近い過去と遠い今
中学校の卒業式――みんな泣いたり笑ったりしている中で、俺だけ常に無表情だった。
寄せ書きをすることもなく。第二ボタンが貰われることもなく。打ち上げに参加することもなく。
ただ粛々と式に参加して、証書を貰って、帰っただけ。
まあ、当然だ。秘めていた俺の過去がバレるや否や、俺には"死神"なんて奇妙なあだ名が付いたのだから。
コイツの近くにいると死ぬ。そんな尾ひれの付いた――とはいえ強ち嘘でもない――噂が広がり、いつしか俺に友達はいなくなった。
現に実の両親や義父母だけでなく、当時仲良くしてくれていた養護教諭の先生までこの世を去っている。
厳密に言えば、俺に深く関わった人物は皆、挙って他界している。
故に死神という名が付いた。だから卒業式も、引越しに関しても何も思わなかったし、思われもしなかった。
最近、俺は過去を受け止めきれずにいる。
俺と深く関わった人物は皆死んだ――頭では分かっているのに、自殺しようとも御払いに行こうともせずに、のうのうと生きている。
俺が居ては迷惑だ。分かっている。でも身体は俺の消滅を拒んでいる。きっとこれは生存本能というのだろう。
しかし、最早本能すら変えてしまいそうな過去だというのに、何故俺は正常な本能に従って生きているのだろうか。
こんな本能、なくてもいいというのに――
◇ ◇ ◇
「ここだ」
おじさんに声をかけられるまで、俺はボンヤリとしていた。
何だっけ。何を思い出して、何を考えていたんだっけ――中途半端に終わった気がして思い出せない。
「――」
とりあえず深水家に着いたというので、俺はトラックから降りる。おじさんはそのまま、ガレージにトラックを収納しに行った。
経過時間にして5分。相当広い高原だと聞いたが、単なるデマだったのだろうか。そう思えるほど早い時間である。あのおじさん、一体俺がボンヤリしてる間にどんだけ飛ばしたんだ――
「んー……あ、こんばんはー!」
「こ、こんばんは」
すると突然、引き戸の玄関から同い年くらいの少女が出てきた。
おじさんの娘だろうか。第一印象からして、明るく元気で太陽みたいな子だと窺える。
明るい茶髪に赤い瞳が映える。それは玄関から射す逆光でも鮮明にみえる。
「成瀬裕也って、君?」
「えぇ、お世話になります」
「あっはは、硬いよ~! もう家族なんだからさ、気軽にやっていこうよ!」
――家族、か。
「おうおう、早速か?」
一体何が早速なのか、からかうように笑いながらおじさんがやってきた。
「んー? 何が早速なの?」
「いやいや、なぁ?」
なぁ――って言われてこちらを見られても。
「――何すか?」
「ガハハ、気にするな気にするな!」
俺らの知らないところで笑うおじさんに招かれ、俺は家へと入っていく。
◇ ◇ ◇
最初に招かれたのはリビングで、全員に一通りの挨拶を済ませた。
どうやら深水家は元から大所帯であり、今回俺が入った事で家族は7人になったようだ。
内容としては、まず大黒柱となるおじさんに始まり、そこへ妻とおじさんの祖父祖母、息子と娘、最後に俺という家族構成になる。
名前は順番に康弘、恵子、和義、瑤子、優奈、祐希という。
――優奈、祐希、裕也――全部"ゆう"じゃねぇか。
「よし、じゃあ早速お前の部屋を割り当てよう。祐希、案内してやれ」
「分かったよ。じゃあ裕也君、こっちだ」
声も見た目も爽やかなイケメンに手招きされ、俺は3階――この一軒家は何と3階建てである――へ案内された。
――もし俺が女だったら間違いなく惚れてただろうな。