表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けの人形師  作者: 六轟
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/110

52:

 朝、いつもの時間に目覚めるダロスですおはようございます。


 前世だと、朝寝坊しようとしたらいくらでもできたのに、こちらの世界に来てからは、ある程度決まった時間に目が覚めるようになってしまった。

 特別規則正しい生活をしているわけでもないんだけど、インターネットもテレビも無いこの世界の人々は、そもそもあまり夜更かしをしないらしく、自然と健康的な生活を送るようになってしまう。

 前世を知っている俺ですら、夜遅くまで起きているとしたら、それはアレやコレをしている時くらいだ。

 そう言う事をした翌日でも、ちゃんといつも通りの時間に目覚めるんだから、もうこれは習性と言ってもいいかもしれない。


「おはようございます。」


 隣から、奇麗な声で挨拶される。

 朝の光に金髪を照らされながら微笑むイレーヌは、女神にも匹敵する美しさに見えてしまう。

 世の中には、こんな娘を泣かせるようなカスもいるらしい。

 許せないな。


「おはよう。昨日寝たのちょっと遅かったけど、よく眠れた?」

「はい。あなたが隣にいるというだけで、とてもよく眠れるんですよ私。」


 そんな事を言われて嬉しくない男がいるだろうか?

 いや、いない。


「サロメは……うん、まだぐっすり寝てるな。」

「そうですね。赤ちゃんみたいにあなたに抱き着いて……。」

「これされると、こっちもすごく気持ちよく寝れるんだよね。」


 大きな胸を押し付けられて、互いの体温を交換するような寝方を好むサロメ。

 寝ている間も、俺という存在を感じていたいとでもいうかのような姿に、自然と愛しさが込み上げてくる。


「今日は、宣言通り昼までベッドの上にいるから。」

「はい。最近、ダロス様を独り占めできる機会がまずなかったので、今だけは独占させてくださいね?」

「寝ながら抱きしめられている部分以外はね。」

「それで良いです。ですが、折角なので私も抱き着きます!」


 2人の美女に両側から抱き着かれて、このまままた寝てしまいたい気持ちにもなるけれど、折角なのでイレーヌと話をする。

 思えば、2人だけで話すという事があまりなかった。

 俺の専属メイドを自称するサロメがいつも傍にいたから、彼女とこうしてサシで話すのは本当に貴重な機会だ。


 俺が、ダロスとしてこの世界に来てすぐ、イレーヌを泣かせて逃げ去ってからの事。

 俺が、メーティスに行っている間の事。

 お腹が大きくなり、徐々に中の赤ちゃんが動くようになってきたことなど、話し出せば色々と話題はあるものだ。

 そして、最後に俺の前世の話題になっていた。


「ダロス様が生きていた前の世界というのは、どのような場所だったのですか?」

「うーん……。とりあえず、魔法とか魔術なんてものは、空想の世界にしかなかったなぁ。」

「そうなんですか?では、人々はどのようにして生活を?」


 まあ、今のこの世界は、俺からすれば超常の力を前提に成り立ってるから、それが無い世界というのは中々想像できないだろう。


「それらとは別に、科学とか化学ってものがあったんだ。機械とか、それを使って作り出したもので生活してたんだよ。」

「あなたが作り出す大きな人形のようなものですか?」

「それはまた別かな。アレは、魔法とかと一緒でファンタジーの世界の代物。アレをもっと単純化して、日々の生活に使えるようにしたものが多かったよ。中には、建物より大きい機械もあったけどね。世界中で情報を共有できたり、空に機械を打ち上げて、さらにその先の宇宙を見れるようにしたりさ。」

「宇宙……?」

「あ、この世界と同じかわからないけどさ、空の上は殆ど何もない真っ暗闇の世界で、そこに自分たちがいる星や、それとは別の星が浮かんでて……。」


 イレーヌは、すごく頭が良い。

 俺が説明した前世の情報を自分の頭の中で整理し、更にそれを発展させた上で俺に質問もしてくる。

 だから、俺としても説明しやすく、話に熱中しているといつの間にかもうすぐ昼食という時間になってしまっていた。


 結局、サロメは俺が起こすまで起きなかった。

 寝顔が可愛いので、起こさずにこのままにしておくか5分程悩んだのは秘密だ。





「隠れ家を作ろうと思ってるんだよね。」


 昼食時、俺は唐突に切り出した。

 前々から考えてはいたけれど、やはりこの世界は危険がいっぱいだ。

 いざという時に隠れる事ができる場所を作っておくのが良いと思う。


「どのような物をイメージしているのですか?」


 最近、俺が何かを唐突に決めた時のイレーヌちゃんの対応がすごく早い。

 周りのみんなが「は?」って思ってるタイミングで、即内容確認をしてくれる。

 好き。


「この屋敷の地下からトンネルを掘って、直接向かえるようにしたいな。トンネルの中は、徒歩でも移動できるようにはするけれど、やっぱり乗り物はあった方がいいよな。隠れ家の中には、しばらく生活できる程度の保存食と燃料。あとは、登録した者なら動かせる人形を何体か置いておきたいな。管理人の人形もいた方が安心だけど、最悪単独でずっと過ごすことになるから寂しいかもなぁ。これは、要検討。後は、国外に逃亡しないといけない可能性もあるから、金目のものも置いておきたいな。宝石とか金とか……この世界で手軽に換金できるものが望ましいだろうな。あと」

「成程、わかりました。」


 喋りすぎたのか、途中で止められてしまった。

 だってだって!秘密基地考えるみたいで楽しいんだもん!


「設備等は後から考えるとして、先に場所を決めるべきですね。」

「案は、3つくらいあるんだよ。少し距離があるけど隠密性重視の公爵邸の裏にある森の中か、近くて便利な王都の中か、更に遠くに逃げるためにメーティスに向かう鉄道の途中か。」

「全部に作れば宜しいのではないですか?」

「そうだね!」


 よし!これで大手を振って秘密基地を作れるぞ!

 いやぁ!小学生の時に近所の空き地に作ったツリーハウスもどきを思い出すなぁ!

 橋の下とかで見つけたエッチな本とか持ち込んだんだよなぁ!

 今思うと、なんであんな汚いもんを後生大事にしてたんだか……。


「なんなら、王城の中からも繋げておくのはどうじゃ?おぬしが許可した者しか使えないという仕組みが作れるのなら、扉もそうしておけば、城で何か起きた時に安全に逃げ出せるじゃろう?」

「それいいね。とてもワクワクする。」

「ワクワクの基準がわからんのう……。」


 姫様は、まだまだ男心がわかってないな。

 こればっかりは、実際に体験してみないとわからんと思うけどもさ。

 だってよ、お城から秘密の抜け道を使って自分の家まで来れるんだよ?

 作っていいなら作るよそりゃ。


「ジブンは、保存食をいっぱい用意しておきたいっスね。敵から逃げる時もそうっスけど、万が一飢饉でも発生したときなんかのための非常食にするのもいいと思うっス。」

「……寝具は、あまり使わないにしても上等なのが良い。」

「ディはねぇ、服をいっぱい用意しておくべきだと思う!変装にも使えるし!」

「気候が違う場所に逃げる場合も便利ですしね。できれば、主様のために競泳水着とメイド服を人数分確保したい所です。」

「それ、私とエリンの分も用意してもらってもいいでしょうか?」

「何言ってるのお母さん!?」

「「「私たちは、主様の血さえ頂けるのであれば非常食は必要ありません。血さえ頂けるなら。」」」

「修練場が欲しいですわ!」


 うんうん!皆ノって来たな!

 好きかって言いやがって!

 いいぞいいぞ!もっと好き勝手言ってくれ!


「サロメは、何か希望はあるか?」

「そうですね……。これは、隠れ家とはまた違うかもしれませんが、ダロス様と常に連絡しあえる機械が欲しいです……。」

「わかった。作ろう。今すぐ作ろう。」

「はい!」


 通信機は、前に姫様用に作った小型の人形につけてたけど、もっと便利なものがあった方がいいとは常々思っていた。

 だからいつかは作ろうと思ってたけど、そんなふうに普段我儘をあまり言わない女の子におねだりされたら作りたくなっちゃうよね?

 しかも、OKだしたら花が咲いたような素敵な笑顔になるんだよ?

 たとえ相手が、今からお前に詐欺を仕掛けますって事前に宣言してたとしても、変な壺とか絵画を買っちゃうレベルで俺にクリティカルヒット。

 そしてできたのはこれです!


「通信バングル~!」

「なんでガラガラ声で叫んだんスか?」

「お約束だよ。」


 最初は、スマートフォンみたいなのをイメージしたんだけどさ、俺はともかくこの世界の住人には馴染みがないだろうし、インターネットに繋げられるわけでもないからなぁ。

 というわけで、音声通信に限定して使うなら形は何でもいいなと考え、腕輪型にしました。

 以前ナナセに贈った首輪を参考に、手首にジャストフィットするようにできる機能を搭載。

 通信が来ると青色のランプが光って、それをリアルタイムで受け取れなかった場合は、留守電に保存されて赤ランプが光る。

 通信相手を選択するには、事前に互いのバングルを接触させておくか、他の人のデータを移す必要がある。

 まあ、今ここで作り出したのは、全部既に接触させたため問題ないけども。


「ありがとうございます!」


 サロメがルンルン気分になっている。

 中々貴重なシーンだ。

 他の面々も、とても気に入ってくれたみたいで、早速互いに通信しているようだ。

 見た目が幼い者も多いので、糸電話で遊ぶ子供たちみたいな光景になっているけれど。


「これ、ひょっとしてとてもすごい技術なのでは?」

「戦で使えば、革命的な技術じゃな……。」


 そんな中、実利的な事を話しあう才女2人。

 流石貴族の娘とお姫様、着眼点が違うね。

 前姫様に渡した人形は、2つの人形間でしか通信できなかったしね。

 APLとかには、もっとしっかりした通信機つけてるけど、こんな手軽に持ち運べるもんでもないし、そりゃ貴族たち戦いに赴く者たちにとっては喉から手が出るほど欲しいだろう。


 一応、サロメは元貴族だし、俺も現在進行形で貴族なんだけど、なかなかその自覚が育たないんだよなぁ……。

 掘っ立て小屋育ちと一般庶民ソウルだから……。


 そう思っていると、俺の腕輪のランプが光った。

 最初に俺に通信してきたのは誰だ?

 よきにはからえ。


「もしもし?」

『えっと、サロメです。』

「はいこんにちは。」

『こんにちは。……初めて連絡するのは、ダロス様が良いなと思って……。』


 結婚しよう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ