本買えるんですの?」
「あそこの在庫全部買えるんじゃないか?」
「……。」
おい、さっきアレだけ食べておいてまた腹鳴ってるぞ?
晩飯まで我慢しろ。
家に帰ると、玄関でヒルデたち3姉妹が喧嘩をしていた。
喧嘩と言っても、この3人の場合は頭の中で会話しているから、目線と表情くらいしか普段との違いが無いんだけど。
多分大したことではないと思うので、これをスルーする。
「「「おかえりなさいませ主様、それでどう思いますか?」」」
「はいただいま。あと、わかんねぇよ。」
「「「2人とも我儘ばっかり言って何も決まらないんです。」」」
「そっか……。」
改めてスルーする。
居間までくると、俺たち以外のメンバーは既に帰って来ていたようで勢揃いしていた。
妊婦たち4人は、あまり激しい動きを伴う事はやらせてもらえないので、エクレアさんに教わって編み物をすることにしたようだ。
生れてくる子供のために何かを作ってあげたいらしい。
ガラテアだけは、プラモとどっちを作るかで悩んでいるようだったけれど……。
母親になる女の子たちの作業を幸せな気持ちで眺めていたら、姫様が自室から出てきてすぐに話しかけてきた。
表情からして、メンドクサイことな気がする。
「帰ったかダロス。夕食の後でいいんじゃが、少々頼みがあってのう……。」
「何?難しい事?」
「難しい……といえば難しいんじゃろうが、おぬしなら恐らく可能ではあるのう。ただ……うーむ……。」
姫様がここまで言い淀むなんてそうそうないんだけど……。
何の厄ネタ持ち込んだの……?
「実はな、人形を一体作ってほしいんじゃよ。」
「人形?どんな?」
「ディオーネーさまの依り代をじゃな……。」
「神案件かよ……。ん?なんか今しばらくぶりの感覚が……。」
ジョブレベルが上がった感覚。
もう頭打ちかと思ってたけど、まだ上がるようだ。
確認してみるか。
―――――――――――――――――――――――――――――
神人形師:レベル8
解放スキル:人形生成、人形操作、人形強化、神粘土、魂付与、遠隔操作、複数操作、神魂支配、ディオーネー
―――――――――――――――――――――――――――――
神魂支配というスキルは、神様の魂でも支配し、人形に付与すると勝手に抜け出せなくなるスキルらしい。
ディオーネーというスキルは、ディオーネーの分け御霊を召喚できるらしい。
「ねぇ姫様、ディオーネー様って結構強引な方?」
「そうじゃのう、うちの第3王子に魅了の力を与えて使徒にするような方じゃからのう……。」
「そういやその件の落とし前つけてなかったな。よし、顕現したら一発殴ろう。」
神がなんぼのもんじゃい。




