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機械仕掛けの人形師  作者: 六轟
第2章

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33/110

33:

 学園都市メーティスなんて厄介ごとの塊っぽい街についた翌日の朝、俺はとても清々しい気持ちで目が覚めた。

 全ての呪いを浄化されたような、全ての欲望も消え去ったような、そんな気分だ。


「目が覚めたっスか?」


 すぐ横からナナセの声が聞こえる。

 見てみると、こちらに背中を向けて俺と一緒の布団に入っていた。


「おはよう。」

「おやようございまス。」

「……しちゃったなぁ。」

「そうっスね……。」


 やっちゃったなぁ……。


「……最高だった。」

「そう言う事は言わないで良いっス!」

「何でこっち見てくれないんだ?」

「恥ずかしいからに決まってるじゃないっスか!」

「幸せにするから。」

「…………そう言う事なら、まあ、言ってもいいっス……。」


 これも非童貞の余裕よ。この前捨てたばっかりだけども!

 別にこういうことが無くても、一生面倒は見るつもりだったけれどさ。

 責任はとるぞ。


 余韻に浸りたくてゆっくりしたせいで、あまり朝食をゆっくり作っている時間的余裕が無かったため、ざざっと手軽な物を作って食べる事にする。


「そういえば、ホイップクリームの用意を全く考えてなかったな。」

「あー、アレは……その……こっちにいる間は無くてもいいっスよ?」

「なんでだ?別に我慢する必要ないぞ?」

「いや……だって……唾液とか、アレとか、摂取したら十分っスから……。」

「……そっすか。」


 そっすか……。



 前もって準備されていた制服に着替える。

 ナナセは、チェックのスカートと紺のとブレザーだ。

 普通の制服だけれど、ナナセが着るとランクが3つは上の服に見える。

 因みに俺は、教師としても仕事をすることになるらしいが、生徒でもあるので、これまたチェックのパンツと紺のブレザーだ。

 ナナセの隣に立つと、ビジュアルの差に愕然としてしまう。

 ダロス君のビジュアルはそこまで悪くない筈なんだけど、ナナセが良すぎるんだ。


「何変な顔してるんスか?」

「いや、ナナセが奇麗すぎて他の男に見せたくないなって葛藤してた。」

「……今日ずっとそんなノリでいくんスか?ジブンだって、主様の口をキスで塞ぐことくらいできるんすよ?」

「やっぱりみんなの前ではやめた方がいいかもな。」

「そうしてほしいっス。2人きりの時なら恥ずかしいけど嬉しいっス。」


 そっすか。照れてるナナセは可愛いっす。



「おぬし、一国の王女を待たせるなどいい度胸じゃのう?」

「え?待ってたのか?何の約束もしてないと思うんだけど?」

「じゃから、この学園に妾が信用できる存在なんていないんじゃから、一緒に行動してほしいに決まっとるじゃろ!」


 清々しいほどのぼっちが、今日から俺が通う学園の前で待っていた。

 まあ実際問題、自分の一番安心できる場所であるはずの自室で寝てたら、鎧姿の男たちに誘拐された経験があれば、そんな考えになるのも無理はないけど。


「必要なら今度からこっちから迎えに行くぞ?流石に女の子を毎朝待たせるのも悪いし。」

「ほう?妾をただの女の子などと呼ぶとはの?では、明日からそのエスコート力を披露してもらおう!」


 構ってくれる相手見つけてめっちゃ嬉しそう。

 エスコート力ってなんだ?


「それとは別に、俺の小型人形を渡しておく。戦闘力は、精々そこらのチンピラ程度にしかないけど、小さくて不意打ちには便利だし、これを持っている間姫様の居場所が俺にわかる。あと、この鼻の所を押すと、対になってる俺の方の人形と通話ができる。」

「ほー、すごい便利じゃのう。情報は、早くて正確な事が何より重要だからのう。おまけにこれなら盗聴される心配も少なそうじゃのう。」

「すごい、よくわかってるじゃないか!情報戦は大切なんだよ!」

「う!?うむ…!何を喜んでおるのか知らんが、そうじゃな?」


 姫様最高だ。

 情報を制する者が世界を制す。

 これは、いつの世にも言える事だ。

 そして、俺の情報網はガバガバなので、なんとかもう少し情報通になりたいものだ。

 そう思っても、出てくるアイディアは10秒後に自動的に消滅するような情報メディアくらいなんだけども。

 あとは、情報戦特化型のロボットとか作りてぇなぁ!電磁波で通信する技術はこの世界に今の所なさそうだけど!

 一番頻繁に使われる高速通信手段は伝書鳩だってよ!


 姫様に連れられて職員室へと赴く。

 だが、教師は誰もいないようだ。

 近くで仕事をしていた事務員の女性に話を聞いてみた所、教師はそれぞれ自分の教室や研究室にいる事が多いらしい。

 よっぽど重要なお知らせを学校全体で行う必要でもない限り、ここで朝から一堂に会する事は無いようだ。

 これは、俺の前世の学校とはだいぶ違う考え方な気がする。


 それでも、一応俺の机もあるようなので、名札で確認してから卓上の書類を確認しておく。

 さて、予定表まで出来上がっているようだけれど、俺は今日から授業をすることになっているらしい。

 他の教師の授業風景を見て練習してからかと思ってたけど、何教えればいいんだろうか?


「姫様姫様、俺何をし得ればいいのかいまだに決まってないんだけど?」

「人形の作り方でも教えればよいのではないか?」

「……それは、アリだな!」


 この世界にモデラーを大量に生み出す?

 それは、確かに俺の趣味を活かして、尚且つ俺の求める世界を作り出す手助けになるかもしれない。

 考えたら、楽しみになってきた。


「ナナセは、明日からはわからないけど、とりあえず今日は俺とずっと一緒に居よう。」

「わかったっス!」

「姫様はどうする?一緒にいるならナナセに守らせるよ?」

「そうよのぉ……まあ仕方ない!一緒に過ごしてやろうぞ!」


 めっちゃ上から目線。王女様だしな。



 俺が今日から受け持つクラスは、E-51組という所らしい。

 まあクラスと言っても、生徒を管理しやすくするために朝と夕方に1度集めたり、その生徒の行いに対して担当教員に責任を取らせたりするための1集団ということらしいけども。

 だって、その後授業は皆バラバラになるし。

 年齢も身分も結構ばらつきがあるから、仲間意識のようなものもあまりないそうだ。

 この学園の生徒で最高齢は600歳を超えてるんだとか。

 種族?が違うらしいけれど、人種の違いで寿命にそこまで差が出るものなのか?


 クラスを受け持つのは、面倒な事が多い反面、自分の授業のPRをしやすかったり、生徒同士のコミュニティで自分の事を気に入った生徒が勝手に噂を広めてくれたりするので、新任教師にとっては1つの目指すべき地点となっているらしい。

 まあ、悪い噂で逆に作用することもあるだろうけども。


 俺が新任早々クラスを受け持つことになったのは、姫様のゴリ押し縁故採用という事になっている。

 風当たりが強そうですね?


 因みに、前任のE-51組の担任は、第3王子の魅了にやられていたとかでショックで辞めていったんだとか。

 なんでその先生が狙われたかというと、まあ多分このクラスに姫様が在籍していたからだろう。

 万が一の時姫様を人質にするというのは、割と最初から考えとしてはあったのかもしれない。

 死んでからも迷惑しかかけない奴だ。

 まあ、その尻拭いも兼ねて、俺がこんな所にぶち込まれてるのもあるのだろう。


 なんて事を姫様と雑談していたら、どうやら目的地である教室についたようだ。

 なんだろう……、横開きのドアに黒板消し的なものが挟んであるのが見える……。

 この世界にもあるのか黒板消し……。


「この教室の中の人間全員始末した方がいいんじゃないっスか?絶対ここに神の使徒とかいうのいるっスよ。」

「子供の悪戯だろ。犯人はお父さんお母さんの前で説教されて人生の黒歴史を作ることになるんだ。生暖かい目で見てやれ。」

「ナナセは中々過激じゃのう……。」


 見た目のわりに熱しやすくて可愛いでしょ?


 黒板消しに正面から挑んでやる必要もないので、後ろ側の入り口から入ってやる。

 こっちは鍵がかけてあったようだけど、ナナセが力を入れたらバキッと開けてしまった。

 中に入ると、生徒たちが化け物を見るような目でこっちをみている。

 とりあえず黒板の前まで進んでから、自己紹介をしておく。


「今日からこのクラスを受け持つことになったダロスだ。よろしく。本日の連絡事項は無いけど、そこに黒板消しを設置した奴を見かけた場合は髪を全部丸坊主にしてやるから覚悟しろ。質問があればどうぞ。」


 面倒だったので、言うべきことをさっさと言ってしまう。

 別にこのクソガキたちと仲良くする必要もない。

 教師である俺は、恐怖の対象であり、イジメなどにも屈さず立ち向かってくれる頼もしい存在でなければいけないのだ。

 だから、いい教師となるために俺は鬼になる!


「はい!」

「はいそこの金髪のヤンキー。」

「ヤンキーってのはわかんねーけど、俺だよな?先生は彼女はいますかー?」


 不良グループみたいな集団がゲハゲハ笑っている。

 こういうのもこの世界には存在するのか。


「嫁が2人いて、現在単身赴任中。あーナナセ……使用人扱いの娘と一緒だから単身ではないか?これでいいな?はい次!」


 金髪ヤンキーが俺の勢いに押されてびっくりしているようだ。

 こういう輩は最初にマウントを取ってやらなければずっと絡んでくる。

 上下関係は、出会って10分である程度完成してしまうのだ。

 身分とかとは別の部分でな。


「……はい!」

「はいそこのメガネが可愛い三つ編みの女の子!」

「………………それ……私で良いんですか?えっと、先生はどんな事を授業で教えてくれる先生なんですか?噂によると、教師になったのも今日からなんですよね?ということは、物凄く優秀な方とか?」

「優秀かどうかは俺が決める事ではなく、周りが決める事だ。キミがもし俺を優秀だと思ってくれたら嬉しいけれど、それはそれとしてキミ自身の目で確かめてほしい。教える事に関してだけど、まだそこまで決めていない。ただ、何を教えるにしても、この世界で他にはない内容になる。」

「世界唯一……ですか?よくそんなことを断言できますね……。わかりました。その言葉が嘘でない事を願っています。」

「授業聞きに来てくれるなら大歓迎だ。」


 そんな感じで質問タイムが続いた。

 この世界の生徒たちは、俺が経験したことのある前世と違って、かなり積極的に話すようだ。

 正直苦手な空気ではある。

 俺は、基本日陰に居たい人間だ。

 ご飯を食べるの誰も来ない立ち入り禁止の屋上前の踊り場とかがいい。


 まあでも、すごい教師感は出せたんじゃないかな!?

 どうかなナナセ!?


 なんて思って、教室の隅の席に座っているナナセを見てみると、笑いをこらえていた。何かおかしかったか?

 隣では、姫様がゲハゲハ笑っている。

 ヤンキーと同じ笑い方だぞ王女様。


 朝のホームルームが終わり、目的の授業を受けるため移動する生徒たち。

 逆に、新任の俺の授業がどんなものなのか興味本位で他の教室からやってくる生徒もいれば、そのまま残っててくれる生徒もいる。

 三つ編みメガネの娘もいるようだ。


「いやーしかし、めっちゃキリッっとした表情だったっスねー!」

「普段を知ってたらあんなもん笑わないとか無理じゃろう?なーにが『授業聞きに来てくれるなら大歓迎だ』じゃ!?可愛い女の子に来てほしいだけじゃろうに!」

「あー!さっき三つ編みの娘の胸に目が行ってたのはアウトっス!アレじゃただの変態教師っスよ!」

「まあそうじゃなー。そのあたり、ナナセが頑張って抑える事になってるんじゃろう?」

「……まあ、ハイっス。」


 隣がうるさい。

 俺の教師プレイは不評だったようだ。

 頑張らねば。


 とりあえず、今日の授業で使うつもりの人形をいくつか取り急ぎ作る。

 泣いてない。




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