やってきた木立川町
電車に乗って、飛行機に乗って、また電車に乗って、バスに乗って、歩いて――と。
俺こと"成瀬裕也"は唯独り、半日と数時間にも及ぶ長旅を経て見知らぬ辺境へ来ていた。
ここは北海道の中心――旭川だか上川だか分からんが、そこいらから少し東へ行った辺りにある、地図にすら載らない町"木立川"である。
何で俺がここまで来たかというと、ここで新しい生活が"また"始まるからだ。
「んー……」
9月とはいえ、残暑がないために北海道はもう寒い。ひんやりとした空気を目一杯吸い込み、長旅で溜まった心の淀みを吐き出す。
時計を見て今気付いたのだが、高が長旅に15時間もかけてしまっらしい。朝の6時に出発したのに、もう夜の9時である。
引越し屋に荷物全部預けておいてよかったと思う。何か1つでも大荷物があれば、きっと俺はどこかで力尽きていたに違いない。
「――」
さて、俺は待ち合わせの約束を交わしてしている。
俺の身柄を引き取ると言ってくれた親戚のおじさん"深水康弘"さんだ。
おじさん曰く、どうやら大きな木の下で待っているらしいが――
「――どこだ」
普段言わない独り言を思わず呟いてしまう。
というのも、ここは高原の一角だ。北海道の高原といえば街灯がなく、ましてや夜なので真っ暗だ。木なんて見つかるはずがない。
――と、俺はここで便利アイテムを鞄から取り出す。どこかのホームセンターで買った、数十メートル先まで照らせる懐中電灯だ。
どうやらキセノンという特殊な素材を使っているらしいが――とりあえず高かったのは覚えている。
『おぉ』
心の中で感動する。まるで車のヘッドライトを片手に持っているかのようだ。
これなら探せるだろうと確信して、四方八方を隈なく照らしていく――と、何やら人影が照らし出された。
近くには木の幹。間違いなくおじさんである。俺は早速駆けていった。
「おじさん」
「おぉ、来たか。写真より男前だな」
「ははっ」
――空笑い。
「改めて、深水康弘だ。成瀬裕也でいいか?」
「えぇ。初めまして」
握手を交わす。農作業でもやっているのか、握った手は力強く逞しい。
でもって、顔も何となく厳つい。こう言っては何だが、円熟味の増したデキるおじさんって感じだ。
「そこのトラックに乗りな。すぐ家まで連れてってやろう」
「ありがとうございます」
先程は分からなかったが、確かに軽トラが停まっている。
確か、海外では軽トラが普及していないんだっけか。どうでもいいことだが。
軽トラの乗り心地は良くも悪くも無い。荷台が空っぽなために少々ガタつくが、まあこんなもんか、という感じだ。
とりあえず普通の乗用車では味わえない、そんな変わった乗り心地だ。地味に視点も高いし、何故か何となく疾走感がある――
「ガハハ、誰もいない道というのはいいもんだなぁ!」
違った。疾走感がどうのではなくて、実際に疾走していた。
どうやら豪快なおじさんのようだ。何も通っていないのを良いことに、がらんどうの道を60キロ近くで走っている。
しかも北海道の田舎道は高低差やカーブが激しいため、よりスリリングになるのは必至だ。
っつーか軽トラ速いな。こんな速度出せたのか。
「おっと、怖いか?」
「大丈夫ですよ」
「そうかそうか! じゃあもっと飛ばすか!」
「いや飛ばせとは言ってな――」
遅かった。アクセルを踏み込む事で急激にGがかかり、疲れきった俺の身体はそれに抗えず、思わず後頭部をシートに強打してしまう。
「ワハハハッ!」
「――」
初日から色々と消耗しつつ、こうして俺は深水家までやってきた。




